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鳥籠の中のコスモス  作者: 星野アオイ
シエルトス編
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第1話 ガイル・アノーマロス

――痛い


腹部を何かしらの攻撃で貫かれていた。血がひっきりなしに滴っている。目の前には人とは思えぬオーラを放つ者が立っている。自分以外にも周りに数人いるようだが、その者たちも皆地面に突っ伏して戦闘不能状態らしい。意識が遠のいていく。目の前の者が何かを言っているがうまく聞き取れなかった。だが、この言葉だけは頭に直接響いたかのように鮮明に聞き取ることができた。

「絶対に助けてみせるから!みんなが死なない未来へ導いてみせるから!!」


「…ル、…イル、ガイル」

母さんの声で俺は目覚めた。もしかして、あれは夢だったのか?夢にしてはリアルすぎたような。あたりに広がっていた血の匂いだって忘れることができないくらいに。

「ガイル、すごくうなされていたわよ。悪夢でも見たの?」

「俺が死ぬ夢を見たよ。しかもすごくリアルで、俺自身が体験したかのような既視感もあったんだ。」

そういえば、夢の最後で言われた言葉はどういう意味なんだろう。みんなが死なない未来?あいつと俺はどういう関係性なんだ?仲間もいるはずだ。そいつらは誰なんだ?そもそもあの夢はなんなんだ?


「ほら、ぼーっとしてないで支度しなさい。嫌な夢を見て気分が下がってるでしょうけど、学校に行けば友達とも話して気が楽になるでしょうし。」

母さんはいつもそうやって俺を学校に行かせようとする。別に嫌なわけではないのだけれど毎度毎度、学校につなげられるのもうんざりだ。

「別にいつも学校に行ってないわけじゃないんだから。もちろんちゃんと学校に行くよ。」

顔を洗い、朝ごはんを食べ、着替えが終わった。あとは荷物をまとめるだけ。その時、突然脳裏に情景が浮かび上がってきた。


崩壊していく町。空から何者かが自分たちを見下ろしている。家が崩れ落ち、その瓦礫の中に人がいる。


なんなんだ、これは。今朝見た夢といい、なんなのかよくわからない景色が急に脳内に流れてきたり。それに今頭に流れてきた景色、俺の住んでいる町にそっくりだ。しかも瓦礫に挟まれているのは母さん?もしかするとこのあと本当に町が襲撃されるのかもしれない。ゾッとする想像をして寒気がしたが、そんな未来予知のようなもののはずがないと気にせず準備を続けた。時間になっていつも通り家を出ようとした。しかし、さっき見た景色が頭をよぎりもしものためにと俺は母さんに言った。

「俺、母さんのこと大好きだよ。これからも一緒に過ごそうな。早死にはするなよ。」

息子が言うのも変なことだが母さんはとても美人だった。3年前に他界してしまった父の形見である蝶のネックレスを片時も離さず身につけている。

「私もガイルのこと大好きよ。行ってらっしゃい。」


今考えると、とても恥ずかしい。思春期男子にとってこれほど恥をかかせる行動はないだろう。

「お前なんか顔赤くなってね?好きな子でもできたのかよー。」

「ワイド。会って早々言うようなことじゃないだろ。」

「えー。だってほんとに顔赤くなってたんだもん。あ!もしかして、恥ずかしいことしちゃった?お漏らしとか!」

「してねえよ。16にもなってそんなことするやついるか?」

ワイドはとてもお調子者だが一緒に過ごしていて、とても心地いい。嫌な気分を吹っ飛ばすには十分に適任だ。

「もしいたらどうすんだよ。そいつ、可哀想じゃんか。」

俺たちの会話を聞いていたのか道の角から急に人が飛び出してきた。

「ガイルくん。君、なぜこの私がお漏らししたことを知っているんだ!?」

「お前のことなんて何も言ってねえよ。何自分で暴露してんだっつーの。」

こいつは確かクラスメイトの。えっと、誰だっけ。まあそれぐらい存在感が薄いやつだ。

「それも今朝だ!君は私のストーカーかい?」

「ガイルがそんなことするわけないだろ!それにお前のことつけても、なんもいいことないわ!」

自分をストーカー扱いされるのは屈辱的だが、面白いネタを知ることができた。広めるつもりはさらさらないが心の中の宝物庫に閉まっておこう。


「おい、ワイド。もう始業の時間だぞ。早く行かないと遅刻になる。」

「おう。じゃあな。俺らは先行くから。」

「何ィ!?この私を置いて行く気か。てっ、ちょっ、足速すぎるって。え、あの、ちょ待てよ!」

ちょっかいをかけてきたやつを遠目から眺めながら、俺はワイドと笑い合っていた。近づいている脅威に気付くことすらできないまま。


上空で仮面をつけた男が不敵な笑みを浮かべ、街を見下ろしていた。

「なるほど。確かに魂エネルギーを感じますね。あまり大きくないみたいですが、2つほど。ふふっ、これなら時間かけずに手中に収めることができそうです。」


「なんだか、嫌な気配が…」

「お前も感じるのか。俺もなんだかよくないことが起きる気がするぜ。」

もしかして、朝見たことが起きるのではないか。そんな考えが一瞬よぎった。だが、そんなことが起こるはずがないと理性で押し込んだ。

「所詮気のせいだ。学校へ向か…」


バキバキバキ


突然の轟音と共に地面に大きなヒビが入った。白と青を基調とした美しい町並みは消え去った。嵐が通り過ぎたかのように一瞬にして。


恐ろしいことだった。この景色が、この状況が今朝見たものと全く同じだったのだ。ならばと、俺は最悪のことが頭によぎった。


――母さん


考えもしないうちに体が動いていた。

もし、もしもあれが未来予知のようなものだとしたなら。それ以降の出来事なんて想像したくもない。だが、それが絶対にないとも限らない。そんなことはないはずだとわずかな希望を抱きながら走り出した。


「ガイル待てよ!どこ行くんだよ!」

今はワイドに構っている暇もない。今すぐに母さんの無事を、俺が見たものはただの偶然だと証明させてくれ。

「あぁ。君たち戻ってきてくれたのかい?少し足を捻ってしまったんだ。助けておくれ。」

あのお漏らしやろうか。そりゃ今まで来た道を戻ってきているわけだから、会うのは当然なんだが。今はこんな奴に構っている場合じゃない。

「ワイド。俺は確認しなければいけないことがある。そいつに構ってやってくれないか。」

「りょーかい。そこのお漏らしやろう、立てはするんだな?」


ワイドがいてくれて助かった。正直あいつはほったらかしていても死ぬことはないだろうが、念のためだ。何か起こればワイドが対処してくれるだろう。


――ハァハァ


流石に疲れてきた。いつもはなんの問題もなく歩けている通学路だが先ほどの地割れでとても歩きづらくなっている。


今までの日常が一瞬にして崩れ去ったのだと視覚的に理解することができた。なぜこの街はこんなことにならなければいけなかったのか。なぜ急に地面が割れたのか。次から次へと疑問が出てくるがそんなことをいちいち考えている暇はなかった。今は母さんの安否を一刻も早く知りたい。


あの道を右に行けばすぐ家が見えてくる。もうすぐだ。


――母さんは絶対に無事だ。あんなの予知なんかじゃない。


曲がり角を曲がった先にあったのは倒壊した家々、泣き叫ぶ子供、さまざまなところから匂ってくる異臭。そんな現実を目の前にしてもまだ信じることはできなかった。母さんはきっと避難できたはずだ。


家の前に着いた時俺は吐き気を催した。目の前には崩れた家に押し潰されて形を留めていない見るも無惨な死体があった。それを母さんと認識するまで時間がかかったが隙間から見えた蝶のネックレスで確信に変わった。

「母さぁぁん!!!!」

なんで現実になってしまうんだ。あれはただの偶然ではなかったというのか。もしかして、俺があんなものを見たせいでこんな未来に変わってしまったのではないか。俺のせいで母さんは死んでしまったのではないか。色々な考えが脳内に浮かび上がった。


――なんで。なんでなんでなんでなんで。


こうなるかもしれないとわかっていたのに。神はチャンスを与えてくれていたのに。

「俺のせいで母さんは死んだんだぁ!!!」


「大声をだしてどうされたのですか。もしや先ほどの厄災でご家族を失ってしまったとか?」

自分自身の泣き声だけが響いていた静寂をかき消すように、誰かの声が響き渡った。

「誰だ。」

「そんなに警戒しなくてもいいじゃないですか。私は名乗るほどのものでもないですので。」

仮面をつけていて口元しか見えないが不気味な笑みを浮かべているのだろう。そういうただものではないオーラを放っていた。


「なら、どっか行けよ。1人になりたいんだ。」

「そうですか。ですが私はあなたに用があってここに来たのですよ。」

「用?俺に?」

そういうと仮面の男は俺に淡々と説明しだした。

「はい。私たちはギフテッドたちを殺すついでにこの町を支配するためにやってきました。しかしながらバイトスさんは町を崩壊させることには成功しましたが、真の目的のギフテッドたちを殺すことはできなかったのです。」

全く理解できない言葉がつらつらと並べられた。またを破壊させることには成功しただと?もしかしてこいつが、いやこいつの仲間がこの町に厄災を降り注いだというのか。


「ですので、確実な死を迎えてもらうために私はあなたの前に現れたということです。」

「ギフテッド?支配?何1つ意味がわからないな。」

「まぁまぁ。ゴチャゴチャ言われましても死人と会話するほど時間はないもので。」

そういうと仮面をつけた男は短剣を取り出した。話の内容から察するにその短剣は俺を殺すためにあるのだろう。でも、死に対する恐怖は感じていなかった。死ねば母さんの元へ行けるのだから。


静かに目を閉じ、これから起こるであろう出来事を全て受け入れた。

しかしどれだけ経っても痛みを感じない。あぁ俺はもうすでに刺されて意識を失っているのかもしれない。そう思い目を開けてみた。だが目の前に広がる光景は想像していたものと違った。


「危ない。危ない。もう少しで手遅れだったね。君大丈夫?」






  

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