【一緒音声作品版】共に桑畑
(SE:田舎道を歩く足音)
(SE:遠くの鳥の声)
(SE:木々と草を渡る穏やかな風)
(ナレーション)
村のさらに奥へと歩いていく
しばらく進むと――視界いっぱいに、青々とした桑畑が広がった
枝いっぱいに茂る、大きな桑の葉
その間には、小さな実がいくつも連なっている
まだ赤く色づいたもの
そして、熟して黒紫色になったもの
(SE:風が吹く)
(SE:桑の葉が一斉にさらさらと揺れる)
(あなた)
「桑か」
(SE:足を止める)
(ナレーション)
あなたが足を止める
その三歩後ろで白巫女も静かに立ち止まり、桑畑を見渡した
(白巫女)
「随分と育っていますね」
(SE:畑仕事の音)
(村人)
「ここは村の桑畑でございます」
(SE:桑の枝を手に取る)
(村人)
「桑はありがたい木です」
(あなた)
「ああ昔から日本人の暮らしを支えてきた木だ」
(SE:葉へそっと触れる)
(ナレーション)
白巫女が一枚の桑の葉へ、そっと指を添える
(白巫女)
「葉だけではない、ですね」
(あなた)
「ああ見てみろ」
(ナレーション)
あなたは枝になった、黒紫色の実を指差す
(あなた)
「実は食える桑の実――マルベリーとも呼ばれるなそのまま食ってもいいし、加工もできる」
(村人)
「ジャムや保存食にもできます」
(あなた)
「食ってみろ」
(白巫女・少し意外そうに)
「よろしいのですか?」
(あなた)
「ああ」
(SE:実を一つ摘み取る)
(ナレーション)
白巫女は熟した桑の実を一つ受け取る
しばらく珍しそうに眺めてから――
小さく口へ運んだ
(白巫女)
「では……いただきます」
(短い間)
(白巫女・少し驚いて)
「……甘い」
(あなた・小さく笑って)
「だろう」
(白巫女・柔らかく)
「はい」
「美味しいですね、主様」
(SE:桑の葉を揺らす風)
(ナレーション)
いつもの冷静な表情が
ほんの少しだけ柔らかくなる
川で過ごした時間とは、また違う
村の暮らしに触れる
穏やかなひとときだった
(SE:再び歩き始める)
(ナレーション)
二人は桑畑の奥へ進んでいく
そこでは村人たちが
籠いっぱいに桑の葉を集めていた
(SE:葉を摘み、籠へ入れる音)
(白巫女)
「こちらの葉は……やはり」
(あなた)
「蚕だな」
(白巫女)
「はい」
(あなた)
「桑の葉で蚕を育てる」
「そして蚕から、絹を得る」
(白巫女・理解して)
「絹……」
(あなた)
「ああ」
「だから桑畑は、単なる食料生産の場じゃない」
(SE:風)
(ナレーション)
あなたは、広い桑畑を見渡す
実は、人の食べ物になる
葉は、蚕を育てる
そして蚕から得られる糸は
絹となり、人の暮らしを支える
一つの木から
いくつもの営みが生まれていく
(あなた)
「食と産業を、同じ土地から生み出せる」
「しかも桑は比較的たくましい」
「土地に根づけば、長く利用していける」
(白巫女)
「一つの作物から、次の仕事が生まれる」
「そして、その仕事がまた村を支える」
(あなた)
「そうだ」
(SE:桑の枝へ触れる)
(あなた)
「食う」
「育てる」
「作る」
「そして、売る」
(少し間)
(あなた)
「土地を豊かにするっていうのは、田を増やすだけじゃない」
(白巫女・静かに納得して)
「村そのものが、自ら豊かさを生み出せるようにする」
(あなた)
「ああ」
「それができれば、この土地は強くなる」
(SE:少し強い風)
(SE:桑畑全体の葉が、ざあっと大きく揺れる)
(ナレーション)
風が吹いた
青々とした桑畑が
大きな波のように、一斉に揺れる
白巫女はその光景を静かに見つめていた
(白巫女・穏やかに)
「……よい景色ですね、主様」
(あなた)
「ああ」
(白巫女)
「食を生み仕事を生み人の暮らしを繋いでいくこの桑畑もまた、この村の生命なのですね」
(あなた)
「そういうことだ」
(SE:桑の葉がさらさらと揺れ続ける)
(ナレーション)
小さな桑の実、一つ
一枚の桑の葉
それが人の手を通り
食となり
技となり
産業となる
目の前に広がっているのはただの畑ではない
この土地で人が生き続けるための確かな営みだった




