共に湯にて
~夜の湯~
(ナレーション)
蒼生民家――夜。
湯処には、柔らかな湯気が立ち込めていた。
あなたは湯に肩まで浸かり、大きく息を吐く。
今日一日の戦い。
洞窟の奥へ進み、多くの敵を倒した。
最奥の敵との激突。
一時撤退したものの、確かな成果を得ることができた。
全身に蓄積した疲労が、少しずつほどけていく。
静かな湯の音。
虫の音。
遠くから聞こえる村の気配。
そんな穏やかな時間の中――
「……失礼いたします」
静かな声が響いた。
白巫女が姿を現す。
戦場では見せない、どこか柔らかな表情。
湯気の向こうで一礼すると、あなたの側へ歩み寄った。
(白巫女) 「主様、お背中を流します」
(ナレーション)
どこまでも真面目な声音だった。
だがその声には、戦いの最中にはなかった穏やかさが宿っている。
(白巫女) 「今日は申し訳ありません……」
(あなた) 「なぜ謝る?」
(白巫女) 「私めが足を引っ張らなければ、最奥の敵は倒せていました。私めの力不足です」
(あなた) 「気にするな。むしろ俺こそすまなかったな。最奥に到達するまでに多くは倒せた」
(白巫女) 「それは、主様の御力ゆえに」
(あなた) 「違うさ。それにお前の疲労を考えれば、むしろ最奥で対峙する前に一度撤退するのが冷静な判断だった。こっちこそすまなかった」
(ナレーション)
白巫女は言葉を失う。
しばらくの沈黙。
湯気だけが二人の間を流れていく。
(白巫女) 「そんな……主様……」
(あなた) 「今日進み、状況が改善したのは間違いない。ゆっくりし、対策を立てた後、また行くぞ」
(ナレーション)
白巫女は静かに目を伏せる。
主の言葉を胸の奥で受け止めるように。
申し訳なさ。
安堵。
感謝。
様々な感情が混じり合う。
そして――
(白巫女) 「……ありがとうございます」
(ナレーション)
外では虫の音。
遠くから聞こえる村人たちの話し声。
戦場とは違う静けさが、そこにはあった。
村の空気も変わっている。
今日の戦いで、確実に浄化は進んだ。
(あなた) 「村にも変化があるかもしれない。少し村を見て回ろう」
(白巫女) 「はい、主様」
(ナレーション)
穏やかな返事。
それだけで十分だった。
(あなた) 「今はお前も休め」
(ナレーション)
その言葉に、白巫女は少しだけ目を丸くする。
(白巫女) 「私めは……」
(あなた) 「今日は十分働いた」
(ナレーション)
白巫女は小さく微笑んだ。
戦場では決して見せない笑み。
(白巫女) 「主様らしいお言葉です」
(ナレーション)
そして静かに湯へ手を浸す。
湯気が揺れる。
温かな時間が流れる。
(白巫女) 「では……主様への奉仕をさせていただきます」
(ナレーション)
穏やかな時間。
戦いのない時間。
守るために戦う者たちが、束の間だけ肩の力を抜ける時間。
明日になれば、再び洞窟へ向かう。
再び命を懸ける。
だからこそ――今は。
静かな湯気に包まれながら、二人はゆっくりと疲れを癒やしていく。
遠くで風が鳴る。
だが今夜は村も。
民家も。
穏やかな夜を迎えていた。




