戻るぞ、休むぞ蒼生民家【音声作品版】
(ひぐらし)
ナレーション(静かに、深く)
「二人は蒼生家へ戻る。田の水面が鈍く光っていた。」
(戸を開ける音)
ナレーション
「木と藁の匂い。人が生きてきた家の温もりが、薄暗い室内に残っている。」
(足音)
白巫女(静かに一礼しながら)
「……主様、ありがとうございます。主様のおかげで、戻れました」
ナレーション
「深く頭を下げる動きに合わせ、豊かな身体がゆっくりと遅れて揺れる。疲労を抱えた重みが、呼吸と共に静かに波打っていた。」
(囲炉裏の火音)
あなた(息を吐きながら)
「……今回は、想像以上だったな」
白巫女(小さく頷き)
「はい……」
ナレーション
「戦いの余韻は、まだ身体の奥に残っている。気の巡りも完全ではない。」
(しゃがみ込む音)
ナレーション
「腰を落とす動作に合わせ、丸みを帯びた重心がゆっくりと沈む。静かな民家の中、生きた村の音だけが遠く聞こえていた。」
白巫女(柔らかく)
「主様」
(半拍)
白巫女
「少しでも、お身体を休めてください。今は……回復を優先すべきです」
ナレーション
「戦場の声ではない。どこか柔らかい。長く寄り添ってきた者のような響き。」
白巫女(視線を落としながら)
「……あの洞窟」
(間)
白巫女(低く)
「瘴気だけではありませんでした。あれは……欲や執着にも、触れてきます」
ナレーション
「洞窟の奥で向けられていた視線。まとわりつく気配。狙われる感覚。」
白巫女(わずかに息を整え)
「もし主様の力がなければ……私めだけだったなら、この身は今頃……」
(言葉が静かに消える)
ナレーション
「胸がゆっくりと上下する。疲労と、まだ抜けきらない緊張。その両方が、呼吸に滲んでいた。」
白巫女(顔を上げ、真っ直ぐに)
「……ですが」
(火が揺れる)
白巫女
「主様が前に立ってくださる限り、私めは……最後までお供できます」
ナレーション
「そこに迷いはない。囲炉裏の灯りが、白い肌を淡く照らしていた。」
(遠くで風が鳴る)
ナレーション
「静かな民家。戦いの合間に訪れた、短い休息。」
ナレーション(少し低く)
「だが、洞窟の奥には、まだ巨大な気配が残っている。」
ナレーション
「そして――洞窟にも、この村にも、白巫女へ向けられる視線は確かに存在していた。」
(静かな間)
ナレーション
「何かが起こる。そんな予感だけが、空気に残っている。」
あなた(短く)
「……今は休むか」
白巫女(安心を含んで)
「はい、主様」
(立ち上がる音)
ナレーション
「今は、休息が必要だった。」
(風呂場へ向かう足音)
ナレーション(締め、やわらかく)
「湯気の向こうで、束の間の安らぎが、二人を待っていた。」




