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新人上級女官 シャーロット・リーベルタースの話⑥

 「……そう。マリーはそんな生活をしていたんだね。……今の生活についてマリーはなんて言っているのかな」


 殿下のお顔から完全に笑みが消えております。

 それはそうでしょう。

 愛するお方が自身の管理する居住区で冷遇されていたなど、到底許せるはずもございません。

 婚姻前のお二人に醜聞などあってはならぬと、マリー様に用意されたお部屋が殿下のお部屋から遠く離れていらっしゃるのも災いいたしました。


 「何も気にする必要はないと……ぐすっ……わたくしにも、自分について回ることで同僚達の当たりがキツくなるようなら離れなさいと……ぐすんっ……わたくし納得できませんっ! どうして天使のようにお優しいマリー様がこのような扱いを受けなければならないのですかっ」


 わたくしは気付けば殿下の御前であるにも関わらず、情けなくも涙が溢れてしまいました。

 鼻を啜りみっともなく泣き出したわたくしに、エリアス様がハンカチを差し出してくださいます。

 見た目通りとてもお優しい方のようです。

 これはギルバート様の眼鏡姿に続き、誰にも言えない秘密がまた増えてしまいましたわね。

 お礼はマリー様にお渡しいたしましょう。

 直接お声をかけさせていただいたりしたら、肉食系の多いエリアス様ファンにきっと袋叩きにされてしまいます。


 「それでその証拠とかはあるのかな。手紙でも贈り物でも、なんでもいいのだけれど」


 涙を拭きつつなんとか平常心を取り戻したわたくしに、殿下の当然とも言えるお言葉がかけられました。

 わたくしの意見だけで他者を断罪するなど賢い王太子殿下がされるわけはないのです。

 しかし証拠ですか。

 

 「……ございません」


 「そんなわけはないでしょう。何か一つくらい残っていないのですか」


 驚いたように仰るギルバート様のご意見は尤もでございます。

 当然ですわね。

 嫌がらせの証拠を被害者側が消し去るなんて、普通は考えません。

 しかしそれをしてしまうのがマリー様。

 わたくしが殿下に直接の陳情を出来ずにいた原因の一端でもあるのです。


 「本当に……あの、もしかしたらマリー様はいくつかはお持ちかもしれませんが、わたくしが知る限りは何も……。全て燃やしておしまいになりまして……贈り物は虫や蛙や蛇でしたので、マリー様がその日のうちに庭に放しておしまいになりました」


 皆様目が点になっていらっしゃいます。

 気持ちは痛いほどよくわかりますわ。

 わたくしも初めて見た時は、その意味がわからず同じような顔になってしまったことを記憶しています。


 「癇癪でも起こされましたか……。今の時期まだ暖炉に火は入れていないでしょう。わざわざその為だけに火を起こしたんですか?」


 ギルバート様のご想像は仕方のないお話かもしれませんが、わたくしは看過できません。

 常に穏やかでわたくしにもお優しいマリー様が、お手紙程度で癇癪など起こすわけがないときちんと知っていただかねば!


 「マリー様は癇癪など起こしたことはただの一度たりともございません! どのようなことがあっても物や人に当たるなどありえません。常にご自身の機嫌はご自身でお取りになれる素晴らしいお方ですっ!」


 はしたなくも大きな声になってしまい、ギルバート様を驚かせてしまいましたがこれはマリー様の名誉に関わる問題です。

 仕方ありませんわね。

 しっかりと訂正させていただき満足しているわたくしに、今度はエリアス様から質問をされてしまいました。


 「じゃあわざわざなんで?」


 困惑したように仰るエリアス様にわたくしはなんとお答えすればいいのでしょう。

 真実を申し上げるしかないのは理解しているのですが、そのあまりに自由な行動を理解していただけるか些か不安でもございます。


 「リーベルタース嬢?」


 殿下にまで先を促されてしまえば、お答えしないわけにはまいりません。

 大丈夫です。

 殿下はマリー様を愛していらっしゃる。

 何を聞いても殿下の愛が揺らぐことはないと信じております。


 「その……マシュマロを……焼きたいと仰せになられまして」


 「「「は?」」」


 そうですわよね。

 そういう反応になりますわよね。

 わたくしも初めて仰られた時にはその突飛な発想に驚いたものです。


 「あの……これはここだけの話にしていただきたいのですが、殿下とのお茶会でマシュマロがお茶菓子に出ますと、マリー様はそれを後ほど焼いてお召し上がりになる事を好まれます。殿下の前でそのようなはしたない食べ方は出来ないと恥じらうマリー様は大層お可愛らしく……あ、いえ。こほん。――ですから、嫌がらせのお手紙は、都度その燃料になりました」


 「魔石を使えば良かったでしょう。わざわざなぜ証拠品でそんなことを……」


 「魔石の場合、使い切れば再度力を込める魔術師様のお力を拝借することになりますし、そのようなことに使うのは勿体ないのだそうです。さらに言えばマリー様は指先から灯火程度はお出しになれるようになっておりますので、自身でつけた方が早く、しかもお手紙を燃やせば魔力も使い続けなくていいので『エコ』と言うものなのだとか。燃やすことに罪悪感がなく、かつ鍛錬にもなる一石二鳥の素晴らしいお手紙(ゴミ)だとお喜びでいらっしゃいました」


 ギルバート様のご質問に詳しくお答えしたところ、三名とも黙りこんでしまわれました。

 殿下はなんとも言えないお顔をなさり、ギルバート様は頭を抱えていらっしゃいます。

 下を向いたエリアス様だけ肩が揺れておりますね。

 あれは笑っておいでなのでしょうか。


 「だから言ったろーって。あの子嫌がらせ程度で泣きついてくるような子じゃねーよ」


 お顔を上げそう仰るエリアス様は、案の定目元に涙まで浮かべて笑われていらっしゃいました。

 しかし引っかかりますね。

 ()()()()()()とはどういうことでございましょう。


 「……まさか殿下方はマリー様のお暮らしぶりを以前よりご存知でいらっしゃったのですか?」


 曖昧に微笑まれたそのお顔こそが答えでした。



 なんということなのでしょう!!!



 わたくしの愛するマリー様がお苦しみになっていらっしゃる間、殿下はご存知でありながら放置なされていらっしゃったなんてっ!

 殿下はマリー様を心より愛し、大切になさっていると思っておりましたのに。

 ショックが大きすぎて倒れてしまいそうです。

 

 「なぜですか。なぜ今までマリー様に手を差し伸べてくださらなかったのですか」


 わたくしにこんな低い声が出たのかというような声が出ました。

※ 茉莉花は欠片も苦しんでなんかいません。

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