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新人上級女官 シャーロット・リーベルタースの話⑤

 目の前には煌びやかな三名の貴公子様方。

 わたくし、どうしてこの様な場にいるのでしょう……。


 マリー様がベッドに入ったのを確認してからわたくしに与えられている部屋へ戻ろうとしましたところ、ギルバート様に呼び止められそれはもう驚きました。

 そうして訪れました本日二度目の王太子殿下の執務室。

 なぜかわたくしは応接セットに腰掛けることを許され、ギルバート様が入れてくださった紅茶を前に、これ以上ないと言うほどの緊張を強いられております。

 

 正面のソファに腰掛けているのは麗しの王太子殿下。

 こんな夜更けでございますのに、一切の乱れなく整えられたお姿は流石の一言でございます。


 そして立ったまま後ろに控えていらっしゃるのはマリー様の義兄君であり、殿下付き近衛隊である三番隊の副隊長でいらっしゃるエリアス様。

 短く切りそろえられている少し癖のある榛色のお髪は癖のままに遊ばせており、くりっとした翡翠の瞳と相まってどこか犬っぽさを思わせるその容姿は一部のお嬢様方から絶大な人気を誇っているとか。

 大層な剣術の才がおありだそうで、その実力は騎士団長様と同格とも言われているお方でごさいますが、年齢と経験不足を理由に一小隊の副隊長の地位にいらっしゃるとても謙虚なお方だとも聞いたことがございます。

 鍛錬をするお姿はとても凛々しく、普段の可愛らしさとのギャップが堪らないと、公開訓練の日は毎度エリアス様見たさのご令嬢方が騎士団に押し寄せていらっしゃるのは有名なお話です。

 

 そしてギルバート様といえば、わたくしと殿下にお茶を出してくださった後はデスクに戻り、黙々と何か作業をなさっていらっしゃいます。

 頸の後ろで結ばれ背中まで伸ばされた銀のお髪は殿下とは対照的で、アメジストに輝く瞳はクールなギルバート様の魅力を一層引き立ててございます。

 お仕事をなさる時だけかけると噂の眼鏡姿を拝見したなんて言ったら、わたくしはきっとギルバート様ファンのご令嬢方に秘密裏に消されてしまうに違いありません。


 そしてその中にただの女官でしかないわたくしが一人。

 なぜ私はこのように麗しい方々の中にいるのでしょうか。


 「こんな時間にごめんね、リーベルタース嬢」


 「はい。あ、いえ、とんでもないことでございます」


 おっといけません。

 ついついボケっとしてしまいましたが、今は王太子殿下の御前です。

 気を引き締めなくてはなりませんね。


 「そんなに硬くならなくていいよ。楽にして。君はマリーの事をよく見てくれているみたいだったから、もう少し話してみたかっただけなんだ」


 そう仰る殿下は相変わらず心臓に悪い微笑みを浮かべていらっしゃいます。

 そのお顔にはマリー様への愛が全面に現れていて、マリー様大好きなわたくしとしてはとても嬉しく思うのです。


 実際殿下の行動はとてもお早くございました。

 わたくしがマリー様のお部屋に戻りすぐ、殿下の補佐官のお一人が御夕食を共に取られる予定でいるようにという旨の知らせをお待ちくださったのです。

 わたくしは燃えましたわ。

 着飾ることがあまりお好みではないマリー様ですが、それはもうありとあらゆるお願いをし全身磨き上げさせていただきました。

 晩餐ではございませんのでドレスは質素なものにいたしましたが、それでもわたくしのマリー様お仕え歴最高の仕上がりになっていたと自負しております。

 わたくしの発言の意図を理解し素早く守るために動いてくださった殿下への心よりのお礼のつもりでございましたが、あのご様子ではきっと満足していただけたことでしょう。

 給仕の際のお二人の姿を思い出し、はしたなくも頬が緩んでしまいそうです。


 「それでね、リーベルタース嬢。昼間の君の様子ではまだ何か言いたかったんじゃないかなって。――なんでもいいよ。ここで何を話しても君本人は勿論、君の実家であるリーベルタース商会に不利益など絶対に起こり得ないと王太子の名に賭けて約束しよう」


 驚きました。

 なんという事でしょう。

 つまりこの場はわたくしの為にご用意くださったと。


 わたくしは感動で胸が打ち震えました。

 殿下であれば人を使い現状を調べることは容易いはずです。

 そうして知った真実を元に粛々と断罪なさればよろしい。

 それだというのに!

 わたくし自らアリシア様方の罪深き所業を殿下へお伝えする機会をくださるなんて!

 殿下の大切なマリー様をお守りできず、ただ案山子のようにお側で見ているしか出来なかったわたくしのような不届き者の無念を晴らす機会をくださるなんて!

 なんて懐の広いお方なのでしょう!


 わたくしは殿下へ、それはもう切々とマリー様の現状を訴えました。


 始まりは小さな嫌がらせだったこと。

 しかし最近ではどんどんエスカレートし、今では殿下と同席する時以外はまともなお食事など出来ていらっしゃらないこと。

 授業にしても、刺繍担当のトゥルク子爵夫人とダンス担当のミザーレン侯爵夫人はマリー様に対する蔑みが顕著で、ひたすら嫌味を言われ続けるだけのあんなものは授業とは呼べないこと。

 そして洗濯に出したマリー様の衣服が中々帰って来ず確認に向かったところ、アリシア様の指示で常に後回しにされていたこと。

 他にもお針子部屋や庭師達など、様々なところでアリシア様の息がかかっており、マリー様はご不便な生活を強いられていること。

 しかし商家出身の上、上級女官として経験の浅いわたくしではその命令を覆すことが出来なかったこと。

 勿論アリシア様方がいくらお仕事をなさらないといえ、マリー様にお掃除をさせてしまったわたくしの至らなさは誠心誠意謝罪させていただきました。


 そして一番酷いのは検閲の官吏たちでございます!

 彼らはマリー様宛のお手紙や贈り物を危険がないか確認する為に存在しているにも関わらず、一切何もしていらっしゃらないのです。

 この一ヶ月で内定した王太子殿下の御婚約者様の存在は、高位貴族のご令嬢方にも認知され始めております。

 お陰で嫌がらせの贈り物や気味の悪いお手紙が届いているというのに、その全てが確認もされずにマリー様のお部屋に届くのです。

 先日オルゴールサイズの箱から大量の虫が出てきた時には、みっともなくも泣き叫び卒倒しかけてしまいました。

 しかしそこはマリー様でございます。

 出てきた子らをサクッと箱に戻し、さっさと庭に放ってしまったのだから格好良すぎるではありませんか。

 わたくしはあの時、一生マリー様について行くと決めたのですわ。

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