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新人上級女官 シャーロット・リーベルタースの話②

信者による茉莉花ベタ褒め回

ようやく茉莉花の詳細な容姿が書けましたが、信者フィルターにより三割り増しです

 「……申し訳ございません」


 目の前には使用人用の食堂から分けていただいた賄い用のスープと、乾燥して硬くなったしまったパン。

 あまりの事態にわたくしは恥ずかしいやら申し訳ないやら犯人達に腹が立つやらで顔を上げることが出来ません。

 

 「どうして? 温かいし美味しいし私はこれで充分」


 泣きそうになっているわたくしにそんなお言葉をくださるマリー様は天使様かなにかなのでしょうか。

 とても王太子殿下の御婚約者様がお召し上がりになるようなお食事ではないと言うのに、文句一つ付けることなくスプーンをお持ちになっていらっしゃいます。


 「いけません! わたくしがお毒味を」


 「使用人用のスープに毒なんか入れる人いないでしょ。シャーリーがそんなことするわけないしねー」


 殿下の御寵愛を一身に受けていらっしゃるマリー様に何かあれば、この王宮に血の雨が降ることは必至。

 さらにお側についていながら何も出来なかったなどとわたくしも自分が許せません。

 そう思い毒味薬を買って出ましたのにそんなことを言われてしまったら、わたくしのマリー様愛も爆上がりするというものです。

 

 異動を言い渡されて早三週間。

 わたくしはマリー様のことが大好きになっておりました。

 シャーロットの一般的な愛称であるチャーリーやロティではわたくしに似合わないと、シャーリーと付けてくださった愛称(それ)は今やわたくしの宝物でございます。



 まずはわたくしがマリー様を敬愛する理由をお話ししましょう。

 その一はその容姿。

 神秘的な黒髪黒目に華奢なお体。

 常に天使の輪が輝くお髪は艶々のサラサラ。

 肩甲骨下程まで伸ばされた髪は柔らかく、少し癖がつきやすいのでしょう。

 寝起きのマリー様の可愛らしさたるや筆舌に尽くし難い魅力がございます。

 そしてそれを梳かして差し上げるのがわたくしの密かな楽しみでもあるのです。

 元々美しいお髪ではありましたが、我がリーベルタース商会一の香油を使用する様になってからはさらに美しく輝き、わたくしも大変満足ですわ。

 お顔も美人というよりはお可愛らしい顔立ちでどちらかと言えば童顔ですが、やはり目を惹くのはその瞳でしょう。

 黒曜石の様な瞳は縦幅大きめのアーモンドアイ。

 くりくりっとした目元にピンクベースでアイメイクを施せば、庇護欲唆られる美少女が完成いたします。

 それだというのにブルーやグリーンでミステリアスに、ブラウンやゴールドで大人っぽく、似合わないお色はないのではというほど様々な仕上がりになるのですから、飾りがいがあるというものです。

 そして入浴をお手伝いする際に気が付きましたが、マリー様は骨格自体がとても華奢でいらっしゃいます。

 身長も確かにお小さいのですが、実際には平均ほどのわたくしと十センチも違わないでしょう。

 それなのにお小さく見えてしまうのは、お顔も肩幅も全てがこの国の人よりも小さいから。

 わたくしがマリー様のことを『異界から来た殿下の運命の相手』説を推させていただく理由その一ですわね。

 アリシア様などは元孤児だと蔑んでいらっしゃいますが、わたくしはそれだけは絶対に違うと確信しております。

 ご挨拶初日よりマリー様のお髪は輝き、お手も労働をご存知の方とは思えぬほど柔らかく、きちんとお手入れされていらっしゃいました。

 お肌もともすれば青白く見えてしまうほど透き通っていて、急いで赤みを足す為のベースメイク用品を実家の商会より取り寄せたほどなのです。

 マリー様が保護されたとされる事件からもう一年という方もいますが、たった一年で元孤児が令嬢のような見た目になるのは不可能というもの。

 そんなお手入れ用品があるならお父様が売り出していないはずがないのです。


 そしてその二にお人柄。

 迎賓館に配属されていたわたくしは知っています。

 貴公子の方々の前では美しく淑やかに装っていても、わたくしども使用人の前では豹変する御令嬢方がほとんどであるということを。

 とくに高位貴族の御令嬢ほど顕著で、あれは昨シーズン建国記念の夜会の時でございました。

 王太子殿下に突撃して軽くあしらわれたのでございましょう。

 休憩室として解放されたお部屋でメイクを直すその姿は、別人の様に醜く歪んでおりました。

 常々自身こそ殿下の婚約者候補筆頭だと仰り傍若無人に振る舞うそのご令嬢は、あろうことか八つ当たりとして給仕をしていた同僚に紅茶のカップを投げつけたのです。

 まだ湯気が立ち上っていた紅茶をかけられたその同僚は火傷をし仕事に支障をきたしたにも関わらず、ご令嬢の不興を買ったとしばらくの減給処分になりました。

 きっとあの方のようなご令嬢が御婚約者様であったなら、わたくしは王宮を辞していたでしょう。

 しかしマリー様は違います。

 バートン伯爵夫人が領地へお戻りになり辛いお立場にあるにも関わらず、常にわたくしを気遣いお優しい声をかけてくださるのです。

 今もアリシア様の嫌がらせにより粗末なお食事しか召し上がることが出来なくても、癇癪を起こしたことなど一度もございません。

 きっとマリー様に用意されたお食事はどこかのゴミ箱にでも捨てられてしまっていますわね。

 なんとおいたわしいことでしょう。


 そしてその三の勤勉さ。

 マリー様の朝はお早いのです。

 日の出とともに起床され、身支度を整えて向かうのは書庫でございます。

 勿論マリー様はわたくしに朝早くから侍る必要はないとお気遣いくださいました。

 しかしマリー様のお立場に相応しい装いというものがあるのです。

 マリー様が使用人のお仕着せのような服をお召しになるなど言語道断だとわたくしの方よりお断りさせていただきました。

 これはわたくしの女官としての矜持の問題なのです。

 そうして訪れた書庫で、マリー様は王太子妃殿下になられるための授業の予習をなさるのです。

 元孤児に字が読めるはずがないというのは、アリシア様方には理解できないのでしょうか。

 しかも数学と経済学、そして楽器は教える必要なしとして授業が免除になったと聞いた時、わたくしは感動いたしました。

 実家が商家の為元々数字や経済に強い方というのはそれだけで尊敬に値しますが、マリー様の知識に太鼓判を押したのはかのベルモント卿だと言うではありませんか!

 ベルモント卿が他人を褒めるなど、わたくしは聞いたことがございません。

 王立学園で教鞭をとっているかのお方は生徒から鬼と呼ばれ、どんなに優秀な方でも最高評価など絶対にいただけないと有名な先生でもいらっしゃいます。

 その様な方に認められるマリー様が元孤児であろうはずがないのです。

 そしてその高い教養こそ、マリー様が『異界から来た殿下の運命の方』説を推す理由その二ですわ。

 だというのにいつまでも認めないどころか、あまつさえ嫌がらせをするなど愚の骨頂。

 本当に馬……いえ、頭のよわ……思い込みの激しい愚か者というのは扱いに困りますわね。

 

 王太子殿下に陳情申し上げようにも、アリシア様方は図々しくも殿下とマリー様のお茶会の予定だけはどこからか聞きつけ馳せ参じるし、当事者のマリー様は気にしていらっしゃらないし……。

 

 どうにかマリー様をお助けしたい。

 わたくしが毎日そんなことを考えていたある日のこと。

 天はマリー様を見捨ててはいませんでした。



 王太子殿下より、マリー様のお部屋付き女官全員の召喚が言い渡されたのです。

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