新人上級女官 シャーロット・リーベルタースの話①
信者視点から見たヒーローヒロインの二人。
普段と違った雰囲気で仕上げてみました
番外というより短編に近い長さになってしまったのは想定外です
長いので一日複数回更新で二日で完結します
目の前には煌びやかな三名の貴公子方。
わたくし、どうしてこの様な場にいるのでしょう……。
始まりはひと月程前のことでございました。
「異動、でございますか?」
わたくしが何か粗相をしてしまったのでしょうか。
言いづらそうに仰った女官長様のお顔は、大変険しい表情をなさっておいでです。
しかしわたくしの表情から勘違いを察してくださったのでしょう。
女官長様が仰るには、なんとついに王太子殿下の御婚約者様が内々に決まり、わたくしはその方のお部屋担当に異動になったと!
正直大変驚きました。
確かに王族の方々のお部屋付きというのは上級女官の業務であり、わたくしも三ヶ月程前に昇格試験に受かったばかりとはいえ資格はございます。
しかし! しかしです!
たった三ヶ月! たった三ヶ月なのです。
ましてわたくしは高位貴族の生まれなどでもございません。
それなりに手広くやってはいますが、所詮は商家の出。
準王族として扱われる御婚約者様のお側にお仕え出来る経験も、未熟であることをカバー出来るだけの身分もないのです。
「リーベルタース、貴女の気持ちもわかるけれど今日付けで異動になるわ」
そう言いながら渡された王妃様のサイン入りの任命書には、間違いなくわたくしシャーロット・リーベルタースの名前が書かれておりました……。
正直言えば荷が重いですが、任命されてしまったものは仕方がありません。
出来るだけ粗相をしないよう、壁と一体化して過ごすことを決めて向かった事前説明の為のお部屋で、わたくしは女官長様の表情の意味を知りました。
まずいらっしゃったのがアリシア様。
フォンティーヌ伯爵家のご令嬢で、それはもう山よりも高い自尊心をお持ちのお方。
高位貴族の次女三女が珍しくなく比較的我儘な方が多い上級女官の中でも、一二を争う苛烈な性格をお持ちのお嬢様でいらっしゃいます。
そしてアリシア様の腰巾着でいらっしゃるウォルト子爵家のメリッサ様と、その双子の妹でいらっしゃるレベッカ様。
そしてマイセン男爵家のメアリー様は、騎士団に入り浸って仕事など全くしないと有名な方でいらっしゃいます。
このメンバーにわたくしが入れられた理由を早々に察し、気が遠くなる様な思いがいたしました。
そしてバートン伯爵夫人がいらっしゃるまで、わたくしは御婚約者様の様々な噂を聞いたのです。
曰く、この国の守り神様でもある龍神様が王太子殿下の為に異界から呼び寄せた、殿下の運命のお方である。
曰く、悲劇の国リーフェミアの生き残りにして、巫女姫の能力を受け継ぐ聖女様である。
曰く、昨年爵位及び領地召し上げの上、一族全員が処刑となったフェルドナ元伯爵家の被害者で、悍しい魔術研究の被験体にされていた元孤児である。
他にも眉唾物の噂の数々がアリシア様たちのお喋りから飛び出して参ります。
わたくしが外宮にある迎賓館で何も知らずに働いている間も、内宮ではすでに御婚約者様のお話で持ちきりだったとか。
噂話には敏感に耳を澄ませている自信があったのですが、まだまだでございましたわね。
これにはわたくしも反省せねばなりません。
そうこうしている間に御婚約者様唯一の侍女であるバートン伯爵夫人がいらっしゃり、わたくしたちは揃って後宮にある王太子殿下の居住区に向かったのです。
そして通されたお部屋で、わたくしは衝撃を受けました。
御婚約者様はお部屋の窓際に設置されたティーテーブルにちょこんとお座りになっていらっしゃいました。
ちょこん、です! ちょこん!
わたくしの耳には間違いなくその効果音が聞こえましたわ。
バートン伯爵夫人から十八歳と伺っておりましたが、それよりもずっとお若く見えるのはその身長のせいでしょうか。
それともお肌でしょうか。
黒々としたお髪は艶やかで、陽の光に反射して天使の輪が出来ていらっしゃいます。
「マリー様、お部屋付きの女官達をお連れしました」
バートン伯爵夫人の声に御婚約者様――先日リュグナス辺境伯家の養女となり、マリー・フォン・リュグナス辺境伯令嬢となられたお方がこちらに視線を向けた瞬間、同僚達が息を飲んだのがわかりました。
黒髪に黒い瞳というのはこうまで神秘的なものなのですね。
その特徴を持った娘を巫女姫として崇めていたリーフェミアの人々の気持ちがわかるような気がいたしました。
「皆さんが私のお世話をしてくださる方々? これからよろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀をしてくださる姿は可憐としか言いようがありませんし、お声も鈴を転がした様にお可愛らしい。
なにより使用人でしかないわたくしども相手に、わざわざ立ち上がり歩み寄ってきてくださったそのお人柄!
王太子殿下がお心を寄せられるのも納得というものです。
殿下の威光を笠に着てやりたい放題――そんなご令嬢を想像して心配していたわたくしが恥ずかしくなりました。
さすが国民すべての者が敬愛する王太子殿下でいらっしゃいます。
わたくしは殿下に対する不敬ともとれる想像をしていた自身を恥じ、誠心誠意マリー様へお仕えすることを決めました。
しかし、わたくしの不安は的中してしまうのです。




