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私、あなたみたいな人大っ嫌いなの

 「待ってマリー、ついでに適正と正確な魔力量調べて行こう。街の聖堂でも出来るんだけれど、どうせなら今やってしまおう?」


 さっさと出口に向かっていた茉莉花が振り返ると、同じように立ち上がったナサニエルが魔石の前でこっちこっちと手招いていた。ずっと変わらず輝き続けるその石は、見れば見るほどナサニエルの瞳の色に似ている。


 「これ即位とか国事に使う石って言ってなかった? なにするの」


 「こうするんだよ」


 そう言いながら右手の人差し指を左手の薬指につけた途端、ほんの小さな傷が出来た。そしてその指からぷっくりと血液が盛り上がって来た事を確認すると、魔石の上に傷がある手を置いたのだから驚く。大事な石を汚してしまっていいのだろうか。

 しかしそれだけでは終わらなかった。魔石が強烈に輝きだしたのである。


 「これが魔力測定だよ。私の場合光が強過ぎて見られないけれど、マリーなら魔石に浮かぶ適正もきちんと読めると思う」


 「いきなりビックリした。目潰れるかと思った」


 正直な感想を述べたら笑われたが、あんなもの見せるのは予告してからにして欲しいと思う。日本なら有名アニメ映画のモノマネをし始める人が続出しそうな光だったのだから、目に優しくないどころの騒ぎではない。


 「マリーの利き手は右だよね? なら左にしようか」


 測定に利き手は関係あるのだろうか。そう質問するよりも先に、気づけば左手を取られ薬指に小さな傷を作られていた。先程一瞬見た時にはわからなかったが、小さな鎌鼬のようなもので切ったらしい。地味に痛い。文句を言えば治してあげるからと言われたけれど、そう言う問題ではないだろう。


 「娘、本当にやるのか?」


 「え、やっちゃダメなの?」


 まさかシルヴェストからストップが掛かると思わなかった。やはり即位に使うような石を王族以外が使うなどあり得ないとそう言うことか。


 「……いや、構わん」


 一体何なのだろう。ナサニエルが何か企んでいるのかもしれないが、ここまで周到に囲い込み、半強制的に結婚の約束まで漕ぎつけておいてこれ以上ひどい事態もないだろう。

 しかし茉莉花が手を置いても何も反応しない。なぜ。


 「マリー、魔力を流すんだよ。力を石に流し込むイメージで。ほんの少しで大丈夫だから頑張って」


 言われて手のひらに集中してみれば、薄ら輝きが強まって来た。ナサニエルの時とは違い強烈な光はないが、それでもきちんと輝いている。

 しかし一番に目を引いたのはその色だった。


 「なんか赤くなったんだけど」


 「魔力を流している間は、その人の一番強い適正を示す色になるんだよ。マリーの場合は火だね。それから風と光、時もある。私の妖精は可愛らしい上に魔術師としても優秀らしい。さすがマリーだ」


 さすがと言われても元々自分が持っていた力では無い。神様から貰ったものなら優秀なのも当然なのでは。

 ただそれよりも突っ込まなければいけないものがあった。


 「……なんか指輪嵌ってるのはなんで?」


 今茉莉花の左手薬指には、見たこともないキラキラとした指輪が嵌っている。魔石に手を置いたらいきなり登場したこの指輪は何なんだ。嫌な予感しかしない。


 「『正妃の指輪』だね」


 だね。ではない。意味がわからない。ジト目で睨んでみても、麗しの王子様はどこ吹く風。全く意に介していない様子のナサニエルに呆れたのか、シルヴェストが説明してくれた内容はとんでもないものだった。


 「娘、お前は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。神の前で誓いの口づけを交わし、魔石を通してお互いの血液と魔力を融合させた。その指輪はお前たちの力の結晶体だ」




 …………………………。




 …………もう呆れて言葉も出てこない。だからシルヴェストは直前に確認していたのか。

 確かにナサニエルは言っていた。()()に使われる石だと。王族の婚姻もきっとそれに含まれるのだろうことも想像は出来る。しかし、しかしだ。ここまでするかと言うのが茉莉花の本音である。ここまでのやり取りはなんだったんだ。


 「……賭けの話は」


 大事なのはそれ。約束が有効で、日本に帰れる道があるならもうそれでいい。


 「勿論公式に婚姻を結ぶまでが期日。それはあくまでマリーが城内で侮られないようにする為の保険だよ。それさえあれば事実上の王太子妃として扱われるからね。嫌なら隠匿の魔法でもかけておこうか」


 あまりの腹立たしさにいっそ抜いてやろうとしたら触れないのだから不思議な指輪だ。物質というより本当にただ混ざり合った力が目に見える形になっているだけなのだろう。


 「約束がきちんと守られるならそれでいいわ。一年半後には私は帰る。だからこれは他の人に見えないようにしておいて」


 顔も見ずに告げれば正面に回ったナサニエルが茉莉花の足元に跪き、左手をうっとり眺めるその顔からは喜びが溢れている。指に輝く指輪が嬉しくて堪らないというのがありありとわかるその姿に、龍の生態の残酷さを見た気がした。


 「マリー、私の唯一。私の番。君の愛を得られるのなら他に何もいらない。君の為ならなんだってするよ。どうか私と共に生きて」


 「うっさいこの詐欺師っ!!」


 何が愛だ。ここまで人を虚仮にしておいて。騙し打ちのように囲い込むことが愛ならば、そんなものは自分はいらない。

 ナサニエルは嘘はつかないと言った。これまでのやり取りを思い返しても、嘘はつかないと言った言葉含め全て真実なのだろう。()()()()()()()()だ。大切な事を何もかも。真実を知った時に茉莉花がどう思うのかなんて、何も考慮されてはいない。


 「詐欺師なんて人聞きが悪いな。私は君を逃したくないだけだよ。私と結婚しよう? どうか私の妃になって」


 この笑顔を胡散臭いと思った自分の直感は間違っていなかった。


 「私、あなたみたいな人大っ嫌いなの」


 傷ついた顔をされても知るもんか。やり方が汚い。気に入らない。それだけで拒否する理由には充分だ。


 ――もう絶対同情なんかしてやらない。


 茉莉花はその決意を胸に、部屋に戻るべく踵を返した。

やっと!やっと出会いが終わりました。

次回何話か幕間番外挟みましてようやく他キャラ登場の二章へ。

二章は婚約発表の夜会からスタートします。

番外編は修行回ともいえる勉強しかしていない約三ヶ月間の茉莉花がどう過ごしていたかという読まなくても全く支障のないお話に仕上げる予定。

最後までお付き合いいただけましたら幸いです。

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