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声を大にして正当防衛を主張したい

長すぎるので切れるところで二分割、

二話同時更新しております。

 「ごめんごめん、冗談だよ」


 笑い事ではない。そう、笑い事ではないのだ。

 ナサニエルの頬はしっかりと赤みが刺し、一眼見て他者に引っ叩かれたのがバレバレなのである。茉莉花の声を聞きつけた護衛がこちらを伺っているのが見えるし、こんな状態で外に出たら投獄は確定。声を大にして正当防衛を主張したいが、身分制度なんてものが残ってる世界でどこまで通用するのだろう。曲がりなりにも王太子を殴ったとなれば、本人が許しても周りが大激怒するに決まっている。今まで散々手を上げてきて今更だが、まさか本当に受けると思わなかった。


 「なんで避けないのっ! 今まで散々止めてきたんだから止めるか避けるかしなさいよ!」


 随分身勝手な言い分なのはわかっているが仕方ないと思う。どう考えても好き放題セクハラかましてくる方が悪い。


 「からかい過ぎたお詫びだよ。それにそんなに焦らなくても誰にもバレないから大丈夫」


 護衛に向かって手をひらひら。何もない事を確認した護衛が元の姿勢に戻るのを見届けて、視線を戻した先で驚愕の光景に目を見張った。

 ナサニエルの顔は何事もなかったかのように、お綺麗な状態に戻っていたのだから。


 「え?……なんで?」


 見間違いかと思いパチパチと瞬きしてみても変わらない。そこには相変わらずお綺麗な顔に胡散臭い微笑みを浮かべている男がいるだけだ。その顔には先程の赤みは無く、とても平手打ちされた直後には見えない。


 「魔法で治療したんだよ」


 ――魔法で治療。


 また驚愕の言葉が飛び出してきた。ファンタジー世界だと思っていたが、まさかここまでファンタジーとは。まぁエルフ族の末裔だの、会える神だのいれば魔法くらい使えて当然なのかもしれないが。

 しかし驚きはまだ終わらない。続いたナサニエルの言葉に、茉莉花はとんでもなく驚いた。


 「適正次第だけど、この程度ならマリーもできるんじゃないかな」


 聞けばどうやら異世界に召喚された際、シルヴェストから魔力を付与されているらしい。それが体に馴染み、茉莉花のものになるのに時間がかかった為、一週間も眠り続ける羽目になったと。


 「じゃあ私も魔法使えるの?」


 それは少し楽しいかもしれない。異世界召喚と言えば剣と魔法の世界が定番だが、例に漏れずこの世界もそうらしい。ナサニエルとのことは一旦置いておいて、来てしまった世界は楽しまなければ勿体ない。


 「魔法は適正次第かな。魔術なら、国の魔術師団くらいの威力は出せると思うよ」


 「違いがわからないんだけど」


 魔法と魔術、何が違うと言うのだろう。


 「魔法は適性がなければ使えないけれど、すぐに発動するし威力が高い。魔術は術式に魔力さえ流せば発動するけど、時間もかかるし威力も弱い、かな。詳しい話は王太子妃になる為の教育として教師をつけるよ」


 ――王太子妃になる為の教育。


 あまりにセクハラがひどい為に忘れるところだった。

 色々わからないことだらけで手探りだが、この賭けを受けなければ帰る手段を無くして強制結婚コースなのだから仕方ない。しかし期間はきっちり決めなければならないだろう。結婚式までと言うのは曖昧過ぎる。


 「具体的な期間は。結婚式までってあなたの気持ち次第でいくらでも先延ばし出来るじゃない。最短でどのくらいなの」


 「そうだね。……それなら一年半後かな。うちの社交シーズンは十二の月の始まりから八の月の頭までだ。マリーには次のシーズンの始まりの夜会に婚約者として出てもらう。今は八の月の終わりだから約三ヶ月後だね。――そこから一年の婚約期間を経て、冬だと雪国の使者が大変だから春に式。勿論勉強が遅れたらその分は式が先延ばし。本来何年も掛かる教育を一年半でやるのは大変だよ?」


 ――だからもっとゆっくりしよう?

 そう言って伸ばされた手を叩き落として立ち上がる。長時間座っていたらお尻が痛くなってしまったし、直座りしていた所為でドレスも酷い有様になっている。

 しかし数十分前までは退路が全くなかった事を考えれば、それだけの価値がある時間だっただろう。


 「上等よ。最短でクリアして私は帰るわ」


 正直置いていってしまった後のナサニエルの事を考えると心が痛むけれど、それはあくまで同情であって恋ではない。近くにいるのに心が通じないよりも、いっそ会えない方がお互いの為だ。


 「帰すわけがないでしょう?」


 どこからその自信が来るのか、茉莉花の手を取り甲に口付ける姿は随分と余裕そうだ。

 しかし何を言われても帰りたい気持ちに変わりはない。同情だけでは捨てられないものが、日本には沢山あるのだから――。

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