その3
遅くなりました。最新話になります。
読んでいただけると嬉しいです
光明高校駅周辺は、今日も大量の人間で溢れている。
電車内はぎゅうぎゅうだったし、駅を出てもぎゅうぎゅうだ。
学生だけならまだしも、通勤、乗り換えなどにも使われる大きな駅のため仕方がない事だが毎朝辛いものだ。
上野からこの入部届を貰って、1週間が経った。俺はいまだに答えをだせずにいた。
空白のプリントを眺めるばかりだ。正直、入りたい気持ちもある。俺は脱ヲタを計画したが好きなものを捨ててまで手に入れた青春に意味はあるのだろうかと思うことは確かにあった。
上野のように自分の好きを全力で推してもいいんじゃないかと。
だが、俺にも意地がある。ここまでしてきた努力や我慢は人生の中で1番してきたと言ってもいい。
妹にもかなり手伝って貰っている。
俺は二次元を推していたのではなく、二次元に逃げていたのだ。だから、変わらなければならない。
俺は入部届を握りしめる。握りしめた拳が痛い。
「あら、入部届をぐしゃぐしゃにして、バラされたいの?」
右隣から突然かけられた声に、俺は驚きつつ顔を向ける。
視線の先にいたのは上野だった。彼女は今日も変わらず私物にアニメのグッズをまとっている。
なんなら、増えている。
流石にじゃらじゃらすぎるのもどうかと思うが…と、考えつつ、かつての自分もそうだった思い出すとなんだか笑えてくる。
「今日も上野は上野だな。」
「何当たり前のこと言ってるのよ。頭おかしくなった?」
「誰のせいだと思ってんだよ」
「私は悪くないわよ?」
この女……まぁ、悪くはないのかな?
「それで、もう1週間が経つけど答えはでたの?」
「……いや…まだだけど…」
俺は上野から視線を逸らす。
「早くしないと、バラすわよ?」
「それは勘弁だ。てか、お前はなんでそんなに俺を勧誘するんだ?ヲタクなら他にもいると思うけど……」
この学園にまだ、どんなやついるのかは分からないがアニメ関連も大きく拡がってきているこのご時世だ。
ヲタクのやつがチラホラ居てもおかしくない。なのにこいつはヤケに俺に執着する。
「簡単なことよ」
「え?」
「好きなものを好きだと言えないそんな世の中を変える前に、好きなものを素直に推せないそんなあなたを、変えてみようと思ったのよ。」
「なんだよ…そんな大袈裟なこと出来るわけないだろ?」
「分かっているわ、だからまず、身近なあなたを変えて私の手伝いをさせようって思ったのよ。」
「お前は、手伝いじゃなくて雑用を押し付けようと思っているだけだろ?」
「あら、あなたが私をどう思っているのかのよく分かったわ」
上野は不機嫌顔で、髪を揺らす。
俺はそんな上野の少し後ろを歩く。
好きなものを好きだと素直に推せないか……
上野の言葉は確かに正しい。この言葉が俺の迷いに響く。
仮に勧誘のための売り文句なのだとしても今の俺にはかなり効いている。あんなことを言われてしまったら、俺の心が黙っちゃいない。
けれど、そんな簡単に戻ることなんてできない。
俺はもう一度、ぐしゃぐしゃの入部届けを見る。
今は答えを出せなくても、部活をしながら考えればいいかもしれない。あの地下教室じゃバレなさそうだしな。けど、そんな半端な気持ちで上野は許してくれるだろうか?
考えを巡らせているうちに、6限までの授業はすぐに終わってしまっていた…
ありがとうございました。
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