その8
これにて、「脱ヲタ主人公と部活動」は終了になります。次回からもご期待ください
その後俺たちは、近くのコンビニで食べ損なったお昼を食べた。おにぎりだけでも家族以外の誰かと久しぶりに食べた食事には、特別感を感じられた。ちなみに上野は高菜が嫌いらしい。
俺は絶対明太子と決まっているため、今日も明太子を食べる。イートインスペースで黙々と食べてから、俺はふと思ったことを口にした。
「15時じゃ、お昼ご飯の時間じゃないな。」
「そうね。まさかコーヒーを浴びることになるなんて思ってもなかったから仕方ないわ。」
「まぁ、そうだな。誰だって予想出来ねぇーよ。」
「そのくらい予想しなさいよ、誠くんのくせに」
「無茶言うなよ!?それと、俺は誠だ。んで?次はどうする?」
俺の問いかけに、上野は少し考える素振りを見せてから
「帰る?」と言った。
「いや、なんでだよ!今日何しに来たんだよ!」
「あら、言ってなかったかしら?私が貴方をここまで連れてきた理由を」
「聞いてないぞ。なんだよ、理由って」
「分からないならいいわ。そうね、次はゲームセンターにでも行きましょ」
いや、めっちゃ気になるんですけど。
だが、この様子だと教えてくれなさそうだな。俺は黙ってゲームセンターに向かう上野について行くことにした。
近くのコンビニから数分、秋葉原駅から3分の場所にあるここは、1階から5階まである大きなゲームセンターである。アーケードゲームやUFOキャッチャーに、一番くじなど色々とあり、都内のゲーセンなだけあってかなりの充実っぷりだ。
「へぇー、久しぶりに来たけど変わらないなぁ」
俺はこれまた久しぶりに来たゲーセンに故郷に帰ってきたような安心感を感じていた。
「全く。脱ヲタなんて考えなければいつでも来れるというのに……バカなの?」
上野はそう言いつつ、近くにあったクレーンゲームにお金を入れる。
景品は、某スクールアイドルのフィギュアだ。推しキャラは俺と同じか。
クレーンゲームを操作する上野を見ていると、機械の横を確認したり、アームの届く範囲などを確認しているためかなり手馴れているのが分かるのだが……
「上野……お前、下手だな」
「う、うるさいわね。苦手なのよ……あっ!また外した!」
上野はすでに1000円は入れたようだが、景品は全く出口に近づいていない。そもそも、アームで掴めていないのだから当たり前だ。
「上野、変われ。」
元ヲタクのこの俺に任せろ。ヲタク魂を見せてやるよ
「あら?あなたなら取れると言うの?」
「真のゲーマーでもある俺の実力をみせてやる。」
俺は財布から500円を取り出し機械に入れる。クレーンゲームは本来、100円で1プレイなのだが、500円入れると6プレイできるようになる。本気で取る気なら五百円玉は使うべきだ。
さぁ、これからどうするか……
俺はまず、ストレートに掴んで見ることにした。
アームはガシッと景品を掴むと、若干持ち上げたが直ぐに落としてしまった。見た感じ、左のアームが強く右のアームが弱いらしい。
と、なると片アームずつ引っ掛けてずらしていくしかない。
俺は角にアームを入れていき、ズラす戦法を取った……が、突然景品が動かなくなった。
500円玉を何枚か入れて試行錯誤を繰り返すが、アームの弱さと景品の重さ、さらには俺の若干の技量不足で金だけが消えていく。
まぁ、そろそろか
「結構お金入れているけど、ダメそうね。」
上野は少し嬉しそうに言った。景品欲しいんじゃないのかよ……
「そうだな、俺は結構金を使った。だが、取れなかった……狙い通りだ」
「どういうことかしら?」
「まぁ、見てろ」
俺は周りを見渡す。なにを探しているのかと言うと、店員だ。
ゲーセンには、ある程度お金をつぎ込んだ上で取れなかった時、店員さんに取れやすくしてもらえると言う裏技がある。
昔は景品をプレゼントーなんて事もあったが、今は取れやすくしてもらえるのが限界だな。
近くを通りかかった店員に声をかけると、すぐに機械の扉を開け、落ちる穴ギリギリまで景品を持ってきてくれた。
これなら、1プレイで行けそうだ
「あなた、もしかして最初からこうなることを予想して……」
「そうだ、俺は最初からこいつを取ろうとなんて少ししか考えいない。アームの緩さから取れないことは分かっていたからな。」
「やり方が卑劣だわ、さすが誠くんね」
「褒められてる気がしないんだが?それと、俺は誠な」
俺は百円玉を入れると、アームを操作した。そして、景品の角をアームの先で押すように動かす。
アームは景品の角めがけて進み、押された景品はそのまま穴へと落ちていった。
アニメキャラのような萌え声で「おめでとう」という音声が流れ、それを聞いた店員さん達がタンバリンを叩き、「おめでとうございます」と場を盛り上げた。
うむ、これでこそゲームセンターだ。
俺は景品の取り出し口から箱をとると、上野に渡した。
「ほら、お前が欲しがってたやつ。」
「え、わ、私に?」
上野は受け取ろうと手を伸ばしたがハッと何かに気づいたように手を引っ込めた。
「受け取れないわ。あなたがとったやつでしょ?」
「なんだよ、急に。お前のために取ったんだぞ?」
「あなたにプレゼントされる義理はないわ」
「あるよ、沢山。今日1日お前のおかげで本当に楽しかった。
それに、久しぶりにヲタクできて、なんつーか、ヲタクしてた頃の自分も思い出せて懐かしかったしな。だからそのお礼ってことで」
俺は若干照れながら上野に景品を渡した。こういう慣れないのは本当に恥ずかしい。
「な、なにあんたが照れてるのよ……まぁ、そういうことなら貰ってあげなくもないんだからねっ」
そう言いつつ、上野も顔を赤くして景品を受け取った。
「おう。てか、なんでツンデレ……」
「うっさい!もう目的は達成出来たし、帰るわよ。」
「え?目的って……」
上野は俺の問いかけなど聞くこともなく、ゲーセンを後にする。
俺ってば置いてかれる率高くない?
結局、この日はこれであっさり解散になった。まぁ、着替えてもコーヒーくさいのは変わらないしな。
帰り道の電車の中はギリギリ混んではいなかった。電車の窓から射し込む光がビルを照らし、街を輝かせる。
そんな光景をぼーっと眺めながら、隣に座る上野に声をかけた。
「なぁ、上野。その……ありがとな」
「なぁに?急に。」
上野は特に視線を向けることもなく、俺と同じ景色を眺めながら言った。
「なんていうか、さっきも軽く言ったけどさ、今日は久しぶりに楽しかったんだよ……。友達とかとアキバに来たのも初めてだったし。脱ヲタしてたストレスも発散出来た。それに、今日に限ったことじゃなくて……色々……だから、ありがとうな」
入学初日に突然声をかけてきた少女、上野凛。こいつに出会ってから俺の日常はかなり変わった。人生最大の努力をした脱ヲタをいきなり邪魔されたり色々あるが、その前に俺は楽しかった。共にヲタクができる仲間もいなかったし、ましてや休日に遊びに出かけるなんてことは全く出来なかった。
そもそも、俺みたいな陰キャが、脱ヲタをしたところでまともな青春なんておくれなかっただろうしな。
「ふ、ふん!今更私の有難みに気づくなんて遅いわよ。感謝するくらいならさっさと入部届けにサインしなさいよね」
上野は照れ隠しなのか、ふん!とそっぽを向きながら毛先をいじる。髪の隙間からみえる耳は赤い。
正直、俺も照れくさい。俺まで耳が赤くなってる自信ある。
俺はそっと、ポケットに手を伸ばし、カサっと軽い音をさせて4つ折りになったプリントを取り出した。若干コーヒー臭いが大丈夫だろうか。
「あー、コホンコホン。それなら終わってますよ?部長さん。確認してください。」
「全く、まだ入部する気ないのね……ってえ!?」
俺は上野に入部届を渡す。上野は驚き顔で入部届けを受け取ると、視線を俺とプリントに行ったり来たりさせて見ている。
「部活は入るけど、脱ヲタをやめるつもりはねぇーよ?今まで通りだ。けど、あの地下教室ならバレなさそうだし、部活だけならいいかなってさ。」
「なーんだ、そっちはやめるつもりはないのね。残念だわ。」
けど、っと笑って上野は続ける。
「そう言っていられるのは今のうちよ!覚悟しなさい!誠くん!」
「だから、俺はせ……え?今なんて」
「なんでもないわよ!ほら、電車内では静かにする」
上野は俺の口に手の平を押し付ける。うがぁあ、息がぁぁあ!!
脱ヲタを決意して高校に通い始めて1週間とちょい。呆気なくヲタクバレしてアニメ部に入部。これだけ聞くとタイトル的にかなり終わっているが、脱ヲタは続行中だ。だから読者の皆さんにはもう少し長く付き合って頂きたいと思う。
電車が地元の駅に到着すると、上野と別れ、俺は歩みを進めた。
帰り道だけでなく、これからの学園生活にも。
ありがとうございました。
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