第6話 ジェニーさんと一緒
わたしはジェニーさんこと、ジェニオルス・ver21、この地下迷宮の高性能アシスタント。
わたしのマスターは今、迷宮を絶賛拡大中! となる、はずなのですが――。
【雪隠 (室外に設置可)カスタマイズ:屋根・壁なし】
【木の盾 (気休め程度の防御力、超初心者向け)】
「ジェニーさん、以上を一番左に作った新しい部屋に設置お願いします!」
【木の盾はどちらに?】
「あぁ、木の盾は落ちないように蓋の代わり」
――【承知しました】
マスターは簡易トイレ部屋を確保しご満悦のご様子。まぁ、所望されたスタッフ用のトイレをご提供できないのは、わたしの不徳の致すところ。甘んじてマスターのご要望に応える所存。
「そうだ、ジェニーさん、部屋の大きさとか広さの下限・上限はありますか?」
【部屋自体に特に制限はありませんが、階層は人が通れること、マスタールームへ続くルートに戻れることは必須条件です。孤立した階層は作れません】
「なるほど、それじゃぁ――」
マスターは次々と小さな部屋をご所望になりました。マスターは部屋を細かく区切られるのが好みなのでしょうか。まぁ、カスタマイズ機能は十全に揃っていますので、何も問題はないのですが。
「ジェニーさん、よければポイント管理をお任せできませんか?」
【承知しました。ポイントが不足する場合、維持費が不足する場合は事前にお伝えするように変更します】
「ありがとうございます。助かります。じゃぁ、ジェニーさん、次は温泉についてお願いします!」
おぉ、ようやく迷宮の主らしきご要望、これは気合を入れてご提案しませんと。
【地獄温泉 (血の池・青池・泥坊主・間欠泉・高温源泉・・・落ちたら最後地獄行き、有毒ガスの魔の手がのびる)】
おや、オカシイですね、マスターの目からハイライトが無くなりました。
「……ちなみに、お風呂は、どんな感じでしょうか? ジェニーさん」
そこに気が付かれるとは、さすがマスター。この迷宮に来たる者の選別にはもってこいの風呂をご提示しませんと。
【罰ゲーム (熱湯風呂・泥水風呂・氷水風呂・スライム風呂・・・それは運か賢さか。さぁ謎を解け! 勇気をもって進むのだ! 間違えた者に明日はない)】
「ちっがーう」
ふむん。マスターはどうやらお気に召さなかったご様子。「ムキー」などと仰っては、年頃の女子としてはしたないと諌言すべきかもしれませんが、今のご時世では……、さて、どうしたものか。
「ねえ、ジェニーさん、ジェニーさん。謎を解くってことは、正解ルートもあるんでしょう? 正解ルート用オブジェクトを表示してください」
わたしが答えを見出す前に、マスターからのご用命。非常に不本意ではありますが、ご命令とあらばお答えするのがアシスタントの努め。
――【正解用 (海綿風呂:布団〔綿・・・〕)】
「やった! 海綿とお布団確保!」
両手を上に上げ、その場で飛び跳ねているご様子は大変かわいらしい。しかし、正解した者は、マスタールームに近づいて来る危険人物。それは、この迷宮に棲まうもの全てとマスターの存亡に関わる由々しき問題。それを許さぬ事を大前提とされているのが、わたしという存在。
その一方で、来たる者が少ないと迷宮は衰退する、それを上手く誘い込むためにマスターが迷宮を設計するのをお助けするのも私の役目。迷宮というものは、大変矛盾した有り様で、バランスが難しい。
「ジェニーさん、ちなみに熱湯風呂ってどんなのですか?」
おっと、マスターの殺る気に火がついたのでしょうか。さぁマスター、どうぞご覧あれ!
【熱湯風呂 (常時ぐつぐつ煮えたぎる熱湯風呂、自動排水機能あり・サイズ指定可)】
「ちなみに、タライか桶か樽みたいなのはありますか?」
ほぉ、罠と謎解きのコラボとは。いいでしょう、ご存分にお考えくださいマスター、来たる者たちの悲鳴が止まらぬくらい。さぁ、とくとご覧あれ!
【罠 (金ダライ・桶・・・手元、足元ご注意を。タライは急に止まれない・サイズ指定可)】
【罰ゲーム (木樽・・・中に詰められ転がされ、呑まずに酔いし兵や サイズ指定可)】
【船 (盥船・・・櫂を手に力を示せ。勝つのは己か流れにか。さぁ、対岸を目指すのだ!)】
「うん、なんとかなりそう!」
おぉ、さすがわたしのマスター、素晴らしいアイデアがひらめかれたご様子。しばらく、ああでもないこうでもない、とお考えになった末のご下命は、
「ジェニーさん。
熱湯風呂と氷水風呂を、縦・横・高さ50、
海綿風呂は、縦・横・高さ全部30、
桶が、直径30・高さ20、
木の樽を、直径・高さ80、
金タライは、直径50・高さ20
でお願いします。
それから綿布団も」
ほぉ、これはなにやら、面白くなりそうですね。さてどういうルートに設置を……。
「あぁ、単位はセンチで、全部一つずつで! 綿布団はこの部屋に。残りは左から二番目に作った部屋に。今から移動して高さや向きなどの設置場所を指示をするので、樽にお湯が張れるように、綺麗に並べて欲しいです」
――わたしの聞き間違いと言ってはくれませんか。マスター。
その後も、各部屋を回られ迷宮の内装を手掛けられたマスター。紆余曲折の末出来上がった部屋に満足され、今は星空を眺めながら、お風呂に浸かっていらっしゃいます。
「はー、極楽極楽」
などと、とても十歳とは思えぬ台詞を吐いておられますが、そろそろ外の世界では東の空が白み始める頃合い。きっとお疲れなのでしょう。
「ジェニーさん、ここはずっと夜なんですか?」
【現在は常時夜間、晴天の設定です、外部と同じく昼夜設定にすることも可能です。設定を変更しますか?】
「ありがとうございます。まだ今の設定ままで大丈夫です」
【承知しました。ところで、今入ってらっしゃる樽はいつ転がせばよろしいでしょうか?】
「へ? 私が出た後なら、でも今はダメですっ」
――――【承知しました】
ふむ、残念ではありますが、とりあえず、使い終わったら横倒しになる設定にしておきましょう。
「そうだ、ジェニーさん、着替え用に着る物はありませんか?」
【宝箱 (鎧・小手・靴・兜・肘当て・膝当て・脛当て・ローブ・・・ 収獲せよ、さらば与えられん。火と土の愛し子の生まれんことを)】
「これは、今は防具は無いってことですね。普通の服はありますか?」
【宝箱 (・・・ 収穫せよ、さらば与えられん。樹と水の愛し子の生まれんことを)】
「どちらにせよ、作らないと無いってことですね。でも、ジェニーさん、なんで説明の二文字目が違うんでしょうか?」
【それは、後者は育み、前者は持ち主をこ……」
「はい、そこまで!」
マスター、できれば最後まで読んではいただけませんでしょうか、だめですか? そうですか。
「ジェニーさん、ジェニーさん。ひとつ聞いてもいいでしょうか。タライとか樽とか草原とか空さえあるのに、本当に服はないのでしょうか?」
【・・・】
「ジェニーさん、宝箱の服に関係する項目を『全部』表示してもらえますか?」
おっと、マスターのご機嫌を損ねてはアシスタントの名折れ。仕方ありません、非常に不本意ではありますが、時に名将は敵に塩を送るもの。最低限の品をご提示いたしましょう。
【宝箱 (粗末なローブ・麻の服・木の靴・革の帽子 現状生成できるのはこれだけです)】
「ジェニーさん、木の靴以外を木の宝箱にまとめて入れて、そのタライの隣に設置できますか? あ、麻の服は二枚お願いします」
【木の宝箱(粗末なローブ・麻の服二枚・革の帽子) 木の宝箱を設置しました】
マスターは麻の服を取り出して袖を通され、着ていた服を金ダライで洗濯をしたあと、最初に作った草原に綿の敷布団を敷いて、粗末なローブを被ってたちまち眠りに落ちていかれました。
【お疲れ様でした、マスター。良い夢を】
投稿に慣れなくて悪戦苦闘しています。家にもジェニーさんが居たらいいなぁ。




