第19話 発端
わたくしは、ジェニオルス・ver20、この世界の人間どもが「ロスクリタ」と名付けた地下迷宮の、超有能で、超絶に美しいアシスタントよ。
何故かわたくしのご主人様は、頑なにジェニ男としか呼んでくださらないけれど。まぁ、呼び方位はお好きになさっていただいていいでしょう。
さて、やっとこの世の人間どもがこの迷宮に訪れたの。ご主人は浮かれているけれど、そんなに事が簡単に運ぶのなら、私など不要なのだけれど。
「やったぞ、ワハハハハハハハハ、どうだジェニ男、俺様の計画は無駄じゃなかったんだ、これで遊んで暮らせるな」
まぁ、たしかに、こぉんな森の中の迷宮ですもの、人目に付くにはスタンピード計画も少しは役に立ったのでしょう。わたくしご主人様に向けて微笑んでおくわ。
「さぁ、早く入って来い、俺様の作った迷宮に敵う奴がいるならな! お前らは俺の糧になってもらうぜ! アッヒャッヒャッヒャッ」
というご主人のバカっぽい――こほん、失礼。ご主人の高笑いがマスタールームに響いたけれど、あいつら、一向に迷宮に入ってくる気配はないわねぇ。堪え性のないご主人様は、幾度か僕をけしかけて迷宮外に出しているけれど、それも焼石に水。
夕暮れまでだぁれも迷宮内に入って来ないじゃないの。キーッ、この腰抜けどもがっ。あら、いけない、つい本音が。いやぁね。これじゃご主人様と変わらないわ。平常心平常心っと。
そうして待つこと数時間、夜の帷が落ちる頃、やっとその時がやって来たわ。まぁ、ご主人様は待つのに飽きて眠りこけているけれど……。
さ、このご主人様の迷宮がどこまでやれるか見ものだわ。
「・・・・・・・・・・」
なによあれ、魔物がこの世界の者を傷付けられないなんて。
まぁ、あの妖精なるものは捕らえられたから良しとしましょう。しかし、我軍勢の魔物が、まさか初級クラスの光魔法で消え去るとは情けないこと。
あの日から三日後。今度は薄汚れた柄の悪い男たちが集団で入ってきたの。あぁ、もうムサイわね。でも後ろの方に最初に来た男達と同じ服装の男が何人か居るわ。
「おい、また客だぞ、へへへ、さぁ今日こそ俺の怖さを思い知らせてやるぜ!」
今日来た男たちは、迷宮の奥まで進んで来るようね。さぁ、どうなるかしら?
「おい、なんだよあれ、あいつら全然役に立たねぇじゃねえか」
我軍勢の魔物が全く人を傷つけられないことに、いまさら気がついたご主人様がご立腹中。しかも、何故かしら、あの先頭の男達は妖精なるものは連れて居ないのね。でも、罠にはかかっているわ。
あら、もう退却して行くの? これじゃぁポイントなんて全然回復しないじゃない。ご主人様もため息をついているわ。
「けっ、しけてんなぁ、あいつらちったぁ男気見せてみろつぅんだ。足怪我した位で逃げんなって。はー、ここのやつらやる気あんのかよ」
「そうねぇ、怪我をしてもここに欲しい物がある、だから無理してももっと進みたいと思わせるために、珍しい武器とか性能のいい防具とか、貴重な宝石なんかが入った宝箱を設置したりするのよ」
と少し迷宮アシスタントらしい助言をしてみたのだけれど、
「はぁー? お前ほんとバカだよなぁ。なんで敵を強くするもんやら金目のもんをこっちが提供すんだよ、意味わかんねぇ」
ねぇご主人様、何とかにつける薬、宝箱のアイテムになかったかしら。もう怒る気力もないわ。この世界の人間どもは洞穴の外で屯しているだけになったし。ご主人様は当てにならないし、わたくしのやる気メーターはゼロよ。
そんなやさぐれた日々に、飽き飽きしてきたわたくし、でもね、救いの神はいらっしゃったの、ほらそこに。美しい灰金色の涼やかなお顔に凛々しいお姿、そう、まるで貴公子様。
「暗いな」
まぁ、よく通る素敵お声、なんて甘やかなんでしょう。わたくしうっとりだわ。
『ルストラーレ』
「ぎゃぁーーーーーー目が、目が」
あぁもう、ご主人様うるさいわね。しっかし、何よあれ、初級クラスの魔法よあれ、一遍で一階層の奥まで魔物が消えたわよ。どうしたらそんなことになるのかしら。
あら、良く見たら、隣に居るあの青髪の青年も可愛くない? 二人とも妖精なるものも連れているし、このまま進んで来てくださらないかしら。
「やっぱりいつもとは違いますね、こいつぐったりしてる」
「ふむ、やはりこの洞穴の中では、妖精たちが弱るみたいだな、戻ろうか」
「はい、あ、そこ、罠がありそうなんで注意してくださいね」
「承知した」
ちょっとぉ、もう帰っちゃうのぉ、いやぁん。もっと見つめていたいのにぃ。
――なんて思っていた時期が、わたくしにもありました。
もう、どうなってるのよあの人たち、ご主人様のへっぽこオートメイキング迷宮がどんどん攻略されていくじゃないのぉ。まずいわ、このまま放っておいたら、あっさりマスタールームまで来ちゃうんじゃない?
「ご主人様、マスタールームをもっと深い位置へ移動させるわよ」
「あー、ポイント足りねぇから無理」
「あの方たちの滞在ポイントで増えてるはずよ、小さな竪穴でいいからどうにかなるでしょ」
ご主人様の贅沢三昧がなければ、もっと階層も増やせていたのに。んもう、本当はあの方が攻略してくださってもいいんだけど……。非常に残念ではあるけれど、わたくしの使命はあくまでも、このご主人様のアシストなのよね。
「おい、ジェニ男、とりあえずシャフト作れば相当深い位置に移動させられるぞ」
あら、ご主人様やればできるじゃない。
それに――――いい物を見つけたわ。
「ご主人様、今の状況をひっくり返せるかもしれなくてよ。今すぐ迷宮を閉じる命令を」
「はぁ、やっと面白くなってきたってのによ」
「いいから! すぐにやる!」
「ちっ、わぁったよ、閉めりゃいいんだろ。ジェニ男、迷宮を閉めろ」
「えぇ、承知したわ、ご主人様」
さぁ、これからが本番ね。
――――こんにちは。深層に隠された世界樹さん。
アナタをこの迷宮の色で染め直してさしあげてよ、この世界がどう染まるか、わたくし、とぉっても楽しみだわ。
世界樹を染めるのにかかった10年。どちらの迷宮も休眠していました。




