第18話 ジェニオルス・ヴェンティ
ジェニーさんの片割れ、暗躍中。
わたくしはジェニオルス・ver20、この世界の人間どもが「ロスクリタ」と名付けた地下迷宮の、超有能で、超絶に美しいアシスタントよ。
そして、アレが、もとい、あの方がわたくしのご主人様。わたくしは、ご主人様の望み
一、力と金を手に入れる
一、いい女を侍らせる
一、世界をご主人様の元にひざまずかせる
この三つを叶えるべく、この迷宮の運営をアシストするのがお役目なの。まぁ、二つ目のいい女を侍らせる、はすでに叶っているわね。なにせ、このワ・タ・ク・シがここに居るんですから。
異議は認めないわ。
それにしても、ご主人様は今でこそ大人しく働いていますけれど、本当に教育が大変でしたの。最初の頃なんて、ひどいものでしたのよ――。
「おい、お前、ここは一体どこだ? 俺に何しやがった」
開口一番、悪態とは。まぁいいでしょう。この方が今日からわたくしのご主人様なのですから。わたくしのお役目はこの方をアシストすることですもの。
「初めまして、ご主人様。わたくしはジェニオルス・ヴェンティ、貴方の迷宮運営のアシスタントよ。よろし……」
「はーぁー? めいきゅううんえいぃ。なんのことだか知らねぇけど、こんなシケた場所で何しろってんだ、さっさと俺を元の場所に戻せ! それにユリエはどこだ、てめぇユリエに何かしてたら、ただじゃおかねぇからな!」
はぁ、こんな雑魚が――コホン――いいえ、この方を導くのがわたくしのお役目、落ち着いて話を聞いていただかなくてはね。
「ご主人様、アナタはこの迷宮の主となられました。アナタの望みを叶えるべく、この迷宮は存在します。どうぞ、アナタの望みのままに、この世界の住人どもをアナタにひざまずかせ、力と富を手に入れましょう」
わたくしは、右手を胸に腰をおり、優雅な動作で完璧なお辞儀を披露したわ。
「なんで俺がそんな事しなくちゃならねぇんだ、ユリエはどこだ?」
「チッ」
おっと、わたくしとしたことが、舌打ちなんてはしたない。
「てめぇ、さっさとユリエを出しやがれ!」
はぁ、こんな矮小な男が、本当にわたくしのご主人様なのでしょうか。これをアシストするのは業腹だけれど、これもお役目仕方ないわよね。
「ユリエさんという方は存じ上げませんわ、この迷宮に選ばれしお方はアナタお一人。さぁ、アナタの手でこの迷宮を大きく、強くして参りましょう」
わたくしは右手でウエストを抱き、左手は人差し指を伸ばしてアゴにあて、体を少し斜めにポーズを決めて、艶然と微笑みご主人様を見つめたの。これに落ちない男なんて……
「くっそ、何なんだよ気色わりぃ男だな、俺だけこんなところに閉じ込めようってか?」
ブチ! 何かが切れた音が聞こえたわ。
「んだとこのクソガキがぁ、あぁん。男ぉ? この美しいジェニオルス・ヴェンティ様が男だとでも? ちゃんと目見えてんのか。おらっ」
あらいけない、ご主人様の胸ぐらを掴み、今にも殴りかかりそうになるなどはしたない、わたくしは淑女なのよ。ええ、そうよ、そうなのよ! ならば、このままにっこりと笑ってオハナシアイを致しましょう。
「ユリエさんという方は、ここにはいらっしゃいません。アナタには、この迷宮のご主人様として、ここで働いていただきます。よろしいですわね?」
苦しそうに赤い顔をして、私の手を叩きながら首を縦に振るご主人様。
「お・返・事・は?」
「ガ、、グァイ」
「よろしい」
わたくしが、ご主人様を掴んでいた手をパッと開くと、ご主人様はどさりと床に落ちたわ。座り込んだまま咳き込んでいるけれど、休む暇などないのよ。
「では早速、ご主人様、アナタの望みを叶えるために、最兇の迷宮を作っていただきましょうか」
(さぁ、キリキリ働け!)
とまぁ、こんな風に迷宮初日は始まったのだけれど、ご主人が迷宮を開放した時も、そりゃぁいろいろあったわ――。
「俺の僕たちよ。さぁ、世界に俺の力を見せつけろ! この世界が俺のものになるのも時間の問題だ!」
使える限りのポイントを使い黒の獣を召喚したご主人様は、近くの町をスタンピードで蹂躙すべく、深夜に獣たちを洞穴から大量に排出したの。はぁ、やっと迷宮を構築して開放できたと思えば、いきなりスタンピードとは、この能無し、もとい、このご主人様は大丈夫かしら。
「ひゃっひゃっひゃっ、あのババァに騙されたと思ったが、なかなかいいじゃねーか。さぁ、これからは俺様の時代だ」
豪華に設らえられたマスタールームのふかふかのソファーに寝そべって、高級そうなグラスに入った酒を煽りながら、高笑いをしているご主人様。艶のある生地で作られた黒のローブを羽織り、胸元は着崩れて、裾から見える脚は素足のまま。なのに、まったく、どう見たって、ぜんっぜんセクシーじゃないのよね。
――いいえ、大事なのは見た目じゃないわ。ないのよ、ないはずよ……。いえ、やっぱり見た、げふんげふん。わたくし何も言っていなくてよ。
そう、大事なのは、今夜この世界に初めての魔物が現れ、この世界の住人どもを蹂躙し戦慄が走る。そして、この迷宮に人が集まってくることよ。なのに、その夜も、次の夜も、その次の夜も、そのまた次の夜も、なぁんにも反応がなかったの。ご主人様はムキになって続けていたけれど、無意味に時ばかりが過ぎて、潤沢だったポイントも、相当目減りしているわね。
「くっそお、おいどうなってんだよ、全然誰も来ねーじゃねぇか。あの魔物本当に強えぇのかよ? おい、お前、なんとか言えよ」
へぇぇ、お前ですって、わたくしには、ちゃぁんと名前があってよ。ご主人様。
「くっそ、ジェニオ、教えろ」
へぇぇ、教えろ、ですって。まぁアナタがご主人様ですから命令口調でも差し支えはないのだけれど。どの口が言っているのかしらぁ?
「うぅ、ジェニオ、様、教えて、く、ださい」
「まぁ、いいでしょう。教えて差し上げましょう。まず、魔物たちはこの世界の人間どもよりも強いわ。まぁ、本来なら、ね。ご主人様は気付いてないみたいだけれど、あの魔物たち、外に出た途端消えてしまっていたわね。だから、ご主人様のした事はただの無駄の連続。ポイントを無闇に消費しただけなのよ」
「はぁー? お前なんでそれ判ってて放置してんだよ、この無能!」
ブチッ。また何か切れた音が聞こえたわ。
「むのぉ? 誰が無能だと、もう一遍言ってみろや、あぁん。自分の無能さ加減を棚に上げ、人を無能呼ばわりとはいぃ度胸じゃねぇか、テメェが作った超強酸スライム部屋にブチ込んでやろうかぁ?」
あら、いけない、右手に持った鞭を振り床に叩きつけて脅すなど、淑女にあるまじき行い。
「す、、すみませんでしたぁ! どうかお許しをー」
まぁまぁ、青い顔をしてご主人が震えちゃったわ。いけないいけない。ここはわたくしの可憐さをアピールしなくちゃ。
「まずぅ、ご主人様がマスタールームを無駄に豪華にして、毎日贅沢しているでしょう。それにぃ、だぁれも来ない迷宮を考えなしにオートメイキングで広げ過ぎて、ポイントが激減したの。そこにまた、魔物を大量に消費してポイントがさらに減っちゃった。しかも、マスタールームにある監視画面はただの飾り状態。ちゃぁんと見てれば、魔物が消えるところが見えていたのによ。バカなの? バカでしょ?」
「う、くっそ、なんで言わないんだよ」
「あらん、ご主人様はオートメイキングがあるから楽勝だぁ、お前なんかいらないな、とアシスト不要のご命令をされたのに、わたくしに文句を言うのは筋違いよぉ。ほぉんと、お・ば・か・さ・ん」
あら? ご主人様硬直しているみたいだけれど、大丈夫かしら? まぁ、いいわ、わたくしの助言は要らないと言ったのはご主人様ですもの。
「だからぁ、お食事とかもう豪華にできないね、ポイント全然足りないもん。このままだぁれも来ないと、この迷宮維持できなくてどんどん縮小されちゃうぞ、えへ。ご主人様の野望かっなうっかなぁ? あ! でも、ご主人様は一人でできるんだもんね、アタシ応援だけするよ。がんばれ、がんばれ、がーんばれっ♡」
あごの下に握りしめた両手を当て、上目遣いで可愛らしくご主人様を応援してみたわ。あら、なぜかしら、ご主人様の何かが折れた音がしたわ。
「どうかお願いします。ジェニオ様、教えてください」
「はぁ、しょーがないわねぇ。いいわ、このジェニオルス・ヴェンティ様が教えてあげる。入り口の監視画面をご覧なさいな」
ご主人はやっとわたくしが指差した画面を見て、そこに、この世界の住人どもがこの迷宮の入り口あたりを探っている様子が映っていることに気がついたの。
「よかったわね、ご主人様。ようやく住人どもが気がついたみたいよ」
「はっ、これで贅沢して遊んで暮らせるな、あっひゃひゃひゃひゃ」
ご主人様はこれからが忙しくなるというのに、何か盛大に勘違いをしていそうだったけれど、まさかこのあと10年も地下に潜ることになるなんて、この時はわたくしも思ってもいなかったわ。




