第17話 神聖アルジェンティーナ帝国の凋落
今日は少し短めです。
神聖アルジェンティーナ帝国、帝都アルジェントの宮殿は、各地からの被害の訴えが山積みとなっていた。
国内の四ヶ所で行われた祝光祭で、精霊樹から黒い獣が生まれ民にも被害が出た。しかも、黒く染まった精霊樹からは、いまだに定期的に黒い獣が現れるため、兵を常駐させているが、根本的な解決には至っていない。
さらに、他国でも同様のことが起こり被害が広がったことで、各国に精霊樹の水晶を貸与している光の神殿、ひいては、神聖アルジェンティーナ帝国の威信は完全に失墜した。
精霊樹が黒に染まった日から、世界中の国から白き光の妖精が忽然と姿を消し、色付きの妖精だけが残った。しかも、それらはなぜか主を変え、他人の妖精と入れ替わってしまっている。
「で、何か判ったことはあるのか?」
不機嫌そうな表情で、この国の皇帝オーガスト・デザンテスが、神官長に問いかける。どちらも傍に妖精は居ない。
「申し訳ございません。精霊樹の水晶については、皇帝陛下がご存じのこと以外、新しいことは何も……」
「なに、我でも知らぬことがあってな。そちならば、民たちが噂しているという、黒の子の呪いの話を何か知っているのではないか」
その問いに、神官長は顔色を悪くした。
この国の高位貴族や神殿の上級職の者は白き光の妖精持ちばかりだった。それが一斉に妖精を無くしたら、何か良からぬことが起きているのではと民が噂するのも無理はない。
皇帝は、神官長を見据えたまま、暗にお前が原因かと言いたげに言葉を続ける。
「なかには、精霊樹から黒の獣が出たのは、黒の子を追い出した国へ光の女神の神罰がおりた、と嘯く者もいると言うではないか。なぁ、宰相」
「は、噂の出所を探ったところ、神官長直属の私兵に行き当たりました。神官長殿、その者たちはあなたの命により、孤児院に居た黒髪の娘を一人、国外追放と称しチェレスト山の奥へ捨てたと言うが、それは誠か」
議会に集まった者たちが騒めく中、俯いて額の大汗をぬぐいながら、神官長が消え入るような声で話し出す。
「わ、私はその娘が聖光祭で光珠を賜れなかった、黒い髪の呪いの子だと聞いたのです。そのような娘が我が国に住むなど、許されるわけが……」
「では、誠か」
宰相の問いに、神官長は勢いよく顔を上げ大声で訴える。
「サントーロ侯爵領で精霊樹の犠牲になったマウロ神官。彼こそ、その娘が光珠を賜れなかった聖光祭に立ち会い、追放を進言した者なのです。きっとマウロ神官が、その娘に呪われたに違いありません!」
その場に居る者たちがざわつく中、マウロ神官の父親、ロヴィナーティ男爵が前に進み出て声を荒げる。
「よくもそのような戯言を! 我が息子以外の神官の精霊樹も黒く染まったというではないか、それは神殿がその娘から呪われた証拠ではないのか?」
「鎮まれ! 帝の御前であるぞ、問題は黒の子が我が国に本当に居たということではないか」
宰相が一喝し、みな静まり返った。
「我が兄、サントーロ侯爵によれば、その黒髪の娘は中央神殿にいたサルヴァトーレ上級神官が庇護していた子どもだというではありませんか。そして、その者も後を追うように国を出ているとか。つまり、神殿はその事実を知っていながら、問題が起こるまで隠蔽していた、ということでは無いのですか!」
ロヴィナーティ男爵は自分の息子を亡くしたばかりか、呪いの元凶のように言われ腹に据えかねたのだろう、公然と神殿を批判した。
サルヴァトーレの名前が出た途端、皇帝の機嫌が一層悪くなる。それをいち早く感じた宰相は、何か言いたそうな神官長を手で制して話しはじめた。
「呪いの話は民の噂に過ぎない。今明らかになった事実は、黒髪の娘が実際に我が国に存在し、追放されたこと。現在は生存および居所がわからない、ということだ」
宰相がヒタと神官長の顔を見つめて一呼吸置いたところに、皇帝が口を挟む。
「そして、現存する精霊樹の水晶はすべて黒に染まり、現状、祝光祭は行えない。つまり、誰も妖精を賜ることができなくなった。ということだ」
神聖アルジェンティーナ帝国は他の王国に対し、精霊樹という切り札を無くした。そして、それは、光の女神への信仰心が薄れる前触れともなる。
皇帝オーガスト・デザンテスができたことといえば、サルヴァトーレと黒髪の娘に注目させ、神聖アルジェンティーナも被害者だとして、国への疑いの目を逸らすことくらいだった。
「皇帝の名において命令する。サルヴァトーレ神官を即刻帰国させ尋問せよ。また、各国に手配書を回し、黒髪の少女の行方を探せ」
次は、ジェニーさんの片割れさんが登場します!




