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あれよあれよと積まれていく。食料。
見たことのない魚の干物や、鰹節に似た削り節のようなもの。
小瓶に入った魚醤らしき液体に、塩の袋まで並んでいた。
「生ものはいらないですかな」
村長のオーランドがそう問いかけてくる。
流石に、見知らぬ土地で正体不明の魚の刺身を口にするほど怖いもの知らずではない。
俺は生ものは遠慮する旨を伝えた。
しかし話はそこで終わらなかった。
今度は酒樽のようなものまで運ばれてきて、さすがに俺が焦り出した。
「ちょっと、待って下さい。これ以上は私が運べません」
そう言うと、村長と荷物を運んでいたウェルが揃って不思議そうな顔をした。
「海の魔物に詰め込めばいいのではないですか?」
「――どういうことですか?」
「ハル様は海からやって来たでしょう?」
ウェルがそう平然と言った瞬間、俺は動きを止めた。
村長へと視線を向けても、意味ありげに頷くだけだった。
バレていた。
最初から、全部。
「……この村に、海からやってくる商人は他にもいるのですか?」
絞り出したその問いに、ウェルは「まったく」と短く返した。
「なら、なぜそこまで得体の知れない私にここまで親切にしてくれるのですか?」
俺の疑問はもっともなはずだ。
夜更けに海から現れた見知らぬ男を、村ごと歓迎する理由がどこにある。
ウェルは手元の酒の大樽を床に下ろした。
俺の問いには、村長が答えた。
「この村の歴史にワシが生まれるよりもずっと前から、二つの言い伝えが存在するのです」
そう言って、村長は指を一本立てた。
「一つは、海の呪いを鎮めるための宝海日と、その呪い」
そして二本目の指を立てる。
「もう一つは、ハル様。あなたです。海より出る人間。村に繁栄をもたらすとされる言い伝えじゃ。事実、ハル様は私共が夕飯にお出しした焼き魚を食べています。王国の人間は普通、海の魚を決して口にしない」
まっすぐに俺を見つめるその目には、嘘が何も感じられなかった。
純粋で、動かし難い事実を淡々と説明している。それだけだった。
俺がやけに歓迎されていた理由が、今になって全て繋がった。
「私は、そんな大層な人間ではないです」
そう言ったその言葉にも、二人は静かに頷くだけだった。
俺は内心でため息をついた。
しかし、冷静に考えてみれば。
なぜその言い伝えが生まれたのかは知らないが、俺がこの世界で生きていく上で、これ以上好都合な状況がどこにあるだろうか。
「努力します。商人ですから、もたらすだけではなく、お互いが得になるようにしましょう」
そう言って、明らかに量が多すぎる酒樽などはきっぱりと断った。
潜水艦の収納スペースは強化したとはいえ、現状では意外に余裕がない。詰め込める量には限度がある。
落ち着いたところで、俺は村長へ向けて一つ問いかけた。
「ところで、この村で人が住んでいる一番古い建物を知りませんか?」
「そりゃあ、狭い村じゃけ知っておるが、なぜだ?」
「呪いというものを、断ち切れると言ったら。どうでしょうか?」
海の呪い、海の呪いと何度も耳にしてきたが、俺が昨夜目を付けられたあの呪いは、恐らく海の呪いではない。
* * *
俺は武装したウェルと村人数人を伴って、村の外れにある今は使われていない漁師小屋の前に来ていた。
事前にウェルへ話していた通り、まずは俺一人で中に入る。
扉を押し開けると、カビ臭い匂いが鼻を打った。
その匂いで、俺の考えが正しかったと確信した。
このカビ臭さを、俺は昨夜も嗅いでいた。
あの女が部屋に現れた時、扉の隙間からかすかに漂ってきたあの匂いと、全く同じだ。
部屋の中はボロボロだった。
古い浮きやほつれた漁網が散乱しており、板壁の隙間からは風が入ってくる。
しかし、それだけだ。
昨夜の女の姿は、どこにもない。
「おい、来てやったぞ」
声に出して呼びかけてみたが、反応はない。
小屋を一通り見て回り、外れだったかと踵を返しかけたその時だった。
「ウットオシイ」
たった一言。
それだけで、風景が切り替わった。
目の前の光景に、俺は言葉を失う。
天井から吊り下げられているのは、人の……皮だった。
幾重にも重なって、人の姿をそのままむしり取ったような薄い皮が、天井から垂れ下がっている。
表情のある皮もあった。閉じた目の形をした皮、開いた口の形をした皮。
それらが無風の中でもゆらゆらと揺れていた。
胃の中のものがせり上がりそうになるのを、意志の力で抑えた。
「なんだよ、これ」
低く吐き出した俺の言葉に答えたのは、部屋の奥に押し詰められた異形だった。
黒髪を地面まで垂らし、顎が裂けている。
その体はイタチのように細長く大きく、狭い小屋の片隅にぎゅうぎゅうに押し詰められていた。
長い尾は天井にまで達しており、古い板材をぎりぎりと圧迫している。
昨夜の女の面影は、その黒髪だけに残っていた。
俺との距離はおよそ五メートルほど。
体感はもっと近く感じた。
「……あんたが、呪いの正体か」
心臓が早鐘を打っている。
それでも声だけは、できるだけ平坦に出した。
「クサイ、クサイ。 オマエがクサイ」
顎が裂けている分、言葉が聞き取りにくい。
昨夜の流暢な話し方とは別物だった。
人の皮を被っていた時と、本体では、言葉の出方が全く違うらしい。
「この村への執着を、辞めてほしい」
言葉が通じるならと思って言ったが、周囲の惨状を見れば結果は見えている。
「ヤメルと思ウのか?」
逆に問い返してきた。
攻撃をせずに言葉を返してくる。
それだけで、この魔物が長く生きていることが自ずとわかった。
「辞めないだろうね。あんたにとってこの村は牧場のようなものだろう。長く生きた末の、娯楽のようなものでもある」
「ソコマデ思って、ノコノコ丸腰でキタノカ?」
そう言いながら、裂けた口をにんまりと開いた。
俺は確かに武器を持っていない。
持っているのは、外のウェルたちを呼ぶための鈴だけだった。
「あんたは海の呪いでもなければ、海の魔物でもない。ただの陸の魔物だろう?」
俺は更に続けた。
「あぁ、そうだった。 その腕、ケガしてないか?」
魔物がそう言った瞬間、俺へと飛びかかった。
反応できなかった。
距離も近く、体躯の差がありすぎる。
裂けた巨大な口が俺の頭上に迫る――。
だが、魔物は寸前で動きを止めた。
「――オマエェ」
どくどくと心臓が早鐘を打つ。口から荒い息が漏れる。
あと少しで死んでいた。
当初の作戦と、完全にずれた行動だ。
だが――。
「そうだよなァ! お前は金が苦手だもんなァ!」
俺はそう言うと、手元にあった金の装飾品を魔物に向かって投げつけた。
魔物は避けようとしたが、反応が一瞬遅れた。
装飾品が体に当たった瞬間、白い煙が上がり、触れた箇所が明確に溶けていく。
金切り声が小屋全体に響き渡った。
身を捩りながら苦しむ魔物の動きに、古い板壁が悲鳴を上げて崩れ始める。
俺は急いで鈴を鳴らしながら、小屋の外へと飛び出した。
すぐにウェルたちと合流する。
「ハル様! すぐに鈴を鳴らす作戦と違うようですが!」
ウェルの声に、俺は心臓を押さえながら笑って返した。
「腹が立ってきて、一発返そうと思いまして」
崩れかけた小屋の中から、魔物が這い出してくるのが見えた。
体の一部が白く溶けたまま、森の方角へと逃げていく。
追おうとする村人たちとウェルに、俺は手を挙げた。
「大丈夫です。全て終わりました」
この魔物は、人の姿を真似て出現する。
昨夜は黒髪の女性の姿。
そして今朝は、子供の姿をして俺にぶつかってきた。
俺の手持ちを確認したかったのだろう。そして、ぶちまけられた金の装飾品に触れ、腕を負傷した。
小屋の中で俺が助かったのは、服の下に金の装飾品を大量に着けていたのが理由だ。
腕を庇うようにしていた小さな男の子の仕草。
そして昨夜の警告。
2型はこの魔物をしっかりと識別していた。それらを繋げた時、全てが見えた。
俺はゆっくりと森の中に入っていく。
木々の間に、倒れ込んだ魔物の姿があった。
その傍らで、何かが鋏を高々と掲げている。
強化され、さそりの形に変形した偵察機2型が、巨大な鋏と尾を誇らしげに突き上げていた。
逃げ込む先として森を選ぶだろうと読んで、先に2型を配置しておいた。
ウェルたちと合流する前に、密かにこの森へ送り込んでいたのだ。
魔物はまだ息があった。
俺の足音に気づいたのか、溶けかけた目でゆっくりとこちらを向いた。
「忌々シイ呪イ人が……」
ウェルの槍が脳天に振り下ろされる瞬間、魔物は俺の目をはっきりと見てそう言った。
ぐしゃり、と槍の穂先がその頭部を貫いた。
* * *
【システムメッセージ】
硬貨をポイントに変換しました。
ポイント:12,000 → 24,000
【偵察機2型 強化】
現在のポイント:24,000
必要ポイント:6,000
偵察機2型 → 偵察機2型Ω
▶ はい ▷ いいえ
【強化完了】
偵察機2型Ωに進化しました。
残りポイント:18,000
【現在の強化メニュー】
・艦内広さ 6,000ポイント 【NEW】
・収納 2,000ポイント 【NEW】
・速度 3,000ポイント 【NEW】
【ショップ】
・真水補充 6,000ポイント
・携帯食料 8,000ポイント
・簡易拠点 15,000ポイント
・簡易通信機 8,000ポイント 【NEW】
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