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異世海で自分だけの潜水艦を手に入れたので、海のど真ん中で海上交易国家を建国します  作者: 上昇線


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9


 魔物を討伐した後、俺は村への入村時に隠していた潜水艦を開き直って港へ着艦した。


 大きいと言えば大きい。

 だが中の狭さを知っている身としては、誇れるものでは決してない。

 それでも、村人達はその威容を実際に目にして口を大きく開け、目を丸くさせながら、港へわらわらと集まってきていた。


 村に巣食う呪いの元凶は討たれた。


 奴はあの漁師小屋で俺に幻覚を見せていたように、村人達の認識に細工をして、今まで村人に紛れてのうのうと生活していたのだろう。


 村の解放。

 それがどれほどの意味を持つのかは、次に声をかけてきた少年の言葉が教えてくれた。


「家族の仇を討ってくれて、ありがとうございます!」


 そう言うなり、土下座するような勢いで頭を地面に近づけてきたのは、一人の少年だった。


 名前をコウと言うらしい。

 コウの家族は、宝海日に名前を口にしてしまい、奴に取られたのだという。


 何年もこの村で暮らしている人間が、たった一日だけ我慢すればいいところを、突然名前を口にするというのは不自然すぎる話だ。

 宝海日のその日、魔物が何らかの形で介入して、村人に言葉を漏らさせていたのだろう。


 よその町へ嫁いだ人間は宝海日に海産物を捧げられず、それを口実に取られる場合もあったという話もウェルから聞いた。


 俺はその後、様々な村人から英雄の如く祭り上げられた。

 英雄と言われても、と思ったが当の村人たちにとってはそういう問題ではないのだろう。


 長く続いた檻が、本当の意味で取り払われたのだ。



「ありがとうございます。桟橋に集めて置いてくれたら、回収できます」


 俺はそう言って、取引に使った食料品や真水、塩、少量の砂糖などをウェルに桟橋へ集めてもらった。


 村人達に見送られながら、潜水艦上部のハッチから中へ潜り込む。


 狭い通路を体を捩りながら通り抜け、操縦席へ。


 現在のポイントを確認する。

 村の硬貨を全てポイントに変換した時点で12,000だった。

 そこから2型強化に6,000を既に使用済みで残り18,000。


 今回の強化は三項目だ。



【艦内広さ強化 Lv.2 → Lv.3】

 現在のポイント:18,000

 必要ポイント:6,000

 強化しますか?


 ▶ はい  ▷ いいえ




【収納強化 Lv.2 → Lv.3】

 現在のポイント:12,000

 必要ポイント:2,000

 強化しますか?


 ▶ はい  ▷ いいえ




【速度強化 Lv.2 → Lv.3】

 現在のポイント:10,000

 必要ポイント:3,000

 強化しますか?


 ▶ はい  ▷ いいえ




【強化完了】

 艦内広さ:Lv.3

 収納:Lv.3

 速度:Lv.3


 残りポイント:7,000



 残りは7,000ポイントだ。大切に使おう。


 強化を終えると、後ろの居住スペースを見に行く。


 入った瞬間に、また違いがわかった。


 一回り、広くなっている。

 キッチンの配置もベッドの位置も変わっていないが、それぞれの周囲に余裕が生まれていた。

 そして以前は小さな箱型だった冷蔵庫が、縦型のしっかりとした冷蔵庫に置き換わっている。


 台所の床の取っ手を引いて、床下収納を覗き込んだ。


 以前は屈まないと移動できなかったが、今は中で立てるくらいの高さが確保されている。

 面積も広い。倉庫と呼べるくらいの空間だ。

 そして内部が、簡素な仕切りで三つに区切られていた。


 ①・②・③の収納スペース。


 ①には、難破船から回収した宝飾品が保管されている。


 操縦席に戻り、アームを展開して桟橋の荷物を回収する。

 食料品は全て選択した②へ格納されていく。だいぶ使いやすくなって来た。


 ホクホク顔で潜水艦から出ると、またもや取り囲まれた村人たちから驚きの声が上がったが、構ってはいられない。そのままウェルに合流した。



 村長宅へ向かうと、魚を焼く良い匂いが漂ってきた。


「今日の夜はこれから祭りになります。ハル様のおかげで、宝海日のような暗い気持ちではなく、呪いからの海宝日(カイホウビ)として」


 これはその前座ですと言いながら、昼飯が出てきた。


 脂の乗った、見慣れない魚だった。

 見た目はブリに近い。大柄な体型で、切り開くと断面がテラテラと光を受けて反射している。

 脂肪がよく乗った身だ。


 村長宅の庭で七輪のような道具の上に乗せて焼くと、滴り落ちる脂で炭が爆ぜ、香ばしい煙が立ち上った。

 魚醤を塗りながら焼いていくと、香りが一段と深くなる。


 口に運んだ瞬間、思わず目を細めた。

 ありえないくらい旨い。


「これ、すごく旨いですね。なんていう魚ですか?ここら辺にいるんですか?」


「これはバーリリと呼ばれ、魚というより魔物に近い生き物でして、荒れる海、ララカ海域の手前で稀に取れる魚です。今回は相当運が良かった」


 ブリに似た大柄な魚、バーリリ。

 ララカ海域というのは、この村に到着する前に通り抜けた、大荒れの海域だろう。

 あの深度で巨大な蛇のような魔物に追われた場所だ。

 そんな場所の近くで取れる魚が、こんなに旨いとは。


 バクバクと庭で食事を平らげていると、一人の人間が勢いよく入って来た。


「ハル様! 何でもします! 連れて行って下さい!」


 大きな荷物を背負った少年が飛び込んでくる。


 先ほど礼を言ってきた、あの少年だった。コウだ。

 村の呪いの元凶に親を殺された少年。今は一人で強く生きているという。


「やめんか」


 村長がそう言って前に出ようとするよりも先に、ウェルがコウの前に立って押し戻した。


「ハル様! お願いします! お願いします!」


 強く押されながらも、コウはウェルの肩口から顔だけを覗かせて訴え続けた。


 俺は正直、現状で潜水艦に人を乗せようとは思っていなかった。

 あの狭さだ。生活するのに精一杯の空間に、もう一人を迎えるのは現実的ではない。

 コウには悪いが、何ともできないのだ。


 そう考えていた時に、手首が振動した。


 また警告か、と思って確認すると、今回は赤ではなかった。



【システムメッセージ】

 条件を達成しました。


 村への入居希望者を確認。


 以下を付与します。

 ・簡易拠点 ×1 → 収納③へ自動格納

 ・搬送用結合コンテナ ×1 → 潜水艦機能へ自動結合


 ボーナス:30,000ポイントを付与



【ポイント】

 7,000 → 37,000



 手首のディスプレイを確認して、俺は一度目を閉じた。

 つまりそういうことか。


「――ウェルさん、待って下さい」


 コウを外へ押し出そうとしていたウェルへ声をかける。


「しかし……」


「コウ」


 俺がそう呼びかけると、コウはウェルの横をすり抜けて俺の前まで来て、その場に膝をついた。


「何でも、やります」


 まっすぐな目だった。


 俺は村長へ目を向けた。

 村長は静かに頷く。


「コウは両親もおらず、今やこの村に血縁の者はおらん。好きにしてくれて構わない」


 その言葉を受けて、俺はコウを見た。

「……コウ、お前を、俺の村の第一村人に任命する」


 コウは目をぱちくりとさせた。

 何を言われたのか、すぐには理解できていないような顔だった。


 俺も正直、どういう意味になるのかまだ全ては把握していない。

 ただ、システムが「村への入居希望者」という条件を満たしたと判断した。



    * * *



「この村の工芸品や干物を、王国の街に売りに行きたいのだけど」


 食事を終えてから、俺はウェルにそう切り出した。


 ウェルは大きく首を横に振った。


 曰く、王国内の他の村や町では海産物の一切が呪い物として扱われており、売り物にならない。

 唯一の例外は塩だけで、それも教会が「清めた」として流通させている。

 実態は中抜きをされているだけだろうが、その形式がなければ流通させてもらえない仕組みだ。


 村が外貨を得る手段は現状、その塩が大部分を担っており、一部の好奇心旺盛な富裕層に海の工芸品が売れる程度だという。


 ヴィソンは、王国の中では豊かな方だと俺は思っていた。

 食事面で困っている様子が見えない。呪いがあったにせよ、海の恵みは確かにこの村を養っていた。


 ウェルの話を聞くに近隣の村の方がよっぽど貧しい暮らしをしているらしい。

 事実、夜逃げ同然でこの村に流れ込んでくる人間が後を絶たないという。


「じゃあ、王国を通じて外貨を稼ぐのは難しいということか」


 俺は率直にそう言った。


「?」


 ウェルは不思議そうな顔をしていた。

 俺の言葉が全て理解できたわけではないのかもしれない。


 だが、俺の頭の中では既に整理がついていた。


 ララカ海域をもう一度越えて、以前マーキングした無人島へ向かう。

 島に簡易拠点を置き、コウをそこに残す。

 そして、王国側ではなく、この海の反対側にある大陸へ向かう。


 向こうには別の国があるはずだ。

 ヴィソンの工芸品や海産物が「呪い物」扱いされない場所があれば、売れる。

 向こうの物品をこの村に持ち帰れれば、双方にとって利益になる。


 海の上を自由に往来できる唯一の手段を持っているのは、今のところ俺だけだ。


「よし」


 俺は立ち上がった。


「明日の朝に出発します」


 言い切ると、ウェルは一瞬呆気にとられた表情をした後、静かに頷いた。








お読み頂き誠にありがとうございます。

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感想もすごく嬉しいです!


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