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ハロー異世海〜潜水艦を強化しながら海の底を目指して交易します〜  作者: 上昇線


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3

 

ディスプレイの隅が、短い電子音と共に点滅した。



【システムメッセージ】

 強化項目が追加されました。


 ・ポイントによるショップの解放

  必要ポイント:9,000


 現在強化できる項目は以上のみです。



 島に近づいたことがトリガーになったのだろうか。

 タイミングとしては、それ以外に思い当たらなかった。


 俺は迷わず強化を実行した。



【ショップ解放】

 現在のポイント:37,000

 必要ポイント:9,000

 解放しますか?


 ▶ はい  ▷ いいえ




【強化完了】

 ショップ機能が解放されました。


 残りポイント:28,000



 手持ちのポイントが削られていくのは惜しいが、貯め込んでいても状況は何も変わらない。使えるものは使う。それしか今の俺にできることはなかった。


 辺りは既に日が落ちかけている。

 水平線の向こうに沈んでいく太陽が、海面を橙色に染めていた。


 俺は目の前の無人島を監視しつつ、新しく解放されたショップの画面を開いた。



【ショップ】

 現在購入できる商品:


 ・偵察機2型   8,000ポイント

 ・真水補充    6,000ポイント

 ・携帯食料    8,000ポイント



 品揃えを見て、思わず眉を顰めた。


 ——なんか高くないか?


 真水と携帯食料のポイントレートが、明らかに割高に感じる。

 いや、真水はこんなものだろうか。海の上では真水こそが最も貴重な資源だ。そう考えれば六千ポイントは妥当なのかもしれない。

 だが、携帯食料に八千ポイントは流石に足元を見られている気がする。


 とはいえ、冷蔵庫は既に空だ。食料と水の確保は急務ではある。


 しかし、俺は食料よりも先に「偵察機2型」を選んだ。



【偵察機2型】

 現在のポイント:28,000

 必要ポイント:8,000

 購入しますか?


 ▶ はい  ▷ いいえ




【購入完了】

 偵察機2型を格納しました。


 残りポイント:20,000



 背後の居住空間から、ガタリと物が置かれるような音がした。


 操縦席から体を捩じ込ませて扉を開け、中に入る。

 ベッドの脇の通路に、ディスク状の円盤型の物体が壁に立て掛けるようにして置かれていた。


 銀色で、つるりとした表面。直径はおおよそ四十センチほどか。厚みは五センチ程度しかない。

 持ち上げてみると、重さは三キロほどだろうか。少し重めではあるが、成人男性なら片手で持てる範囲だ。


 俺の記憶に、これと似たものがあった。


 軍で開発されていた偵察用のロボットだ。ニュースで見たことがある。あちらはもっと大きく、武骨な外見だったが、形状のコンセプトは近い。


 今となっては、別の世界の話だが。


 表面を撫でてみるが、ボタンもスイッチも見当たらない。起動方法がわからなかった。

 使い方は実際に外で試すしかないだろう。


 日は既に暮れているが俺は構わず外へ出ることにした。


 冷蔵庫の横に懐中電灯が備え付けてあったのを思い出し、それを手に取る。円盤も脇に抱え、天井の梯子を引き下ろした。


 深呼吸をする。


 外に出るという行為に、これほど心臓が跳ねるものかと思った。

 あの海の中にいた異形の生物たちの姿が、嫌でも脳裏をよぎる。浅瀬とはいえ、夜の海だ。何がいるかわからない。


 だが、いつまでも潜水艦の中に閉じこもっていても何も始まらない。


 俺はハッチの取っ手を掴み、ゆっくりと回して開けていった。


 最初に感じたのは、風だった。

 潜水艦の密閉された空気とは全く異なる、湿り気を帯びた温かい風が顔を撫でる。


 次に、潮の香り。

 海水と砂と、わずかに植物の匂いが混じった、生きた海の匂いだった。


 ハッチから上半身を出し、周囲を見渡す。

 空には見たことのない星座が広がっていた。記憶のどの星図とも一致しない配列。だが、星そのものは確かに光っており、その明かりだけで島の輪郭がぼんやりと浮かび上がっていた。


 俺は懐中電灯を点け、夜の無人島を照らした。


 目に見える範囲に生物の気配はない。

 砂浜が緩やかに広がり、その奥に森とも呼べないような雑木林がある程度の小さな島だった。直径は百メートルもないだろう。


 俺は潜水艦の上から浅瀬へと降りた。


 膝ほどの深さの海水が、素足に触れる。

 冷たくはないが、生温い。

 足元の砂を踏みしめながら、島へ向かって進む。


 やがて砂浜に足がついた瞬間、右手首に異変が起きた。


 手首の内側から、淡い光が漏れ出ている。


 何だ、と腕を持ち上げて確認すると、皮膚の上に立体的なディスプレイのようなものが投影されていた。

 表示されているのは、現在の潜水艦の位置と状態をリアルタイムで示す小さな図。方角を示す矢印と、距離の数値が併記されている。


 潜水艦から離れると自動的に起動する、位置確認用の機能のようだった。

 便利ではあるが、いつの間にこんなものが仕込まれていたのかという疑問は残る。


 俺が手首から目を離すと、ディスプレイは自然と消えた。

 意識を向けた時だけ表示される仕組みらしい。


 砂浜に立ち、脇に抱えていた円盤を地面に置いた。

 投げるように、少し乱暴に。


 特に意図はなかった。

 だが、砂地に触れた瞬間、円盤が振動を始めた。


 表面に亀裂が走る。

 機械が壊れたのかと一瞬焦ったが、亀裂はそのまま規則正しいパターンに広がり、円盤の縁から細い脚のようなものが展開された。


 銀色の脚が砂を掴み、円盤だったものがゆっくりと持ち上がる。


 蜘蛛型の偵察機。


 これだ。俺がニュースで見たことがあるのは。

 似たような多脚型の偵察ロボットが軍事開発されているのを、テレビの特集で見ていたのだ。


 蜘蛛型とは言うが、実物を目の前にすると嫌悪感は不思議とない。

 メタリックな銀色の外装に、正面から二つのライトが点灯して砂浜を照らしている。その佇まいは蜘蛛というよりも、小さなカニに近かった。


 足取りはしっかりしており、砂地の上を安定して歩行する。

 俺の近くまで歩いてくると、その場で停止した。二つのライトが、俺の視線の先をより強く照らしてくれている。


 偵察機2型。


「周囲の安全を確認してくれるか?」


 操作方法がわからなかった。

 あまりに自然に俺の側に寄り添ってくるものだから、つい言葉で命令を試みてしまった。


 半ば冗談のつもりだったが、2型は俺の言葉を理解したかのように、くるりと方向を変え、そのまま雑木林の中へと走り込んでいった。

 八本の脚が砂を蹴り上げ、懐中電灯の光の届かない暗闇の中へ消えていく。


 俺は懐中電灯でその後ろ姿を見送りながら、ぼんやりと思った。


 ——これもしかして、俺いらない?


 数分後、右手首に振動が走った。

 確認すると、手首のディスプレイが自動的に開かれていた。



【偵察結果】

 敵性存在なし



 その表示が消えるのとほぼ同時に、雑木林の茂みがガサガサと揺れ、2型がヒョコヒョコとした足取りで姿を現した。

 二つのライトをこちらに向けて、まるで「終わりました」とでも言いたげにその場で停止する。


「ありがとう」


 自然とそう口にしていた。

 機械に礼を言うのもおかしな話だが、この状況で唯一こちらの指示に応えてくれる存在に対して、感謝の言葉が漏れるのは仕方のないことだった。


 2型は俺の判断を待つように、横に付き添ったまま動かなくなった。

 俺が歩き出せばついてくる。立ち止まれば止まる。視線を動かせば、それを感知してライトの照射方向を変える。

 従順で、正確で、そして少しだけ健気だった。


 俺は2型を伴って、この無人島を一通り探索した。


 結果から言うと、何もなかった。


 人の痕跡が、一切ない。

 焚き火の跡も、建造物の残骸も、道らしきものすらも。

 本当にただの無人島だった。雑木林と砂浜と、それだけの土地。


 少し意気消沈しながらも、俺は2型を連れて潜水艦へと引き返した。


 浅瀬に差し掛かった所で、後ろからついてくる足音が消えたのに気がついた。

 振り返ると、2型が波打ち際の境界線でウロウロと行ったり来たりしている。水面に脚先が触れるたびに慌てて引っ込め、別の方向から進もうとしてはまた波に阻まれ、を繰り返していた。


「お前、水は入れないのか」


 俺は仕方なく戻った。

 2型を拾い上げると、腕の中で脚がカチカチと折り畳まれ、あっという間に元の円盤形に戻った。まるで亀が甲羅に引っ込むような動きだった。

 ライトも消え、ただの銀色の円盤がおとなしく俺の腕に収まっている。


 潜水艦に戻り、ハッチを閉める。

 円盤となった2型をベッドの脇に立て掛けるように置くと、俺はそのまま操縦席へ移動した。


 何もない島に用はない。

 夜が明けたら出発しよう。そう考えながらディスプレイを確認すると、画面の隅にシステムメッセージが点滅していた。



【システムメッセージ】

 強化項目が追加されました。

 ショップに新たな商品が追加されました。


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