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ハロー異世海〜潜水艦を強化しながら海の底を目指して交易します〜  作者: 上昇線


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 そのまま眺めているだけでは埒が明かない。


 俺はディスプレイに表示された項目を直接触ってみたが、画面は一切反応しなかった。タッチパネルではないらしい。操縦桿もうんともすんとも動かなくなっている。

 しかし、やや右寄りに設置された操作盤のボタンを押すと、項目の選択カーソルが動いた。ここから操作する仕組みのようだ。


 まずは速度を選んでみる。


 画面の表示が切り替わった。



【速度強化】

 必要ポイントが足りません。

 現在のポイント:0

 必要ポイント:6,000



「……なにも選べないじゃん」


 速度だけではなかった。収納量も、艦内広さも、どれを選んでも同じ文言が返ってくる。必要ポイントの数値だけが異なるだけで、結果は全て同じだった。


 そもそも必要ポイントってなんだよ。

 0って表示されてるからには、何かの行動で手に入るものなのだろうが、見当もつかない。


 俺は目頭を揉むと、再びスイッチを押して強化項目の画面を閉じた。


 操作盤には、まだ試していないスイッチが幾つもある。

 やや右側にあるスイッチをひとつ押し込むと、艦内に重い金属音が響いた。


 何かが展開するような音だったが、操縦席の中では何も変わらない。

 疑問に思い、正面のディスプレイへ目を向けると、先ほどとは光景が変わっていた。


 潜水艦の前方、左右それぞれから三本爪のアームが伸び出ている。

 関節部分が油圧式のように滑らかに動いており、水中でも問題なく稼働するようだった。


 操縦桿とは別に、操作盤の一角にアーム専用の操作レバーがあるのを見つけた。試しに動かすと、ディスプレイの中でアームが連動して開閉する。左右独立で制御できるらしい。


 ……で、これで何をしろと。

 掴むものがまず周囲にまったくない。

 果てしなく広がる青い水面と、遠くを泳ぐ小魚の影だけだ。


 ここに放り出された意味も、この乗り物の目的も、何もかもがわからないままだった。


 俺は苛立ちを誤魔化すようにして、背もたれに大きくもたれ掛かった。


 ふと、背中越しに感じる壁の感触が気になった。

 振り返ると、椅子の背もたれのすぐ向こうに、小さな扉がある。


 目の前のスイッチやら計器やらの情報量があまりに多く、今まで背後をまともに確認していなかった。

 どうやら、この潜水艦は操縦席だけで完結しているわけではないらしい。


 俺は早速その扉に手をかけた。

 通路は狭い。体を捩じ込ませるようにして扉から滑り込む。


 最初に目に入ったのは、簡易的な台所だった。

 一口の電子コンロが壁に埋め込まれ、その横に狭い水場がある。蛇口は一つだけ。

 上下にはそれぞれ収納スペースが設けられており、コップと深皿がしっかりと固定具で留められていた。フライパンと鍋も一つずつ。


 奥にもう一つ扉があり、覗くと狭いトイレだった。

 通路は人が一人通れるかどうかという幅で、椅子もベッドもない。


 それだけの設備。風呂もない。


 俺はため息を吐くと、固定具からコップを外して蛇口を捻った。

 水が出てくる。


 匂いを嗅ぐ。特に異変はなかった。

 室内設備は見たところ全てが新しく、清潔に保たれている。出てきた水も澄んでおり、カルキ臭すらしない。


 一口、口に含んでみた。味に異常はない。

 そのまま一気に飲み干した。


 二杯目を注ごうと蛇口に手を伸ばしたところで、蛇口のすぐ横に小さなメーターが埋め込まれているのに気がついた。


 針が僅かに左へ動いている。

 明らかに、真水の残量を示すメーターだろう。コップ一杯の水で、おおよそ全体の0.5割ほど減っていた。


 俺は一瞬だけ躊躇した。

 だが、喉が乾いているのは事実だった。そのままコップに水を注ぎ、もう一杯を飲み干す。


 メーターの針がさらに僅かに傾いたのを横目で確認しながら、俺は操縦席へと戻った。



 再び操縦桿を握り、前進させる。


 当てはない。しかし、前進しなければこのまま朽ち果てるだけだ。


 できるだけ水面上を維持して進む。

 潜れば未知の生物との遭遇があり得るが、海上ならば少なくとも視界が確保できる。


 何もなかった。


 当てなく進んで、本当に何もない。

 潜っていないこともあるだろうが、海上を漂うように進んでも水平線しか見えない。

 地球の海ですらこんなに何もない場所はそうないだろうに、ここにはそれ以上の虚無が広がっている。


 頭を抱えかけた、その時だった。


 目の前を、木の板が通過した。


「……?」


 ごく僅かな変化。

 しかし、確かなものだった。


 俺はそのまま速度を維持して直進した。

 木の板が散発的に現れ始める。流木ではない。明らかに人工的な加工が施された、木材の破片だった。


 さらに進む。

 破片の密度が増してくる。板だけではなく、縄の切れ端や、布の断片も水面に浮いていた。


 そして、見えた。


 ——船だ。


 難破した船が、海上を漂っていた。


 転覆した状態のまま、船底を空に向けて浮かんでいる。沈没もせず、ただ無人で、波に揺られている。


 一目で無人だとわかったのは、その朽ち果てた外観のせいだった。

 船体の木材は黒ずみ、所々が腐食して穴が空いている。帆柱は折れ、帆布は千切れて波間に垂れ下がっていた。

 最近の遭難ではない。ずっと前から、この海を漂い続けていたのだろう。


 だが、朽ちているとはいえ船だ。

 人が造ったものだ。

 この異質な海の上で初めて見つけた、知性の痕跡だった。


 俺はその船に近づきながら、思い出したように操作盤のボタンを押した。

 三本爪のアームが再び展開される。


 転覆した船体にアームを伸ばし、解体しながら内部を調査していく。


 ただの好奇心による行動に過ぎなかった。

 この三本爪のアームは思った以上に伸長距離が長く、力も強い。腐食した船材を掴めば、軋みながらも容易く引き剥がすことができた。


 木材が裂け、船体の内部構造が露出していく。

 その中に、何かが見えた。


 宝箱のような積荷だった。


 錆びついてはいるが、形状はどこかで見たことのある典型的な宝箱そのものだ。金属製の蝶番と錠前がついた、長方形の箱。


 中身を見たいという好奇心に駆られ、俺はその宝箱をアームで掴んで手元に引き寄せた。

 引き寄せる勢いのまま、宝箱は潜水艦の船体に触れた瞬間——吸い込まれるようにして、格納された。


「えっ?」


 不意に声が出た。


 積荷が潜水艦に食べられるようにして消えた。

 これはどこにいったのだ。


 困惑していると、ディスプレイの隅が点滅しているのに気がついた。

 操作盤からそこを選択する。



【システムメッセージ】

 収納物を確認しました。

 内容:硬貨(不明通貨)

 ポイントに変換しますか?

 

 変換予定ポイント:20,800


 ▶ はい  ▷ いいえ



 俺は迷わず「はい」を選んだ。



【システムメッセージ】

 変換が完了しました。

 

 ポイント:0 → 20,800



 一気に増えるポイント。

 先ほどゼロだった数値が、五桁に跳ね上がっている。


 なるほど。

 硬貨をポイントに変換する。そのポイントで潜水艦を強化していく。それがこの乗り物の仕組みなのか。


 理解した瞬間、俺の手は自然と動いていた。


 アームを再び展開し、難破船の残骸を片端から引き剥がしていく。

 積荷と思しきものは片っ端から掴み、潜水艦に格納させた。

 箱の中身が空だったものもあったが、硬貨が入っているものは全てポイントに変換されていく。


 最終的に、難破船一隻を丸ごと解体し終えた頃にはポイントは60,000まで積み上がっていた。



 俺は操作盤から強化項目の画面を開く。

 先ほどは全て弾かれた項目が、今度はポイントの条件を満たしている。



【速度強化 Lv.1 → Lv.2】

 現在のポイント:60,000

 必要ポイント:6,000

 強化しますか?


 ▶ はい  ▷ いいえ




【収納強化 Lv.1 → Lv.2】

 現在のポイント:54,000

 必要ポイント:5,000

 強化しますか?


 ▶ はい  ▷ いいえ




【艦内広さ強化 Lv.1 → Lv.2】

 現在のポイント:49,000

 必要ポイント:12,000

 強化しますか?


 ▶ はい  ▷ いいえ




【強化完了】

 速度:Lv.2

 収納量:Lv.2

 艦内広さ:Lv.2


 残りポイント:37,000


 現在強化出来る項目はありません。




 三つの強化を選択した直後、艦内全体に揺れが走った。


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