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無人島を出発しておよそ一時間以上。
道中、ここでも円周状に広がるララカ海域が立ち塞がっていたが、無事に乗り越えた。
無人島は、円を描くように広がるララカ海域の、ちょうど真ん中に位置しているらしい。
海を潜れる潜水艦にとって、ララカ海域はもはや障害ではなかった。速度の強化も効いており、深度を調整しながら進めば、特に問題なく通り抜けられる。
やがて、ディスプレイの向こうに大陸の影が見えてきた。
着岸できそうな場所がないかと海岸線に沿って周囲を探っていくと、少し北に進んだ辺りに、立派な港が見えた。
王国の村ヴィソンでは、岸に着く前に既に発見されていた。
あの経験を活かして、帝国側では逆に開き直って正面から入港するつもりだった。中途半端に隠れる方が、かえって不審がられる。
あくまで、魔物と間違えられないように。
俺は潜水艦の速度を落とし、ゆっくりと港へ近づいていった。
波は穏やかだった。
港に人影が数人見え、こちらを注視しているのを確認すると、俺は潜水艦を可能な限り海面に浮上させた状態で上部ハッチを開け、体を半分外に出して大きく手を振った。
こちらに敵意がないと伝わったのか、港の人間が身振りで着岸できる場所を示してくれる。
俺は再び操縦席へ戻り、指定された桟橋まで慎重に操作した。
* * *
顔を一度叩いて気合いを入れ、上部ハッチから桟橋へと出る。
武装した兵士のような人間を数人引き連れて前に出てきたのは、やけに太った男だった。
「どこのものだ」
そう問いかけられた俺は、はっきりと答えた。
「王国の商人です」
言語が通じる。
ヴィソンの口伝通りだった。
あとは、ここが今もまだ「帝国」と呼ばれているのかどうか――。
「海を渡って、ここバルム帝国領まで来たということか?」
帝国は、依然として健在だった。
「はい。お初にお目にかかります。ハル、と申します」
「そうか。奇怪な物に乗って来たな。ここでは無許可の商売を許可していない。それが他国のものであれば、尚更な」
やけに不遜な物言いをする男だ。
貴族のような階級制度の上位者なのか、それともこの港町の責任者なのかは判然としないが、相応の権力者であることは確かだろう。
「どのように許可をお取りすればよいでしょうか?」
「金だな。五十万バルは必要だ。これには諸経費も含まれる。他国の人間なんだろう? 現金はないだろうから、俺が紹介してやろうか」
そう言ってニヤリと笑う。
そもそも、こいつが何者なのかをまず名乗ってほしいところだが、足元を見られているのは分かっているので、ここは下手に出るしかない。
「是非、お願いいたします。なんとお呼びすればよいでしょうか?」
「俺か? この港町バババを治めている、ババ・ロウだ」
そう言ってふんぞり返る。
でっぷりとした腹に、人を値踏みするような目線。
こいつとは仲良くなれそうにない。
そう思わせるには十分すぎる邂逅だった。
* * *
その後、紹介された町の買取屋へ向かった。
ババ・ロウなる立場が上の人間は当然ついてこない。
代わりに兵士が二人、監視も兼ねて同行する形となった。
大通りに面した、豪華な雰囲気の質屋だった。
すぐに店主が出てきて、兵士と二言三言を交わすと、人の良い笑顔で俺の元へやってきた。
「ようこそ、バババへ。異国の方とお聞きしております。こちらへ」
そう言って奥へと誘導される。
ついてきていた兵士たちは、よほど店主が信用されているのか、そのまま引き返していった。
店の中に入ると、店主以外にも護衛と思われる人間が複数人見受けられた。
俺は上等な椅子に座り、机に持参していた小箱を置く。
「異国の品、ということですか?」
そう尋ねる店主に、俺は小箱を開けて中身を取り出しながら答えた。
「いえ、今回はこの金品の買取をお願いします」
机の上に広げたのは、装飾品から取った宝石の数々だった。
この町は、見たところ結構発展している。
まず種銭を作る段階では、出所が怪しまれるような物品は出さないようにしていた。
あの宝飾品の山は、まだ大半が手元に残っている。だが、その中にもし帝国の刻印などが刻まれている物品を出してしまえばどこから手に入れたのかという話に必ずなる。
あの難波船は、王国なのか帝国の物なのか現状不明なのだから。まずは加工しやすい宝石だけ。それが俺の判断だった。
店主はそれらを手に取り、鑑定をしながら口を開いた。
「ここだけの話にしていただきたいのですが、ババ・ロウ様には良くしていただいておりますので、本来であれば、これから買い取らせていただく金額から五十万バルと、ロウ様へのお気持ちとして更に十万バルを上乗せして頂くところではありますが――」
そう言って、こちらを見て店主は笑った。
「その十万バルは、こちらで払わせていただきます。買取金額も、誓って足元は見ておりません。今後、異国の品を扱う際は、私の商店も贔屓にしていただけないでしょうか?」
「自分も商人ですが、よいのですか?」
「はい。私の商店の販路の方が、何のコネもないあなたよりも、よほど広いでしょう? 商売は縁ですよ」
そう言って手を差し出してくる店主と、俺は握手を交わした。
悪い人間ではなさそうだ。
いや、正確には、損得勘定がはっきりしていて、その上で誠実さを取引材料にできる商人、ということだろう。
ババ・ロウとの邂逅で冷えていた気分が、少しだけ持ち直した。
買取金額は、全部で百七十万バルで売れた。
そのうち五十万バルを店主が代理として支払ってくれるというので、手元に残った金額は百二十万バルだった。
俺はそのうち二十万バルを、潜水艦に戻ってポイントに変換した。
ポイントは二万、追加された。
残金は百万バル。
変換レートも、これで簡単に把握できた。
十バルで、一ポイント。
手持ちの宝飾品の量を考えれば、当面の資金繰りに困ることはなさそうだ。
むしろ問題は、この潜水艦を強化し続けるためのポイントを、どれだけ効率よく集められるかだろう。
俺はその日、町の露店で食事を買い込み、潜水艦の中で一夜を過ごした。
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