番外編 実は1番最強母キング
実は一番強烈なのが
何を隠そう、我が家のムテキング母なのである。
顔は整っている。
悔しいが、かなり整っている。
なぜ母に似なかったのか、
一瞬だけ考えたことはある。
だが、すぐにやめた。
顔だけは完璧なムテキングだからだ。
母は、かなり変わっている。
コミュニケーションの塊の人間である。
一時帰国した際に、カタコトの言語でロサンゼルス経由の飛行機を乗り継ぐ。
そう、母も私も、カタコトでコミュニケーションをしたがるムテキングなのである。
迷いはない。
通じるかどうかではなく、どう言語を通すかで生きている。
そう母は、カタコトで世界を渡るムテキングなのである。
そして友人の数も、桁違い。
どこに行っても、誰かと話し、誰かと笑う。
気づけば、知り合いが増えている。
言葉が完璧でなくてもいい。
勢いと愛嬌で、世界はなんとかなる。
いわば母の周りは
「母を中心に世界が回っている」のである。
国境を越えるムテキング母なのであった。
そして、ムテキング母は、私のスパイでもあったのだ。
私が1週間、母の連絡を無視したときがあった。
若かりし頃、誰しも親を鬱陶しく思う時期もあったのだろう。
当時の私は、玄関ドアにポストが付いているだけの郵便受けもないボロアパートに住んでいた。
郵便物が投函されると、ポトンと音を立てて、床に落ちる。
あれは二度と忘れもしない、土曜日の朝だった。
「ピンポーン」
インターホンが鳴った。
寝ていた私は、そのインターホンの音で目を覚ました。
ふすまをガラリと開けた。
すると
郵便受けの差し込み口に
母の両目があった。
郵便受け越しに目が合った、その瞬間、寝起きの私の心臓は飛び出るのではないかと思った。
「え? なに、どうしたの?」
『いっちゃんから連絡来ないから
死んでるんじゃないかと思って』
「生きてる。ほら、生きてるよ私!じゃあね」
そう言って、扉をバタンと閉めた。
もうあの目と目の合い方でゾッとすることは、
人生で二度と経験したくない出来事なのである。
母の連絡を無視すると、突撃してくる。
そう。母は土足で人の心に踏み込んでくる
ムテキング母なのであった。
怖くないホラー映画よりも、よっぽど怖いムテキング母なのであった。
あれから長い年月が経つが、私はあの日以来、母の連絡を無視したことがない。
これ以上の恐怖体験は、したくはない。
そう思えた出来事なのであった。




