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壱果の父上はムテキング  作者: 巳ノ星 壱果


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10/10

8話 壱果、消費者金融へ行く

 父上はムテキング。

 小声になってしまうが、未だに親のすねをかじっているのが、ムテキング壱果なのである。


 父上の口癖は、


「〇〇士になれ」


 だった。


 恐らく、契約更新をせず、正社員の誘いも断っている私に、呆れていたのだろう。


 でも、仕方がなかった。

 やりたいことが、なかったのである。


 私は、ずっと夢を探し求めていた。




 自分が、何者になりたいのかを。



「なにか、ちゃんとした職業を」


 そう思っていた頃、私は父上に言った。


「○○士にはなれないけど、占い師には、なろうと思ったらなれるかも」




 その時の、父上の固まった表情を、私は未だに忘れられない。そもそも漢字が違うことを私自身も知っていたのだ。


 それから父上は、私に何かを言うことをやめた。




 だが数年前、ようやく私にも夢ができたのである。


 私はすぐにムテキング父上に電話をした。


「宅地建物取引士になりたいんだ。でも、教材費が結構高いんだよね」


 すると父上は、短く言った。



「家族カード使っていいよ」



 父上の一言で、私は通信講座の教材を手に入れた。

 でも、宅地建物取引士の試験は、とても難しかった。


 試験前には過去問を解き始めていたが、正直受験前から落ちることは分かっていた。


 それでも、受けなかったら0点。

 受ければ、1点でも取れる。


 結果はもちろん不合格だった。


 でも、受けたことに意味がある。

 とてもじゃないが、点数は言えない。


 珍しく、二日ほど寝込んだ。


 でも二日後には、もう開き直っていた。


「びびって受けなかった人は0点。でも私は、点数を取ったのだ」


 落ちたはずなのに、なぜか最強メンタルのムテキング壱果になっていたのである。


 私は合格発表前に、すぐ予備校を探した。


 とても独学では無理がある。

 そう判断したのである。



 三つの予備校の先生に会いに行き話を聞きにいった。その中で、一番自分に合っていると思う予備校を見つけた。


 私はすぐに父上へ電話をした。


「40万円位なんだけど、予備校に通いたいんだよね」


 すると父上は言った。

「昨年の教材があるからそれで勉強しなさい。パパも、もうすぐ定年だし」


 断られるとも微塵も思っていなかったわたしはどうするか考えた。


 一刻も早く、予備校に通いたかったのである。


 私は、ローンを組むのが嫌いだ。


 小さな脳みそで、必死に考えた。

 どれが最善なのかを。




 そして、父上へ電話をした。


「消費者金融でお金を借りて、予備校に行きます」


 すると父上は、少し慌てたように言った。


「わかった、わかった。明日、お金振り込むから」

 次の日には私の口座に父上からの入金があった。


 そして私は、予備校行きの切符を手に入れたのである。


 父上の、無言の圧力とともに。


 絶対に落ちてはいけない私と父上の戦いが、始まったのである。


 電話を切った後の私は勝利の微笑みをした。ムテキング父上に勝ったのである。

 ムテキング父上が定年したら、マルチリンガルな父上と起業をするのが私の目標であった。


 決して負けられない戦いがここにある。







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