8話 壱果、消費者金融へ行く
父上はムテキング。
小声になってしまうが、未だに親のすねをかじっているのが、ムテキング壱果なのである。
父上の口癖は、
「〇〇士になれ」
だった。
恐らく、契約更新をせず、正社員の誘いも断っている私に、呆れていたのだろう。
でも、仕方がなかった。
やりたいことが、なかったのである。
私は、ずっと夢を探し求めていた。
自分が、何者になりたいのかを。
「なにか、ちゃんとした職業を」
そう思っていた頃、私は父上に言った。
「○○士にはなれないけど、占い師には、なろうと思ったらなれるかも」
その時の、父上の固まった表情を、私は未だに忘れられない。そもそも漢字が違うことを私自身も知っていたのだ。
それから父上は、私に何かを言うことをやめた。
だが数年前、ようやく私にも夢ができたのである。
私はすぐにムテキング父上に電話をした。
「宅地建物取引士になりたいんだ。でも、教材費が結構高いんだよね」
すると父上は、短く言った。
「家族カード使っていいよ」
父上の一言で、私は通信講座の教材を手に入れた。
でも、宅地建物取引士の試験は、とても難しかった。
試験前には過去問を解き始めていたが、正直受験前から落ちることは分かっていた。
それでも、受けなかったら0点。
受ければ、1点でも取れる。
結果はもちろん不合格だった。
でも、受けたことに意味がある。
とてもじゃないが、点数は言えない。
珍しく、二日ほど寝込んだ。
でも二日後には、もう開き直っていた。
「びびって受けなかった人は0点。でも私は、点数を取ったのだ」
落ちたはずなのに、なぜか最強メンタルのムテキング壱果になっていたのである。
私は合格発表前に、すぐ予備校を探した。
とても独学では無理がある。
そう判断したのである。
三つの予備校の先生に会いに行き話を聞きにいった。その中で、一番自分に合っていると思う予備校を見つけた。
私はすぐに父上へ電話をした。
「40万円位なんだけど、予備校に通いたいんだよね」
すると父上は言った。
「昨年の教材があるからそれで勉強しなさい。パパも、もうすぐ定年だし」
断られるとも微塵も思っていなかったわたしはどうするか考えた。
一刻も早く、予備校に通いたかったのである。
私は、ローンを組むのが嫌いだ。
小さな脳みそで、必死に考えた。
どれが最善なのかを。
そして、父上へ電話をした。
「消費者金融でお金を借りて、予備校に行きます」
すると父上は、少し慌てたように言った。
「わかった、わかった。明日、お金振り込むから」
次の日には私の口座に父上からの入金があった。
そして私は、予備校行きの切符を手に入れたのである。
父上の、無言の圧力とともに。
絶対に落ちてはいけない私と父上の戦いが、始まったのである。
電話を切った後の私は勝利の微笑みをした。ムテキング父上に勝ったのである。
ムテキング父上が定年したら、マルチリンガルな父上と起業をするのが私の目標であった。
決して負けられない戦いがここにある。




