7話 我が家は、無重力空間
無敵な父上は、私を叱ったことがない。
なぜ怒らないのかわからない。
「壱果に何を言っても伝わらない」
と思われているのかもしれない。
ただ、違和感を覚えたときだけ、黙って溜息をつく。
そう、父上は「黙るムテキング」なのだ!
だが私は知っている。
父上の怒りスイッチを。
それは、私にとっての地雷スイッチであった。
床にカバンを置いた、その瞬間だ!
父上の中で何かが起動する!
「床にカバンが置いてある」
この言葉を、何十回聞いたかもう覚えていない。
幼少期は自分の部屋に逃げるように、カバンを置きにいった。
清潔で快適な空間を愛する父上を黙らせる術を、
私は大人になってから身につけてしまったのである。
「私の周りは宇宙空間なのです。
そんなに浮かせたいなら、宇宙飛行士を目指すべきだったと思うよ。全部浮いてて快適だよ」
そう言うと、父上は黙る。
私はその隙に、そっとウォークインクローゼットへ物をしまうのである。
きっと父上は思っているのだろう。
なぜこんな無敵な娘に育ってしまったのか、と。
来世では、父上が宇宙飛行士になっているに違いない。
そして私は、その宇宙飛行士の父上のもとに生まれたいと思う。
無重力でも、きっと同じことを言われるのだろうけれど.....




