3話 父上の手料理
父上は、きちんとした性格だから、あまり無駄な出費もしなかったのだろう。
後に聞いた話では、「月のお小遣い10万円」で生活をしていたらしい。
「壱果、最近パパは料理をし始めたんだ」
「そうなんだ」
「今作ってあげるから、待ってて」
幼いながらに、父上と過ごす時間は貴重だった。
そう言って、父上はマッサージチェアから立ち上がり、キッチンへと向かった。
父上の料理は、時間がかかった。
長いときは、二時間ほどキッチンに立っていた。
我が家では、台ふきも、箸を並べるのも、すべて手伝うのが決まりだった。
小学校三年生くらいからは、皿洗いも当番制だった。
そうやって、育てられてきた。
リビングのテーブルに、箸やスプーンを用意して待っていた。
ぐっとお腹が空いてきたが、ご飯前にお菓子を食べるのは禁止されていた。
だから、黙って待った。
待っていると、リビングにいい香りがする。
香ばしいお肉の匂いと、不思議なスープの匂いがした。
いくつものスパイスを調合して仕上げたスープと美味しそうなスペアリブ。
スペアリブは私の大好物だった。
でも父上の自慢料理の大本命は豆のスープな事は幼いながらに気がついていた。
あれが何の豆だったのか、今となっては分からない。
匂いはとても良かったことは覚えている。
恐らく、どこかの国の料理だったのだろう。
子どもの舌には、合わなかった。
でも、たまにしか会えない父上に、本音は言えなかった。
「パパ、おいしいね」
心の中でスペアリブが美味しいねといいたいのをぐっとこらえた。
そう言うと、父上は満面の笑みを浮かべた。
豆のスープ、まずくはない。
でも、普通だった。
それでも、父上が作る料理は、すべて無敵だった。
父上は、自分の中で、三ツ星のシェフだったのだ。




