第3話
山中の道を5人の男女が歩く。
神器府年寄役・神器守の徳川千代姫。
神器府若年寄の立花槍花。
監察役の三ツ谷小鈴。
そして、長州で拾われた疫病神村田蔵五と、元忌神の楠本いね子。2人は神器府同心の役を与えられている。
槍花が、蔵五といね子に言う。
「ふたり共、疲れていないか?」
蔵五が答える。
「俺は大丈夫です。いね子ちゃんは?」
「私も大丈夫です」
蔵五の視線に恥ずかしがりながらいね子が答える。もじもじとする態度に蔵五が心配して言う。
「やっぱり疲れてるんじゃない?」
「疲れていません。ご心配なく」
「なら、いいんだけど」
槍花がにやにやしながら言う。
「ふむふむ。そういうことだな」
小鈴がぼそぼそと一人で話し出す。
「お姉ちゃん聞こえる?怪力女が見合いの仲人みたいになってるのよ。少しは女らしくなってからやりなさいよねぇ」
「…小鈴、聞こえているぞ」
千代姫が皆に言う。
「さて、幕府から指令があります。ここらで山賊が跋扈してるそうです。山賊は豪傑と思われるらしく、危険が高いと判断。我々が捕獲する事となりました」
先日こらしめた大鳥がするはずだった任務だった。大鳥が謹慎となった為に急遽その任務が回ってきたのだった。
小鈴が千代姫に言う。
「私はわざわざ姫様が出るほどの任務とは思えないんですけどね。そこら辺の雑魚にやらせておけばいいんですよ」
「駄目ですよ。人びとの安寧を護るのが我々の職責です。いかなる案件も只々誠実に勤めるばかりです」
「はーい。分かりました」
「よろしい。さて、山賊のねぐらはある程度目星がついています。小鈴さん、そうですね?」
「はい、そうでーす。この先の1本松を山中に分け入るとあるそうです」
「そちらに向かいましょう。では槍花さん、戦闘はよろしくお願いしますよ」
「お任せください!いやあ、腕が鳴りますなぁ」
「お姉ちゃん聞こえるー?怪力女がやたら張り切ってるわよー」
「くっ!」
やがて一本松にたどり着く。周りの木々がきり倒され、真ん中に巨大な一本松が立っている。
蔵五が言う。
「小鈴様、豪傑や山賊との事ですが、私たちは足手まといにならないでしょうか」
「大丈夫だよ。怪力女は無茶苦茶強いから。姫様も強いし。私たちはぼんやり突っ立ってたらすぐ終わるよ」
「そうですか…」
「そうだ、蔵五くんはいね子ちゃんを守ってあげてね。私は自分で精一杯だから。ニヤニヤ」
「分かりました!いね子ちゃんは俺が守るからね」
いね子が耳まで赤くして下を向き、言う。
「…村田様にお任せします」
一行は山中へ分け入る。
小鈴がわざとらしく大きな声で話す。
「ちょっと槍花ー。本当にこの道で合ってるのー?」
「え?いや、私は知らんが」
「もう、頼りにならないんだからー。脳みそまで筋肉なんじゃないのー」
「こ、小鈴!?言い過ぎではないか?」
「その調子。大きな声で演技してね。山賊に聞こえるようにね」
「え、演技?ああ、なるほど。分かった」
「この怪力女ー!そんなんじゃ結婚なんてできないわよー」
「え?いや…あれ?」
「猿とでも結婚しておいたらー!」
「あれ?あれ?」
姫様がため息をつく。
そして言う。
「皆さん、止まってください」
目の前に3人の男が現れた。汚い風体で、手には錆びた刀を持っている。
リーダー格の男が部下たちの後ろに立ち言う。
「よう、姉ちゃんたち、結婚相手を探してんのかい?よかったら俺たちが…」
「では槍花さん、お願いします。まずは、前の2人を始末してください」
「かしこまりました!」
相手が話し終わる前に、槍花が飛び出す。
弾かれた矢のように一瞬で距離を詰め、2人の顎を拳で打つ。
脳震盪を起こした2人は、その場に崩れ落ちる。
「なに!?お前、豪傑か?」
「そうだ」
「ならば!」
リーダーの刀が炎で包まれた。
それを見て小鈴が言う。
「雑魚発見!姫様、あいつが豪傑の頭領ですね」
「そうみたいですね。では」
千代姫が男を睨みつける。しかし、何も起きない。
「うん?効かない?と言うことは…」
男が炎の刀を振り回しながら言う。
「お前ら、今すぐ立ち去れ!そこの2人はお前らにやる!だから、立ち去れ」
槍花が叫ぶ。
「姫様!こいつは豪傑ではありません!怪異です」
千代姫が落ち着いて言う。
「なるほど。ならば、せっかくなので試したい事があります。蔵五さん、いね子さん、町でやった気力を移す力。あれをやってもらえませんか」
「え?」
「槍花さんに気力を注ぎ込んで頂きたいのです」
「わ、分かりました」
「では槍花さん、草薙の使用を許可します。ふたりの力を使ってみて下さい」
「かしこまりました!」
槍花が懐から文鎮を取り出す。草薙のレプリカである。
蔵五がいね子の手をつかむ。
「いね子ちゃん、行こう!」
「は、はひっ!」
ふたりは走り出す。
そして槍花の手に触れる。
「では村田様!参ります」
「頼んだ!」
次の瞬間、槍花の体が光りに包まれる。
槍花が言う。
「暖かく力強い。これを草薙に注ぎ込めば…」
槍花の手の中の文鎮が激しく輝き出す。
周囲がまばゆい光に満ちる。
「や、やめろ…」
山賊が苦悶の表情を浮かべ、黒い霧となり霧散する。
「すごいな!蔵五といね子、見事だ」
「…おおおっ、おっ」
「ど、どうした、いね子?」
槍花がいね子の顔を覗き込む。
「おおおおお♡」
恍惚とした表情で必死に蔵五の手をつかむいね子の姿があった。
槍花が気力の本流に快感を感じながら、困惑する。
「い、いね子?そ、そろそろ手をはなせ…」
「おおおおお♡」
「無理だ!もう無理だから。蔵五、離してくれ」
「それが、いね子ちゃんが離してくれないんです」
槍花が絶叫する
「ああっ!だ、だめぇ!…お、お、おおおおお♡」
「おおおおお♡」
「おおおおお♡」
「ヒィィィ!?」
アホな顔で悶えるいね子と槍花。
怯える蔵五。
それを見て千代姫がつぶやく。
「なにこれ…面白い」
横で小鈴が唖然とする。
「あの真面目な槍花がアホみたいな顔でよだれ垂らして悦んでる。すごい…ゴクリ」
「これは、すごいですね…ゴクリ」
二人がゴクリとのどを鳴らし、見とれる。
やがて、ハッとなった小鈴が言う。
「ハッ!?っていうか、姫様、そろそろ止めたほうがいいんじゃ。壊れちゃいそうですよ」
「はっ!?いけない!」
千代姫が蔵五をにらみつける。
蔵五の気力が散る。いね子と槍花が弾かれたように手を離し、ひっくり返る。
ふたりは放心状態でビクンビクンとなる。
蔵五が叫ぶ。
「いね子ちゃん!大丈夫?」
「は、はい…大丈夫れす。すごく良かった…」
「槍花様は!?」
「か、体が熱い…」
「熱い?熱はありますか?」
蔵五が槍花のおでこに手を当てようとする。
槍花が飛び上がり、蔵五の手から逃げる。
「なななな、なにをするっ!?このへへへ、変態っ!」
「え?いや、熱を…」
「え?…いや、すまん。熱はないから、離れておいてくれ」
「はい」
小鈴が千代姫にいう。
「姫様、笑ってないで真剣にやってください。これ、どう報告します」
「ふふふ。ごめんなさいね。これは、ありのまま報告してちょうだい。色々すごすぎて、ちょっと私の手に負えないかも」
「はい。ではありのまま報告しますね。お姉ちゃん、聞こえる?報告だよー。ええと、なんていうか…」
少し考えてから言う。
「あの怪力女がメスになった」




