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第2話

いね子は立ち上がる。大鳥の背中を睨みつける。

その時、向こうにいる大鳥が振り返った。いね子を見てニヤリと笑う。

そして、足元を歩く子犬を蹴飛ばす。

子犬はキャンと鳴き地面を転がり、ぐったりとする。

いね子を脅しているのだ。

いね子が狼狽する。


「な、なんでそんな事を!」


いね子が走り出した。蔵五が慌てて追いかける。

いね子が子犬を抱きかかえる。かなり弱っている。小さく震えている。


「どうしよう、死んじゃう」

「いね子ちゃん、助けたいの?」

「はい。でも、こんな乾いた土道じゃ植物もほとんどないし」

「…よし、俺から気力を吸い取っていいよ」

「え?」

「二人で野垂れ死ぬ前にさ、子犬を一匹助けるってのもありだよ。仇討ちよりもその方がよほど良いよ」

「村田さん…ありがとうございます。そのとおりです。では、失礼します」


子犬を左手に抱きかかえ、右手で蔵五の手を握る。

人が集まってきた。気にせず2人は治療を進める。


「…え?なにこれ」


いね子が驚愕する。

蔵五の中にあるのは無尽蔵とも思える気力。

激しくうねり、いね子の体になだれ込んでくる。

戸惑いながらもいね子はそれを子犬に注ぐ。子犬が光りに包まれる。

蔵五の力の暖かさに身体が多幸感に包まれる。うっとりとしていたいね子だが、すぐに焦りだす。


「ちょっ、やばい」


気力の奔流に耐えきれない。

いね子は犬を置き、次は土道に力を逃がす。枯れた地面から雑草が芽吹き出す。


「だ、だめっ。あ、ああっ」


いね子は、叫ぶ。


「おおおおお♡くっ!」


なんとか蔵五の手を離す。

そこにいたのは、健康を取り戻しツヤツヤになった美少女。

体を震わせながらいね子はつぶやく。


「ななな、なに…今の?」

「わん!」


子犬がいね子の胸に飛び込み元気に鳴く。


「ええと…とりあえず良かった」


子犬を抱きしめる。

ふと見ると、蔵五が呆然としている。


「いね子ちゃん、すごい。子犬を救ったね」

「え?いえ、村田さんが…」

「あと、いね子ちゃんがやたらかわいくなってるんだけど…」

「へ?な、何ですか?か、かわいい?私が?」


そこに大鳥が叫び出す。


「てめえが忌神だったのか。あの時は父親のせいにして助かろうとしたんだな」

「ち、ちがう!私は…」

「この親不孝者が!忌神め!この場で斬って捨ててやる」


剣を抜く。

いね子が叫ぶ。


「やめてください!私が何をやったと言うんですか!ただ子犬を助けただけです!しかも、あなたが蹴飛ばした子犬です!私のどこに非があるのですか!」


一瞬の静寂。そして、集まって来た人々が叫び出す。


「そのとおりだ!」

「お嬢ちゃんが正しい!」

「お侍さんが間違ってる!」


うろたえる大鳥。

面子を失い窮地に追い込まれてから取った方法は、暴力だった。


「天誅だ!」


2本の大刀を振り上げる。


反射的に、蔵五がいね子の前に立ちふさがる。

そして。


「おやめなさい!」


凛とした声が響く。

そこには旅装束の女三人組がいた。

大鳥が逆上して叫ぶ。


「なんだ、てめえら。じゃましたらぶった斬るぞ」


小柄な少女が言う。


「姫様、雑魚がなんか言ってますよ」

「だから、雑魚とか言ってはいけません」


高貴な女が大鳥を睨見つける。その瞬間、2本の大刀が手から滑り落ちる。


「なっ!?」


慌てて拾おうとするが、持ち上がらない。先程まで軽々と振り回していたはずが。大鳥は何事かと叫ぶ。


「なんだ!?何をしやがった」


高貴な女が言う。


「では、槍花さんお願いします」

「かしこまりました」


武芸者風の女が大鳥の刀に歩み寄る。大刀を一本、片手で軽々と持ち上げる。


「なかなかの名刀だな。惜しいが…すまぬ」


刃先を指でつまみ、そのまま折ってしまった。


「さて、もう一本も」


転がる折れた二本の大刀を前に、大鳥が呆然として動かなくなる。

そこに小柄な少女が近寄り、大鳥の耳元で言う。


「早くごめんなさいしなさいよ。あの高貴なお方は、神器府年寄役の千代姫様。この怪力女は若年寄の立花槍花。有名人だから、豪傑なら聞いた事あるでしょ?」

「え?え?」

「小鈴、誰が怪力女だ」

「本当なんだから、いいでしょ」


徳川千代、立花槍花、三ツ谷小鈴。

それが三人の名前だった。

大鳥が叫ぶ。


「ち、千代姫!?ヒ、ヒィィィ」


そのまま慌てて逃げ出した。

それを見送ったあと、千代姫が蔵五といね子の前にやってくる。


「大鳥殿にはあとで厳しく指導がはいるように手配します。ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」


千代姫が言って頭を下げる。

そして見渡す。

雑草が芽吹く土道、生き返った子犬、見違える美少女となったいね子、そして呆然とする蔵五。

千代姫が言う。


「これは、書生さんがやったのですか?」

「え?いえ、私ではないです。こちらのいね子ちゃんが…」

「いえ、私ではないです。いや、私ではあるんですが、こちらの村田様がなんというか、とにかくすごくて…」


千代が首をかしげる。


「つまり、村田さんといね子さんの、おふたりで力を合わせて行ったと?」


蔵五といね子が顔を見合わせる。


「そうみたいです」

「なんともすごい力です…ええと、少し待っておいてください。そうだ、そこの茶屋でお茶でも飲んでおいてください」


蔵五といね子は千代姫に促され茶屋に向かう。

町人達がそのふたりの周囲に群がり、興奮して話しかける。

千代姫が笑う。


「ふふふ、人気者になりましたね。さて、と。小鈴さん、幕府評議と連絡を取ってください」

「了解!何て言いますか?」

「ええと、長州で2名の豪傑を発見。おそらくは、無限炉の少年と、それを引き出す力を持つ少女。人格は控え目で穏やかだが、その力があまりに強力。放置すれば世の秩序を乱す恐れありと判断。一旦私の庇護に置き同行。長崎での任務を終え江戸に戻り次第、幕府評議の判断を仰ぐとしたい」


「長いなあ」

「もう一度言いましょうか?」

「大丈夫、任せといて。お姉ちゃん、聞こえるー?私。姫様から連絡だよ。え?怪力女?そうそう。またやっちゃたんだよ。困っちゃうよね」


槍花が憮然として口を挟む。


「…小鈴、私の悪口を言ってるのか?」

「言ってませんよー。じゃあお姉ちゃん、怪力女が絡んできたからお仕事の話するね」

「くっ」

「長州ですごい豪傑を発見してさ、めっちエグいんよ…」


千代姫はくすりと笑い、蔵五達の方へ歩く。

町人が道を開け道を作る。

千代姫が蔵五といね子に言う。


「おふたりは、いま何をしてらっしゃるんですか」

「私は…乞食です」

「俺もいまから乞食…なのかなぁ」

「そうですか。もしよろしければ、私に雇われて頂けませんか?」

「え?」


「申し遅れました。私は神器府の千代と申します。江戸の役人です。おふたりには給与も配慮します。ぜひ、よろしくお願いします」


蔵五がいね子に言う。


「いね子ちゃん、受けようよ」

「ええと、何がなんだか」

「野垂れ死にするよりも、よほど良いはず」

「は、はい。分かりました。受けます」


千代姫がニッコリ笑う。


「ふふふ。ではお二人とも、よろしくお願いします」


蔵五が言う。


「いね子ちゃん、これからもよろしくね」

「は、はい…よろしくお願いします」


いね子は蔵五の視線に、耳まで赤くしながら頷く。

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