第21話
光が消えると、そこには安倍晴明。
キセルをもった絶世の美女。
「…酒天はおるか?」
あたりを見渡すが、酒吞は見当たらない。いるのは、酔いつぶれた星神だけ。
「嫌がらせのつもりか…」
イライラとしながらキセルを吸う。
星神をしげしげと見て首をかしげる。
「一体なんだ、この状況は」
そこで、星神がいきなり目を覚まし、安倍晴明を見る。
「あんた誰?」
「びくっ!」
星神が目を細めて言う。
「安倍晴明でしょ?」
「いきなり、なんだ?」
「さっき酒吞から聞いたのよ。異界でブイブイいわしてるんでしょ。それにしては、えらく中途半端な強さで戻ってきたんじゃないの?」
「う、うむ。酒吞にしてやられてしまったようだ。外から無理やり異界への門扉を開けたのだな。お陰で、力を捨てて無理やり通り抜けるしかなかった」
「ふーん」
星神は寝返りを打ち、向こうを向く。
「早くここから出ていってよ。目障りだから」
「分かった、そうしよう。さて、京はどちらかな」
安倍晴明は辺りを見渡す。
眼下には蔵五達の休む里。暗がりの中、星上山から放たれた光に驚き、人がわちゃわちゃしているのが見える。
「ふむ、人がたくさんおるな」
星神が向こうを向いたまま言う。
「里の人間に手を出したら、あんたぶっ殺すわよ」
「手など出さぬよ…おや、あれは?」
「何よ?」
「こちらを見据える者達がおる」
「何ひとりでブツブツ言ってんのよ。うるさいから早く行ってよ」
「わかった」
安倍晴明は、とん、と跳ねる。
そのまま夜空を飛び、そして里の手前で着地する。
プカプカとキセルをくゆらし、目の前の三人の男女に目をやる。
安倍晴明が言う。
「そなたらは?」
「神器府若年寄の徳川綱良」
「同じく、神器府若年寄の徳川千代」
「…」
無言の真白。慌てて千代姫が言う。
「こ、この子は真白です」
「ふーん。で、何か用か?」
綱吉が答える。
「安倍晴明殿。この場で滅せられて頂きたい」
「あのなぁ。戯言はよさんか…ん?なんで私の名前を知っておる?」
「あもう様より伺っております」
「なんとまぁ。そうか、あの時に現人神となったか。で、あもうはどこにおる」
「さて?どこでしょうな」
綱吉と千代姫が手に気力を集める。光る槍が生まれた。そして、真白も手に光る手斧を生み出す。
安倍晴明が苦笑する。
「舐められたものよのう。そんな玩具で私を滅するつもりとはな」
「試しますか?」
「たわけ。喝!」
安倍晴明が気合をいれると、三人の武器は消滅する。
うろたえる綱吉達。
「落雷!」
そこに、突如空から舞い降りた天子が叫ぶ。そして落雷。まばゆい光と雷鳴が響く。
皆が注目する中、雷に打たれた安倍晴明は、何も変化なく無傷だった。
退屈そうにキセルを吸う。
天子が驚き口をパクパクとさせる。
安倍晴明はため息を一つつき、振り返り言う。
「のう、ここまで我慢したのだ。そろそろ殺してもよかろうよ」
いつの間にか後ろで寝転んでいる星神が答える。
「駄目って言ってんでしょ」
「ふむ…では、もう少し我慢するか」
安倍晴明が綱良に言う。
「さて、そこの神に免じてお前たちを生かしておいてやる。それよりも、あもうはどこだ?近くにおるのか?」
「上におられますよ」
「上?」
安倍晴明が上を見る。星に満ちた夜空しかない。
「からかっておるのか?」
そこに、物陰から現れた景光と源兵衛が安倍晴明に襲いかかる。
「くだらん。喝!」
景光と源兵衛は何かに殴られたかのように吹き飛んだ。
安倍晴明が綱良に言う。
「からかっておるな?」
綱良が笑う。
「はい。からかっております」
「殺す」
安倍晴明は憤怒の表情でツカツカと綱良に歩み寄る。
星神がその背中に言う。
「ちょっと。殺したらただじゃ置かないわよ」
安倍晴明が立ち止まる。そして、空を見上げ言う。
「いま、ただじゃ置かないと言ったか?」
「そうよ。耳が腐ってんの?」
「どいつもこいつも、コケにしおって。神よ、ただじゃ置かぬとは、妾に何をするというのだ?」
「こんなことよ」
「なに?」
振り返る安倍晴明。
そこには手をつなぐ天羽、蔵五、いね子がいた。
星神が言う。
「ほれ、やっちゃいなさい」
天羽の手には銅剣。草薙のオリジナル。気力に満ち、ミシミシと空間をきしませる。
「おおおおお♡」
「おおおおお♡」
天羽はアホな顔で草薙を投擲する。
完全に虚を突かれた安倍晴明の胸に見事に突き刺さった。
安倍晴明が天羽を睨みつける。
「あもう、貴様っ!謀ったな!」
「おおおおお♡」
「え?な、なに!?」
安倍晴明の身体が崩れ出す。やがて煙となり宙に消える。草薙は乾いた音を立てて地面に落ちた。
あもうはいね子の手を離す。
「おおお…蔵五、いね子。お疲れ様でした」
「は、はい」
「ビクン、ビクン…」
そして、草薙を回収し、星神の前に膝をつく。
「星上様、ありがとうございました」
「また酒とつまみを持ってきなさいよ。それでチャラにしてあげる」
「かしこまりました」
「あと、蔵五ちゃんをちょうだい」
「それはなりません。蔵五には蔵五の人生がありますから」
「ふん、ケチ。そうだ、蔵五ちゃんの呪いが解けたみたいね。よかったじゃん」
「え?…あら、本当ですね」
天羽が蔵五を振り向き、言う。
「蔵五、貧乏神の呪いが解けましたよ」
「え?」
「これで心置きなく自由に生きられますね」
蔵五はいね子と顔を見合わせる。
「いね子ちゃん…やった」
「村田様…おめでとうございます」
「これで胸を張って、いね子ちゃんに結婚を申し込める…あ、言っちゃった」
「え…?」
「あ、あの、その」
「え?え?え?」
小鈴がニヤニヤしながら言う。
「お姉ちゃん、報告だよー!蔵五君が勢いでいね子ちゃんに結婚申し込みしたよ。なに?自分は愛人枠で大丈夫って?もう、何言ってんのよ…」
綱良が言う。
「では皆、戻るぞ」
「はい!」
沈黙のふたり。
歩きながら、蔵五はなけなしの勇気をしぼり出す。
ぎこちなく、いね子の手を握る。
無限炉としてではない。
愛しい人と共に未来を歩みたい。
その決意表明を込めて、いね子の手を握る。
「…!」
いね子の手ははじめ驚き、やがて力強く握り返す。
汗ばむふたりの手。
無言で歩く。
蔵五が顔を赤くして夜空をみあげる。満天の星。
いね子が下を向いて笑う。
「ニチャア」




