第19話
江戸。
神器府の評定の間。いつものメンバーである紀州重造、紀州巴、徳川綱良、徳川千代が座している。
上座に座る重造が言う。
「では、これより評定を始める。1つ目の議題だが、出雲国松江藩領・星上山に落ち神が現れたとのことだ。まだ正気を保っているが、放置すればいずれ完全に落ちるだろう。幕府評議からは、主力を橘景光と本田源兵衛の両名、監察役をあもう殿として早急に鎮めよ、とのこと。さて綱吉様、早急のご対応をお願いしたいのですが」
「分かった」
「さすが綱良様!見事なご決断!男前!そして、千代姫には指図役助役として同行して頂きたい」
「お受けいたします」
重蔵がニヤニヤとして言う。
「うむ。で、景光とはうまくいっているか?」
「…はい?」
「いや、若い男女の事を年寄りの私がとやかく言ってはならんな!失礼失礼。私にできることはせいぜい仲人役を務めるくらいか」
白い目で千代姫が言う。
「…景光様には、潮という押しかけ女房ができまして」
「な、なにっ!?」
「まだ幼い少女ですが、景光様を深くお慕いし、景光様も気まずいのか例の女遊びを慎んでいると聴きますね」
「そ、そんな…私の千代と景光の仲人作戦が…いや、潮と景光の仲人作戦とすれば解決だな。げっへっへ。では、その潮とやらを小使いとして同行させなさい。景光が浮気をせぬように離れさせてはならん」
「…はあ。かしこまりました」
重造が言う。
「しかし、このあもうという巫女は何者なのだろうな。大物だと思うのだが。綱良様はご存じで」
「さてな」
綱良がそしらぬ顔をする。まさか700年生きる現人神とは明かせない。知っているのは将軍も含めてごく少数。
「あもうに助役をつけて、その者に実務をやらせるが良いかな。連絡役も兼ねて小鈴がよいか…」
そのまま評定は続き、落ち神の鎮撫メンバーが決定された。
以下の通り。
主力、橘景光、本田源兵衛。
指図役、徳川綱良。
指図役助役、徳川千代。
指図役副官、真白。
監察役、天羽。
観察役助役、小鈴。
見習い同行、蔵五、いね子、天子。
小使い、潮。
出立は明朝。
公儀船で5日程度の強行軍となる。
その頃。
ペンドラゴンが逗留する改易大名の屋敷。
女子5人組がダラダラと時間をつぶしている。
メンバーは以下の通り。
ペンドラゴン、シャーロット、槍花、本田八重、那智梓。
日本語の練習をするペンドラゴンの世話を八重と梓がしている。
シャーロットは買ってきたサイコロを転がして遊んでいる。
のんびりそれらを見ていた槍花がふと言う。
「なあ、シャーロット。お前の国の怪異、ドラキュラとデュラハンは倒したが、これでおしまいと言うわけではないのか?」
「ん?まだ、本命が残っとるな。メリュジーヌや」
「メリュ、メ、メリュ?舌を噛みそうな名前だ」
「龍人やね。こいつは強いでー。まあ、強いと言ってもペン様の方が強い。ちょびっと苦戦はするかもしれへんが、最後はグングニルでバチコーンや」
「バチコーン?まあ、いい。で、そのメリジェンヌを倒したら…」
「メリュジーヌな」
「うむ。メル、メメ、メリュジーヌを倒したら、母国に帰るのか」
聴き耳を立てていた八重と梓がビクッとなった。
シャーロットと槍花がそれを見て顔を見合わせる。
「そうやで。みんなともお別れや」
「さみしいな。そうだ、残れば良い。ふたりはずっとこの国で暮らせばいい」
「魅力的な提案やね。でもアカン。ペン様の本業はイギリス国民の生命と財産を守る軍人や。あたしはその副官。あんたらと同じや。果たすべき使命がある」
梓が振り返り、泣きながら言う
「い、嫌です…せっかく皆と仲良くなれたのに。他に友達がいないのに。ひとりも減ってほしくないです」
八重も暗い顔で言う。
「私も他に友達がいないし、嫌だよ。でも、仕方ないよね。帰るべき場所に帰るんだから」
槍花も頷く。
「私も他に友達がいないしな。正直なところ、とても寂しいぞ」
シャーロットが笑う。
「なんやあんさんら、引っ込み思案さんやな。よっしゃペン様、ペラペラペラ」
ペンドラゴンが真面目に少し考えて、その後答える。
「ペラペラペラ!」
「オッケー。ペン様曰く、例え遠くに離れたとしても、私たちずっと友達だよ、との事や」
「ペン様ぁー」
「うわーん」
八重と梓が感動してペンドラゴンにしがみつく。槍花がそれを見て目を潤ませる。
シャーロットが苦笑して何もない空間に呟く。
「あんたもお勤めご苦労さん。もうすぐお別れやね」
透明化している、綱良配下のくノ一楓。
規則違反をする。
シャーロットの耳元で話しかける。
「なかなか楽しい任務です。私も皆さんと友達になった気持ちですよ」
「はいはい。それは良かったですなー」
シャーロットは寝転がり、優しく笑う。
その夜。
紀州藩上屋敷。紀州重造と巴姫の住まいである。
重造と巴姫がふたり、夕食を食べている。
重造がふと言う。
「なあ、巴。お前は男はいるのか」
「…何ですの?いきなり」
「いや、気になってな」
「おりませんわよ」
「そうか。賢く品があり美しい、自慢の娘なんだがな。あまりに出来が良すぎて、男どもには高嶺の花なのかもしれん」
「…何が言いたいのですの?」
「うむ。そろそろ孫を抱きたいなぁ、と思ってな」
「しばらくは仕事に集中したいです」
「そうか」
しばしの沈黙。やがて重造が言う。
「まあ、お前の人生だ。好きにやりなさい」
「はい」
「…だが、孫は見たい」
「…」
数日後、神器府に幕府評議から使いの侍。対応するのは小糸とお絹。
侍が息せき切り言う。
「総年寄はおられるか。至急、案内せよ」
「こ、こちらへ」
執務室に案内する。
そこでは重造と巴姫がのんびりとお茶をしていた。
侍が言う。
「神器府総年寄、紀州重造に指示する」
「うむ」
「江戸郊外にて、異国の怪異が出現。すぐさま出陣し、退治せよ」
「承る」
「主力は那智梓、本田八重。監察役は幕府評議行動補佐小梅。助力役、エレノア・ペンドラゴン、シャーロット・ドレイク。他の人事は紀州殿の裁量とせよ」
「応!」
立ち上がり、巴に言う。
「指図役、紀州重造。指図役助役、紀州巴。よいな」
「はい!」
「指図役副官、槍花。留守は小糸に任せる。あの子ならひとりでも仔細うまくこなすだろう。あと、お絹も連れて行ってやれ。いい機会だからな、」
「はい!」
重造がニヤリと笑い言う。
「さあ、異国の怪異など恐れずに足らず。とっとと終わらせようか」
異国の怪異はメリュジーヌである。
メリュジーヌ討伐メンバーは以下の通り。
主力、那智梓、本田八重。
指図役、紀州重造。
指図役助役、紀州巴。
指図役副官、槍花。
監察役、小梅。
見習い同行、お絹。
助力役、エレノア・ペンドラゴン、シャーロット・ドレイク。
江戸郊外の平地。
そこに一人の美少女が佇んでいる。
竜人メリュジーヌ。白髪。ゴシックロリータの衣装に身をつつみ、手には黒い日傘。目を閉じている。
そこに近付く紀州重造の一行。
黒布の日傘をくるりと回し、メリュジーヌはスカートの裾をつまんで一礼した。
そして目を開く。瞳孔が縦に裂け、爬虫類のようだった。
重造が言う。
「では皆のもの、かかれ」
「はいっ!」
梓が小弓を手に、弓を射る。メリュジーヌが目を開く。矢はメリュジーヌの顔前で霧散した。
気にせず、近接隊が歩を詰める。
格闘の槍花とシャーロット、小槍の八重。
メリュジーヌはニコリと笑い、跳ねる。そして、彼女らの頭上に浮く。
シャーロットが叫ぶ。
「メルちゃん、降りてこんかーい。パンツ丸見えやぞー」
「…」
「じゃあ、ペン様ー。バチコーンといったってやー」
金髪の軍服少女、エレノア・ペンドラゴンが光る槍となって突っ込む。
メリュジーヌは、宙に浮かんだまま、微動だにしない。
激突する、その刹那。
メリュジーヌの目が開き、瞳孔が爬虫類めいて縦に裂けた。
次の瞬間、弾き飛ばされたのはペンドラゴンの方だった。
くるくると空中で体勢を崩すその姿を見て、メリュジーヌは口元に手を当て、くすくすと笑う。
重造が言う。
「巴、いけ」
「はい!」
巴姫の両手に光る手斧が生まれる。そして投擲。
手斧はメリュジーヌの眼前で見えない壁にぶつかったかのように弾かれ、散る。
だが、その白い眉がわずかに寄る。
その瞬間。
「もらったぞ」
死角。重造が一気に自分の間合いにメリュジーヌをとらえる。。
その両手には、草薙より生み出された大槌。気力を極限まで凝縮し、ミシミシと空間が軋む。
「ふんっ!」
メリュジーヌが慌てる。
振り下ろされた一撃を、メリュジーヌは咄嗟に黒の日傘で受けた。
甲高い音。そして地面に轟音を立てて叩きつけられる。
土煙の中、地面へ激突したメリュジーヌが顔を上げる。そこには、すでに待ち構えていた八重と槍花。
シャーロットがにやりと笑う。
「メルちゃん、いらっしゃ~い」
メリュジーヌの表情から余裕が消えた。
地を蹴り、空へ逃れようとしたその時。
巴姫の手斧がまた放たれる。
メリュジーヌはそれをかわし体勢を崩しながら、それでもなんとか飛び上がる。
そこへ重造。
「ふんっ!」
重蔵の槌がメリュジーヌに振り下ろされる。メリュジーヌはまた地面に叩きつけられる。
重造がペンドラゴンに向けて言う。
「異人殿、こっちはまだ10回は叩き落とせるぞー。気長にやればいい」
言葉は通じない。だが、重造の老練さと、強さに裏付けされた余裕は感じ取れる。
ペンドラゴンはにっこり笑い、重造にウィンクをする。
「な!?」
重造がウィンクにたじろぐ。
「ペラペラペラ!」
怒り叫ぶメリュジーヌ。
そこに光線。
「あたしの出番やでー」
シャーロットの放ったセントジョージの光が、メリュジーヌの胸を貫く。
メリュジーヌが目を見開き、自分の穴が空いた胸を見る。
その頭上に、光が生まれた。
竜の翼で空高く跳びあがったペンドラゴンが、光り輝く巨大なグングニルを脇に構えている。
「ペラペラペラ!」
巨大な光の槍がまっすぐに落下する
閃光。
少しして皆が目を開けると、そこにはペンドラゴンだけが立っていた。
空を見上げてつぶやく。
「ペラペラペラ」
シャーロットが感極まり叫ぶ。
「P・E・N!P・E・N!」
梓と八重も感極まり叫ぶ。
「P・E・N!P・E・N!」
重造も感極まり叫ぶ。
「P・E・N!P・E・N!」
巴姫がつぶやく。
「…な、なんですの、これ?」
翌日、神器府にて。
ずっ友女子5人組、ペンドラゴン、シャーロット、槍花、八重、梓。そして、お絹と小糸。
美少女達がそろってお茶を飲んでいた。
話題は昨日の戦いについて。留守役だった小糸も楽しんでその話を聞いている。
そこに現れたのは、重造と巴姫。
重造はペンドラゴンの存在に気付くと、耳まで赤くなり、モジモジとして自分の執務室に消える。
「なんや、あのおっちゃん。どうしたんや」
巴姫がくすくす笑う。
「さあ?ところで皆さん、お団子を買ってきましたわよ。お絹、分けてあげて」
「はい!」
会話が進むうち、シャーロットが言う。
「せや、昨日ペンドラゴン様と話してな、もうしばらく日本にいることにしたで」
皆の顔が輝く。向こうでゴン、と音がした。
「何や?」
「お父様ですわね。聞き耳を立てていて、嬉しくて転んだとかそのあたりかと。放っておくのが良いですわ」
「お、おう。けったいな御方みたいやな。まああれや、ペン様が強すぎてメリュジーヌが吹き飛んだからな。本当に退治できたか不明、確認のため滞在を延期っちゅうんが名目や。ほんで本音は…」
照れくさそうに言う。
「友達と別れるのがつらいんや」
皆が笑顔で叫ぶ。
「シャーロット!シャーロット!」
「P・E・N!P・E・N!」
小さく重蔵の声も聞こえる。
「P・E・N!P・E・N!」
ペンドラゴンとシャーロットが顔を見合わせ、優しく笑う。




