第16話
江戸。
神器府の評定の間。いつものメンバーである紀州重造、紀州巴、徳川綱良、徳川千代が座している。
上座の重造が言う。
「では、これより評定を始める。江戸郊外の社を海外の怪異が占拠しているという。自分の首を腕に抱えた西洋の侍とのこと。ペンドラゴン曰く、デュラハンという名の怪異だそうだ。巴姫、視察を行なった報告を」
「はい。天子に空から偵察をさせた結果、めっちゃヤバい、なんかたくさんいた、とのことですわ」
重蔵が面食らう。
「え?めっちゃヤバい?たくさん?」
「はい」
「いやいや、他には何もないのか?」
「はい。以上ですわ」
千代姫がくすくす笑う。
「天子さんらしい。愛らしいですね」
「ふふふ、手間のかかる子ですわ」
ため息を付き、重造が続ける。
「さて、幕府評議から神器府に指示。本田源兵衛を主力とした討伐隊の結成をせよ、ということだ。指図役には綱良様にお願いしたく存じますのですが」
「よし、受けた」
「おお!さすが綱良様!決断が早い!まさに大将の器でございます」
「う、うむ。話を続けてくれ」
「かしこまりました。指図役助役には千代姫。よいな」
千代姫は黙って頭だけ下げる。
「どうした?返事がないが」
「…」
「…喉でも悪いのか?無理はしてはならんぞ」
「い、いえ。どうせ、ふーん、と返事をされて不愉快になるだけですので。それで黙っているのです」
「…ふーん」
「イラッ!」
重蔵がにやりと笑い、続ける。
「さて。監察役は、あもう、という巫女らしい。誰かはよく知らん。そして、助力役にエレノアペンドラゴン、シャーロットドレイクの両名」
綱良が言う。
「蔵五といね子も連れていきたいのだがな」
「仰せのままに!若者の将来を見越して育てようとするその深いお考え。いや、勉強になりますなぁ」
「そ、そうか」
「では、具体的な作戦について⋯」
評定は続く。
その頃、江戸市中にて。
蔵五が、仕事で歩いている。ふと、豪邸の存在に気付く。
高い塀をみながらつぶやく。
「すごい大きなお屋敷だなぁ。どんなお金持ちの家なんだろうか」
表札を見ると、本田源兵衛と書いてある。
「確か、槍奉行の本田様。御前試合でシャーロットさんと戦ったあのおじいさんか。おっといけない、仕事仕事」
蔵五が立ち去る。
塀の向こう側では騒ぎが起こっていた。
スキンヘッドの老人、本田源兵衛その人が脈絡もなくギックリ腰になっていた。蔵五の貧乏神スキルが発動したのである。
「なんでいきなり…」
源兵衛は庭木にしがみついて動けない。
その夜。
湿布で少し調子を取り戻した源兵衛が孫娘を自室に呼んだ。
本田八重。真面目な美少女。
最近は反抗期である。
ふてくされて八重が言う。
「なんだよ、ジジイ。私は忙しいんだよ」
汚い単語とは裏腹に、背筋をピンと伸ばす座り姿がとても上品である。
「明日の怪異討伐、八重も参加しなさい」
「はあ?命令すんなよ。やだね」
「なんで祖父の命令が聞けない」
「うるせえ。私に命令すんな」
源兵衛が目を伏せる。
「厳しくしつけすぎたのか」
「…なんだよ、今さら反省か」
「八重の才能に期待しすぎて、つい力が入ってしまった。済まない。反省している」
「な、なんだよ。急に謝んじゃねえよ」
「明日は儂ひとりで戦ってくる。なに、江戸の平和のためだ。いざとなれば命を捨ててでも怪異を退治してくれるわ」
「ふ、ふん!私は知らないんだからっ」
美しい所作で立ち上がり、八重は部屋から出た。
そこに、八重の父母がやってくる。
父が言う。
「八重や。おじい様のお願いを断ったのかい」
「う、うっせえなぁ。断ったよ。私の勝手だろ」
「その通りだよ。お前の勝手だ。そもそもは、私が病弱だからいけないんだ」
「え?」
「私が武人として役に立たないから、こうやって八重につらい思いをさせてしまってる。本当に済まない」
父が頭を下げる。八重がうろたえる。
「や、やめてよぅ。頭なんか下げないでよぅ」
母が口を挟む。
「八重、大丈夫よ。お祖父様は強いから負けやしないわ。例え負けたとしても、なんとか差し違えて、命の代わりに本田家の名誉を守ってくださるはず」
「ふふふ。その時は父さんが頑張って家門を継ぐさ…ゲホッゲホッ!」
「あなた!とりあえず横になってください」
「ゲホッ。なんのこれしき」
八重が愕然とする。
「なんか重い!」
そして、八重が絞り出すように言う。
「…分かったわよ。明日、私も参加する」
「無理しなくていいのよ。でもお願いね。もう拒否はできないわよ」
「断ってもいいんだぞ。でも頼む。約束したからな。ゲホッゲホッ」
「ふ、ふんっ。じゃあ明日に備えてもう寝るから。おやすみなさい」
八重が背筋を伸ばして自室に向かう。
父母がそれを見送り、やがてコソコソと源兵衛の部屋に入る。
源兵衛が言う。
「どうだ、うまくいったか?」
「はい。押しに弱い子ですから。チョロいものですわ」
「反抗期もそろそろ終わらせて貰わないと家門が傾くよ。なあ、親父」
源兵衛が頷く。
「さて、次の毒は仕込んである」
「毒?」
「うむ。シャーロット・ドレイク。先日の御前試合の日、かの者に言った。そなたを養女に迎えて家門を継がせたいとな。当然ながら先方は断ってきた。明日、この事を八重にそれとなく伝え、競争心を刺激する。さすれば八重の方から家門を継ぎたいと言ってくるはず。クックック」
「さすがお見事ですわぁ」
「親父の策は見事だなぁ」
「さて、明日は我が家門の跡継ぎを決める大切な日となる。湿布を貼り替えてくれ。クックック」
デュラハン討伐メンバー。
布陣は以下の通り。
主力、本田源兵衛、本田八重。
指図役、徳川綱良。
指図役助役、徳川千代。
監察役、天羽。
見習い同行、蔵五、いね子。
助力役、エレノア・ペンドラゴン、シャーロット・ドレイク。
八重と源兵衛が神器府へやってきた。
応接室にはいると、金髪の美少女ふたりが座っている。ペンドラゴンとシャーロット。
源兵衛がペンドラゴンに挨拶した後、言う。
「これはシャーロット殿。お久しぶりですな」
「金持ちのおじい様、お久しぶり。お小遣いちょうだい」
「ハッハッハ。家門を継いで下されば、お金は使い放題ですぞ。チラ」
源兵衛がチラと八重を見る。
八重が眉をひそめてヒソヒソと言う。
「ちょっとじじい、家門を継ぐってなんのことだよ」
「うむ?まあ、八重には関係ない話だ。気にするな」
「な、なんだよそれ…」
「クックック…」
そこに綱良と千代姫がやって来る。綱良が上座に座り、その横に千代姫が侍る。
「皆のもの、ご苦労」
綱良が言い、全員が頭を下げる。
「物見によると、西洋の首無し武士が、周囲を侍のような怪異で固めて霊場を占拠しているとのことだ。霊場の気力は吸われ、草木が枯れてきている。我々の目標はその退治となる。さて、今回の布陣は我々の他に三名が参加する。ふたりは神器府より蔵五といね子。あと一名は監察役の巫女、あもう様。すでに現地へ向かっている。さて、ペンドラゴン殿、今回の怪異についてご存知の事を語られたい」
「ペラペラペラ」
シャーロットが翻訳する。
「あたしらの訪日の目的のひとつが、その怪異や。デュラハンっちゅうモンスターや。首を落とされた騎兵なんやね。片手に槍、片手に自分の頭を抱えとる。まあ、わたしに言わせたらわざわざ片手をふさいで頭を持つより、首にヒモでくくりつけたらええやん。まあ、それがカッコいいと思い込んでる、こじらせた残念なモンスターなんやろう」
源兵衛がにやりと笑う。
「ふふふ。皆の緊張をほぐすためのシャーロット殿の冗談ですな。剛毅で良い。ぜひ、我が家門を継いでもらいたいものだ」
八重が顔を歪める。
「じじい、黙れよ。ちくしょう…」
ペンドラゴンは続ける。
「ペラペラペラ」
「デュラハンは死者を使うんや。そこら辺の土くれに霊を吹き込んで、己が兵とするで。おそらく、物見の言う周囲にいる侍というのは、落ち武者とかの霊を使った土塊やろうな、とのことや」
綱良が言う。
「では、作戦の説明をする。私と千代姫が先制攻撃。討ち漏らした敵は、本田家のおふたりとシャーロット殿が引き受けてくだされ。そしてデュラハンは…ペンドラゴン殿の獲物だな。よろしいか?」
全員が応える。
「はい!」
「では、参るとしよう」




