第15話
曇り空が広がり、湿気が立ちこめる。
霧雨が降ってきた。
そして、山中奥深く。
霊場の五重塔。
塔周辺の草木が枯れている。
「では皆さん、準備はよろしくって?」
「はい!」
天子以外の全員が応える。
天子はふてくされてそっぽを向いている。道中、巴姫から暴走するなと、くどくどと言われてきたからだ。
「天子、返事をしなさい」
「…はーい」
ひとつため息をつき、巴姫が言う。
「では、始めます」
巴姫が五重塔を睨見つける。周辺の気力が散り始める。
少しして、鵺が現れ言う。
「誰だ。やめてよ」
「あいつが、うちの父ちゃんを…」
「天子、落ち着きなさい。では、第一陣はじめ」
巴姫と真白が前に出る。
草薙により、2人の両手に光る手斧が現れる。それを交互に投げる。
次々と手に現れる手斧を容赦なく鵺に投げる。鵺は身を小さくしてそれにただ耐える。その首に、禍々しい釘が見えた。
「第二陣、はじめ」
巴の言葉と共に、梓が小弓を手に前へ出る。
破魔矢を撃つ。見事、釘に当たる。
「いやああああ」
鵺が痛みに叫ぶ。
梓が言う。
「巴様、釘は壊れずです」
「もう1本、撃ってください」
「はい!」
そして、もう一本破魔矢が放たれる。また釘に当たる。しかし壊れない。
鵺が泣き叫ぶ、
「や、やめてぇ。もういやぁぁ」
巴が言う。
「第三陣、はじめ」
蔵五といね子が手をつなぐ。いね子が梓の足をつかむ。
いね子が言う。
「おおおおお♡」
梓が言う。
「な、なにこれ。すごい…来る」
足がガクガクしながらも、弓を構える。
「おおおおお♡」
光に包まれた破魔矢が放たれ、釘を射抜く。
凄まじい衝撃派が辺りの空気を揺らす。鵺が錐揉みしながら吹き飛び、五重塔に叩きつけられる。そして、鈍い音を立てて地面に落ちた。
しかし、釘はまだ壊れていない。
「なんていう…」
巴姫の表情に、一瞬焦りが生まれた。だがすぐに気を取り直し叫ぶ。
「第四陣!」
「だ、だめです」
梓が四つん這いでビクンビクンしながら言う。
「す、すごすぎて…腰が抜けちゃいそうです」
「踏ん張ってください」
「が、がんばります!」
なんとか持ち直した梓が大弓に持ち換え、弦を弾く。
「ビーン!ビーン!」
ついに、釘にヒビが入る。
鵺が泣きわめく。
「や、やめて」
巴姫が手斧を投げながら皆を励ます。
「皆さん、あと一歩です」
「俺も混ぜろ!」
天子が叫び、真白の腕を握る。
「すげえ!力がみなぎる!父ちゃんの敵を取るぞ」
巴姫が狼狽する。
「ちょっと天子!何してるの!?」
天子の仕事は、いざというときに蔵五といね子を抱えて逃げる後詰め役である。いきなりの暴走に巴姫がうろたえる。
気にせず天子が天を指差す。そして振り下ろし、叫ぶ。
「落雷!」
言葉通り落雷が起きる。
まばゆい雷が鵺を撃ち抜く。
一同が呆然とする中、天子は大笑いする。
「すげえ、落雷を撃ち放題だ!落雷!落雷!落雷!落雷!」
間断なく落雷が鵺を撃ち抜く。
「らく…お?お、お、おおおおお♡」
注がれる気力を消費しきれず、天子がついにアホな顔で悦に入る。
「ここまで!」
巴姫と真白は手斧を投げる手をとめる。
梓も弦を弾くのを止める。
鵺を見ると、ちょうど首の釘が砕け散る瞬間だった。
「ギリギリだったですわね」
安堵し、巴がその場にへたり込む。
蔵五がいう。
「巴姫、そろそろ止めて下さい」
見ると、いね子と梓と天子、3人がアホな顔で悦にはいる姿があった。
「おおおおお♡」
「おおおおお♡」
「おおおおお♡」
巴姫が言う。
「…楽しい」
「…」
真白の非難する目に気づく。
「おっといけない」
巴姫が蔵五を睨見つける。気力が散り、皆が解放された。その場に倒れ込み、三人並んでビクンビクンとする。
「よし。では真白、ついてきてください」
巴姫と真白が鵺に近付く。
鵺の黄金の毛は、白く変わっていた。疲れ果ててうなだれている。
「話をさせてください」
「…うん」
「今までの言動からして、あなたの意思でこの霊場を荒らしていた訳ではない。そうですね」
「そうだよ。なんか首に釘が刺さってから、とにかくつらくて彷徨っていた。ここにいれば、まわりの気力でマシになるから」
「釘は何だったのですか?」
「分からないよ。ぼんやりしてたら式神が飛んできて、釘になって首に刺さったんだ。酷い目に遭ったよ」
「ふむ」
巴姫は一旦天子の方を見る。まだ立ち直らずビクンビクンしている。
「ここから立ち去りなさい。そして、二度と人の世に近寄らぬこと。良いですわね?」
「人なんて関わりたくもないよ。でも、釘を壊してくれてありがとう。助かったよ」
ふらつきながら鵺が立ち去る。
雨が止んだ。
黒い雲が裂け、太陽の光が漏れてきた。
天狗の住居。
天狗とお絹、小梅がいる。
天狗が言う。
「もうそろそろ、儂も終わりのようだ」
小梅が慌てて、先ほど買った赤まむし汁を天狗に飲まそうとする。天狗が苦笑する。
「御心遣い感謝する。しかし、儂に人の薬は効かぬよ」
お絹が何かを思いついたかのように小屋の外にでる。そして数秒後、天子が小屋に入っきた。
「父ちゃん、私だよ」
「天子か。おかえり。怪我はないか」
「大丈夫だよ。父ちゃんも元気を出して」
「ふふふ。お前が私の娘になってくれて感謝している。皿を割ったり、鍋を焦がしたり。走って転けたり、寝ぼけて殴ってきたり。喧嘩をしたら儂に雷を落としたり。毎日が楽しかった。これからはどうか、人の世で幸せになっておくれ」
「分かったよ、父ちゃん。安心して」
ここでニヤリと笑う天狗。そして言う。
「と、あの子に伝えておくれ。人間殿」
そして、天狗の姿が煙と消える。残されたのは壊れた扇子だけ。
変身が解け、天子の姿がお絹に戻る。
お絹と小梅は顔を見合わせ、苦笑する。
「最期の最期で、してやられました」
「ふふふ。天狗さん、お見事」
しばらくして巴姫達がもどってくる。
壊れた扇子を見て、天子が言う。
「父ちゃん?」
小梅とお絹が頷く。
「父ちゃん起きろよ。返事しろ。鵺を退治してきてやったぞ。そうだ、また赤まむし汁をもらってきてやるから。3回戦はいけるらしいから、なあ」
その後、お絹から天狗の最期の言葉を聞いた天子。黙って扇子を胸に抱く。
巴姫が言う。
「天子。今日から私があなたのお姉様です。お父様の扇子と共に、私と一緒に江戸に来なさい。いいですね」
「…うん。分かったよ、姉ちゃん」




