第13話
遠くに富士山が見える特設武芸場。
ここで御前試合が始まる。
1つ目の演目は、神器府の槍花と真白による演武。ふたりは幕府の次期最強戦力の一角と目されている。その成長具合のお披露目である。
中央にある砂地の演舞場にふたりが歩み出る。
槍花が言う
「では真白。参ろうか」
「…」
真白が無表情で頷く。
「…それ、なんとかならぬのか?もっとこう、表情豊かに気合をだな」
「⋯」
「うむ、無理そうだな」
剣、槍、拳と演武が続く。ふたりの美少女の見事な演武に、観覧席の町人達が歓声をあげる。失神する女も出てきて大騒ぎとなる。
そんな中、将軍の御座所の横に侍る神器府席。
千代姫と巴姫が会話をしている。
巴姫が言う。
「あのおふたりも見事に育っておりますね」
「神器府として誇らしい限りですね。槍花のまるで風を切るような鋭い動き。見てください、あの凛々しい顔を」
「おほほほほ。すばらしいですわね…ところで、その、あの、あの槍花も…例のアレをなさったらしいですわね」
「例の?」
「蔵五の…例のアレですわ」
「…はい、しました」
巴姫の喉がゴクリと鳴る。
「ゴクリ。ど、どんな感じだったのかしら」
「あれはまさに…」
「まさに?」
「まさに…メス豚」
「メっ!メス豚っ!?」
「うっ!?急に寒気が」
調子を崩し、転ぶ槍花。
「あら、槍花さんとしたことが」
「まあ、御愛嬌ですわよ」
「そうですね。それにしても、真白さんも見事。空気をたたき潰すかのような豪気な動き」
「見事ですわね…そんな真白に蔵五をぶつけたら、一体どんな声で鳴くのかしら。ニチャア」
「ふふふ…ニチャア」
「…!?」
調子を崩し、転ぶ真白。
「あら、真白さんとしたことが」
「まあ、御愛嬌ですわよ」
「いえ、甘いです」
「え?」
千代姫が突然に冷酷な表情になり、言う。
「あの二人は幕府武門の将来を担うべき人材。あまやかしてはいけません。ここは一度、ふたりの傲慢をたたき折るべきです」
「な?あ、あなたらしくもない。ちょっと厳しすぎではなくって?」
「いえ、厳しくなどありません。次に間違いをすれば、罰を与えねばません。蔵五さんを使って…ニチャア」
「なるほど…ニチャア」
「ヒィィィ!!」
「…!!」
そこからの槍花と真白の演武は見事なものであった。まるで、自ら全ての尊厳をかけて何かと戦うが如きだった。
演武が終わると、二人は拍手と歓声に包まれる。
神器府席の紀州重造、徳川綱良も立ち上がり惜しみない拍手を送る。
千代姫と巴姫が舌打ちをする。
「「ちっ!」」
興奮覚めやらぬまま、二番目の演目が始まる。
幕府弓頭、那須梓。弓の天才にして卑屈な陰キャ。
目の前には3つの的。短距離、中距離、長距離。
梓がひとつ深呼吸をして、弓を速射する。
合計9発。全てが的の真中に突き刺さる。
会場がどよめく。
梓がつぶやく。
「は、恥ずかしい…もう、帰りたい」
侍が大弓を持ってくる。
耳まで赤くしながら、梓がそれを受け取る。
梓が大弓を構える。怪力で弦をギリギリと絞る。そのあまりの美しい光景に会場が静まり返った。
そして、弓を放とうとする。
その瞬間、梓の草鞋の鼻緒が切れた。
「あっ」
姿勢を崩して放たれた矢は、的ではなく女官に向かって走り出した。
梓が叫ぶ。
「よ、避けてっ!」
誰も悲鳴を上げる暇もない。
しかし、ペンドラゴンが動く。
「ペラペラペラ!」
その瞬間、ペンドラゴンの背中にスピリットによるドラゴンの翼が生まれた。瞬きの間に、矢に向かって突撃する。遅れて突風が起きる。
矢と衝突する。
「ドゴっ」
重い音がして、ペンドラゴンが吹き飛ぶ。空中で体勢を整え、ふわりと足から着地する。
矢は方向を変え、地面に深々と突き刺さっていた。
静寂。
梓がへなへなと座り込む。
ペンドラゴンがふうと安堵のため息を一つ。そして、梓のほうを見て、にっこりウィンクする。
梓がプルプルして呟く。
「ペ…ペンドラゴン様♡」
シャーロットが興奮して叫ぶ。
「P・E・N!P・E・N!」
観衆も叫ぶ。
「P・E・N!P・E・N!」
「P・E・N!P・E・N!」
神器府席の綱吉がつぶやく。
「…なんだこれ?」
幕府の部門筆頭、剣術指南役の橘景光がその整った顔をゆがめる。
「異人ごときが、俺よりも目立ちやがって…」
ペンドラゴンコールが止むと、梓は立ち上がり大弓をささえる。
熱い視線でペンドラゴンを見つめながら、弦をビーンビーンと鳴らし始めた。
梓が呟く。
「ペン様…私の奥義を見てください♡」
観衆は何事かと息を呑む。
次の瞬間、梓の前の的が吹き飛んだ。弦の共振で吹き飛んだのだった。
席に戻っていたペンドラゴンが興奮して叫ぶ。
「ペラペラペラ!」
そして、梓にウィンクをする。
「はわわわわ♡」
梓は興奮しすぎて失神した。
「いやあ。眼福、眼福。ペン様のあざとかわいいウィンクを二回も見れるとは。盆と正月がまとめて来た気分や」
興奮してシャーロットが言う。
「さて、次はあたしの出番やな。金の…じゃなくて、名誉の為にがんばるとするかな」
向こうに座るスキンヘッドの老人を見る。本田源兵衛。シャーロットの模擬試合の相手である。
本田はにこやかな笑顔でペンドラゴンを見ている。
「なんや、ペン様のファンになったんかあのジジイ。ええことやで…で、横のあの男は何やろか?」
ペンドラゴンを憎々しげに見る橘景光に気付く。
それに気付いた世話役の小鈴が口を出す。
「あれは、女泣かせの橘景光様ですね。股間の妖刀村正で泣かせた女は数しれず、と言われています。要するにクズです。シャーロット様の次に演舞をされる予定ですよ」
「ふーん、気に入らんなぁ。うわ、目が合ってしもうた。やべ妊娠する」
シャーロットが慌てて目をそらす。
小鈴が木刀をシャーロットに渡す。
「では、ご武運を」
「ありがと。ほな、行ってくる」
シャーロットと源兵衛が演舞場に並ぶ。源兵衛の獲物は棒。
すだれの向こうの将軍に頭を下げ、シャーロットと源兵衛が向かい合い、構える。
「はじめ!」
合図とともにスルスルと源兵衛が前に進む。上半身に上下運動はなく、下半身はダボダボの袴で足の動きが見えない。そのため、地面を滑るかのように見える。
「な、なんやコレ!?」
そして、連続の突き。シャーロットが難なくかわす。
「このジジイ…手を抜いてるんとちゃうか?」
シャーロットの目に怒りが浮かぶ。
「ジジイ、本気でかかってこんかい!このシャーロット様を舐めとったら、ケツの穴から手ぇ突っ込んで、奥歯ガタガタ言わずぞ」
「ふむ」
源兵衛が先ほどよりも速い突きを繰り出す。
「ごめん、さっきの嘘。手加減して」
シャーロットが慌てながらもかわす。
源兵衛が感心する。
「ほう、なかなか…では」
さらに早い突きを繰り出す。
「ちょっ、ちょっ!マジ強すぎやろこのジジイ!殺す気か!」
そのまま、シャーロットは防戦一方となる。
そしてついに耐えきれず、よろめく。
源兵衛が叫ぶ。
「隙あり!」
「もろた!」
シャーロットはわざと隙を見せていた。体をくるりと回転させながら木刀で棒をさばき、懐に入る。
「あたしの勝ちやで!」
「お見事!しかし…」
振り下ろすシャーロットの木刀を棒の柄で弾く。木刀が吹き飛ぶ。
シャーロットが両手を上げる。
「あちゃー、まだまだ本気やなかったんかいな。完敗や」
見事な戦いに、場内が拍手で包まれた。
試合が終わり、ペンドラゴンの隣に戻るシャーロット。
「いやぁ、面目ない。え?いい戦いだったって?ペン様、照れますがな」
そこに源兵衛が笑顔でやってくる。
「シャーロット殿、お見事だった」
「あたしは負けた身やで。褒めるのはやめてんか」
「いやいや、これほどの使い手はなかなかいない…良ければ、儂の弟子にならないか?」
シャーロットが首をかしげる。
「はあ?弟子?」
「実は後継者問題で難儀しておってな。後継者として、シャーロット殿が欲しい。養女として迎え、家門を継いで貰いたい。そちらのペンドラゴン様に儂の意向をお伝えいただけないか?」
「なんやなんや、褒めすぎやって。照れるがな。まあ無理やろうけど、ペン様に聞いてみたる。ちょい待ちや。ペラペラペラ」
ペンドラゴンが源兵衛を睨みつけて言う。
「ノー!」
「との事や」
「そうか、残念だ。地位も金も手にはいるのだがな」
「か、金!?まじか!ペン様!ペラペラペラ!」
「ノー!ノー!」
そして、剣術指南役である橘景光の演舞。
彼は幕府の最高戦力である。
長い剣を舞うように振るい、女の観衆を魅了する。
女官がキャーキャーと騒ぐ。
千代姫と巴姫がそれを観ながら会話をする。
「あらら。あの女たらし、こちらに流し目をしていますわよ」
「ええと、あの方は我々に何を求めているのでしょうか」
「さあ?とはいえ、あれでも幕府の最強戦力ですわ。千代姫、手を振って差し上げては?」
「私は今ちょうど手が痛いので、ご遠慮いたします。巴姫が手を振ってさしあげては」
「私は肩が痛くて手が上がりませんの。やめておきますわ」
しばらくの沈黙。
千代姫が言う。
「…時期を見て、蔵五さんをぶつけましょう」
「…それはよい考えですわね」
その後、有名無名の豪傑達による模擬試合が続く。
将軍の御座所のすだれの向こう。
そこでは、中年の男と美少女が座している。
男は徳川将軍。女は天羽である。
天羽が言う。
「あそこにいますね」
「何がですか?」
「村田蔵五と楠本いね子です。ふふふ、やはり面影がありますよ」
「あもう様は、700年年前の人の顔をはっきりと覚えてらっしゃるのですか」
「ええ。茜と葵は私の大切なお友達ですもの」
天羽がクスクスと笑う。
「茜と葵と語りあかしたあの夜が、私の一番の宝物なのです。三人で語り合った、牛のような男を柱にくくりつけて…ふふふ」
「牛、ですか?」
将軍が困った顔をする。
「まあ、牛の話は置いておきましょう。さて、あの日からそろそろ700年です。私が、彼女たちの子孫の安寧を守らねばなりません」
天羽はにっこりと笑い、言う。
「友として。何があっても」




