第12話
約700年前。京の町。
百鬼夜行。
夜の町を妖怪たちが練り歩く。提灯を持つ鬼、のっぺら坊、1つ目の僧。
その中を、1台の馬車が駆ける。
箱の中には三人の美少女。
村田茜。村田蔵五の先祖である。明るいアホ。
楠本葵。楠本いね子の先祖である。明るいアホ。
天羽。皇家より神器オリジナルの使用を許されし者である。むっつりスケベ。
茜が言う。
「お侍様たちは大変だべー。妖怪と戦争するのもお仕事なんだがらなぁ」
葵が答える。
「んだぁ。おらたちにはぜってぇ無理だ。あもう様も、戦争はするんですか?」
天羽がため息をつく。
「巫女が戦争なんてするわけないでしょ。ていうか、あなた達は怖くないの?敵はあの安倍晴明よ」
「安倍晴明様が誰かよくわがんね」
「んだんだ。そうだ、あもう様。怖いときは楽しいことを考えたらいいべ。わだすは、戦争が終わったら毎日お菓子を食べさせてもらうだ。その約束を将軍様にしてもらっただ。楽しみだなぁ」
「葵ちゃんはお菓子が好きだなぁ。わだすは牛みてぇな旦那さんをもらうだ。そんで、牛みたいな子供を産んで、畑をたくさん耕してもらうだ」
「茜ちゃんは牛が好きだもんなぁ」
そして、2人は天羽を見る。
天羽はたじろぐ。
「…な、なによ」
「あもう様は、何を将軍様にお願いしたんだべ?」
「…秘密よ」
「しーらーけーるー。だべ」
「しらけるだべ。この流れでそれはないだべ」
「な、なによ。私はなにを責められてるのよ」
「人の話を聞いて自分は話さないなんて、人として最低だべ」
「んだんだ」
「なによ、あんたたちが勝手に話したんでしょ!」
「十数えるうちに言うだべ。じゅう、きゅう、はち、なな、ろく…」
「勝手に数えるな!ああもう、分かったわよ。友達!友達が欲しいってお願いしました。これでいい?」
「なんだぁ、あもう様、友達がいないのか?」
「悪い?周りは大人ばっかりなの。歳の近い友達が欲しいのよ」
「じゃあ、わだす達が友達になるべ」
「んだんだ」
「え?」
そこに、外から声が聞こえる。
「天羽様、安倍晴明が見えました」
「え?うん…じゃあ、ふたりとも、行こうか」
「んだぁ」
「早く終わらせるだべ」
三人は馬車から降りる。
羅城門の屋根の上。そこには絶世の美女がキセル片手に片ひざを立てていた。
その名は安倍晴明。
「天羽か。神器は持ってきたのか?」
「こ、これに…」
震えながら、懐から八尺瓊勾玉を取り出す。
「おお!」
安倍晴明が興奮して立ち上がり、屋根から飛び降りる。音もなくふわりと地面に降り立つ。
「それがあれば…異界の門扉が開くのだ」
茜と葵が言う。
「あもう様、そろそろだべか?」
「早く終わらせるべ」
「…そうだね。始めよう」
三人は手をつなぐ。
茜が叫ぶ。
「安倍晴明様、はじめまして!そんでさよならだべ!」
葵と天羽が呼応する。
「おおおおお♡」
「おおおおお♡」
天羽の手の八尺瓊勾玉が眩しく輝く。
安倍晴明が叫ぶ。
「なんだ、この無尽蔵の気力は。異界へ封じられるっ!謀ったな!」
安倍晴明の体が煙となり、八尺瓊勾玉のなかに吸い込まれていく。
安倍晴明の声が響く。
「私は諦めぬ。700年後、私は復活し、異界の門扉を開く。その時にお前たちの子孫がおらぬよう、呪いをかけてくれる!」
安倍晴明の煙から3体の式神が飛ぶ。人の形をした呪符。
「いけないっ!」
天羽が慌てて印を切る。2体が燃えた。しかし、1体は燃えず茜の腹に吸い込まれた。
安倍晴明がすべて吸い込まれる直前、声が聞こえた。
「近寄る男に不幸が起きる呪いだ。これで、夫を迎えることができぬ。子孫を絶やすがよい」
やがて静寂。
呆然とする茜。そして、言う。
「ど、どうすんべ。夫が来ない呪いがかかってしまったべ。牛みたいな夫が来てくれないべ」
天羽が泣きながら言う。
「ごめんなさい。私のせい。守れなくてごめんなさい」
「どうすんべ、どうすんべ」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
少し考えてから、葵が言う。
「…夫のかわりに牛をもらえばいいべ。どうだべ、茜ちゃん」
茜が納得して頷く。
「…葵ちゃんはすげえべ。天才だぁ」
「もしくは、牛みてぇな男も将軍様に貰うべ。そんで柱にくくりつけて、無理やり◯◯◯したら、子供もできるべ」
「それ、いいべ。天才だべ」
天羽が言う。
「男を柱にくくりつけて…何するって?」
「そりゃあ◯◯◯だべ」
天羽がゴクリと喉を鳴らす。
「ゴクリ。その話、もっと詳しく」
日が昇る。
怪異に満ちていた京の町の夜が、平和に明けていく。
翌朝。
神器府事務室に入った蔵五。そこには巴姫と小鈴がいた。
巴姫が言う。
「どうしました蔵五。やつれておりますわよ」
「実は、変な夢を見てうなされまして」
「どんな夢ですか?」
「よく覚えていないんですが、とてもアホな夢だったような…あと、目覚めたときに犬がいたような気もしますが、まあ全部、ただの夢でしょうね。それより、タンスに一文銭が入ってまして」
蔵五が懐から一文銭を取り出す。
「前の住人が忘れていったのかなぁ。でも、昨日までなかったと思うし。とりあえず巴姫にお預けします」
巴姫がにこりと笑う。
「それはお守りにとっておきなさい」
「え?お守りですか」
「そう。座敷わらしが家賃を払ってくれたのでしょう。縁起物ですわよ」
「え?わ、わかりました」
蔵五はまじまじと一文銭を眺める。




