表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

第11話

江戸の町。

非番の日が重なり、蔵五といね子は江戸見物へ。いね子の髪にはびいどろのかんざし。ふたりは笑顔で江戸を探索している。

やがて歩き疲れ、神社の前の茶屋で休憩を入れることとする。

目の前を、手をつなぐ若い男女が通り過ぎる。

蔵五が眩しそうにそれをみていた。

いね子は意を決して言う。


「あの、村田様は好きな女性はいらっしゃるんですか?」

「え?そんなこと考えたことないなぁ」

「そ、そうですか」


いね子はもう少しジャブを入れてみる。


「神器府は美しい女性ばかりじゃないですか。私なんか、美人に囲まれて恥ずかしくなるくらいです」

「うん?いね子ちゃんもかわいいよ」

「え?」


いね子は慌てて顔をそらし、笑みを浮かべる。


「ニチャア」

「あれ?あそこ…」

「じゃあ、もしですよ!?もしも、わ、わ、私と、けけけけけっこん」

「あれ?子供が泣いてる」

「え?」

「助けようか。行こう。」


蔵五が立ち上がる。

いね子のあごがカクンと落ちる。少しして我に返る。


「…まあ、村田様らしくて大変良いです。行きましょう」


美しい幼女が神社の前で泣いている。


「お嬢ちゃん、どうしたの?お母さんと離れたの?」

「ううん、バク」

「バク?」

「犬のバク。柳森神社で待ち合わせる約束をしていたのに、来ないの」


蔵五は苦笑する。


「そうか。犬だから言葉が分からなかったのかもね。お家に帰る?俺が一緒に帰ってあげるよ」

「ううん。せっかく100年ぶりに会えるから…待ってる」

「100年?そ、そう、100年ねぇ」


困っている蔵五と、それを見てクスクス笑ういね子。

そこに、小梅がやってきた。


「蔵五くーん、何してるのー」

「びくぅ」


蔵五が怯え、後退りする。


「こ、小梅さん、今日は非番ですか?」

「くっくっく…」


次の瞬間、小梅がお絹の姿になる。

大阪の町で千代姫に拾われた、変装の豪傑、お絹だった。


「仕事中です。これはちょっとした冗談ですよ」

「お絹ちゃん、やめてよ。心臓に悪いから」

「ふっふっふ。で、蔵五さん達は何をしているんですか?」


蔵五が少女を見ながら答える。


「この娘が、待ち合わせ相手が来ないとかで…」

「ああ、そういう事ですか。ここは間違いが多い場所ですよ。ここ柳森神社とは別に柳守り神社があります。漢字が違うけど、読み方は一緒のやなぎもりなんです。相手が来ないのは、それじゃないですか」


蔵五が幼女の方を向く。


「どうする?そっちに行ってみる?行ってみて、バクがいなかったらおうちに帰ろうか?」

「…うん」


お絹と別れて、蔵五といね子は柳守り神社へ向かう。






蔵五達の近くに、巴姫、真白、小糸がいる。

三人も非番の暇つぶしに町を歩いていた。

小糸がため息交じりに言う。


「蔵五君たちが神器府に来てくれましたけど、みんな豪傑なんですよね。普通なのは私だけです」


巴姫が答える。


「あら、そんなことを気にしているの?」

「気にしますよ。なんで、私なんかが凄い人たちに混じって神器府で働いているのか。小鈴様なんか、あんなに仕事ができるのに、さらには豪傑ですよ。あーあ、嫌になります」

「ふふふ。あなたには素晴らしい長所がありますからね。そんな事を気にしないで良いですわよ」

「え?巴様、長所って何ですか?教えて下さい」

「忠恕ですよ。真心と思い遣りです。人の世で働くならば、何よりも大切な事です。皆がそれを理解しています」

「…」


真白が同意するように頷く。


「うわぁ。巴様、ありがとうございます。すごくうれしい」

「ふふふ。ところで小鈴といえば、あれは…すごかったですわ」


巴姫がうっとりとして言う。

小糸もニチャアと笑う。


「ニチャア。はい…すごかったです」

「あのおすまし顔が、おおおおお♡ってなって、ビクンビクン。女の尊厳が破壊される様子が…ハァハァ」

「ハァハァ」


興奮する巴姫と小糸。無表情で黙っている真白。


「ねえ小糸。私、千代姫がおおおおお♡ってなるのを見てみたいですわ」

「あのお上品な千代姫様のおおおおお♡ですか。ビクンビクンですか…ハァハァ。私も見たいです」

「小糸、よだれが出てますわよ」

「巴姫も」

「…」


真白が無言で向こうを指さす。

そちらを見ると、蔵五、いね子、幼女が歩いていた。


「あれは…」


不審な目で幼女を見つめる巴姫。幼女がふとこちらを見てびくりと驚く。そして、足早に逃げるように立ち去った。

小糸が言う。


「どうなさいましたか?」

「いえ、あの少女…まあ、大丈夫そうですわね。放っておきましょう」






柳守り神社にたどり着く蔵五たち。

蔵五が驚く。


「え?なんで?」


小犬がいた。神社の前にちょこんと座っている。

幼女が言う。


「バク!久しぶり」

「わん!」


犬も幼女に気が付く。幼女は走り寄り、犬を抱きしめる。

蔵五がつぶやく。


「いね子ちゃん、本当にいたね」

「はい。びっくりしました」


幼女が言う。


「お兄さん、お姉さん、ありがとう。バクに会えたよ」

「う、うん。良かったね。家まで送ろうか」

「大丈夫。ここでもういいよ」

「そう。じゃあ、さよなら」

「わん!」


不思議そうに蔵五といね子は立ち去った。

それを見送る幼女に、バクが人間の言葉で言う。


「あのふたりに助けてもらったのか?」

「そうだ」

「ふむ。礼をするか?」

「そのつもりだ」


そして、神社のなかに消えていく。






神器府事務室。

千代姫と小鈴がお茶と団子を前に談笑している。

小鈴が言う。


「最近は姫様がよくおいでになられて、うれしいです」

「そう?良かったわ」

「ズバリ、蔵五くん事件以来、総年寄が寄り付かなくなったからでしょう?」


にこにこと千代姫が答える。


「ふふふ、それは内緒です」

「ふふふ」


千代姫が言う。


「ところで小梅さんのことなのですが」

「ビクッ」


小鈴がビクッとなる。


「非番の日に蔵五さんにつきまとうようになったとか」

「お恥ずかしい限りです」

「いえ、責めてるわけじゃないのよ…そんなにいいの?」

「はい?」

「例の、気力を注ぐ術」


小鈴がモジモジして言う。


「まあ悪くは、ないです。ちょっとだけ、いいかも」

「…そう」


小鈴にとって気まずい沈黙。

千代姫が言う。


「巴姫に、やってみたくない?」

「へ?」


少しして、小鈴の顔がニヤける。


「巴姫が…」

「そう。おおおおお♡ビクンビクン、ってなるの」

「…やりたいです」


そんな事をしばらく歓談する。

ふと、千代姫が言う。


「そうだ、綱良様にスルメを買ってきています。持っていってあげますね」

「姫様、私が行きます」

「そう?じゃあ、頼みますね」


部屋で一人になった千代姫がニチャアと笑う。


「あの高慢ちきな巴姫が、アホな顔になっておおおおお♡…ぜひ、見たい」






神器府執務室にて。

徳川綱良が寝そべりぼんやりしている。


「ペンドラゴンは、恐ろしいな。西洋の竜の化身か。安倍晴明討伐にぜひ利用したい。もうひとり、通訳の女がいたな。シャーロット。セントジョージという神器を使うとか」


起き上がり、酒瓶の酒をひとくち飲む。


「この女の実力も知っていきたいものだ。御前試合があるし、参加させようか。楓、いるか?」


何もない空間からくノ一が現れる。


「はい、ここに」

「シャーロットとはどんな人間だ?」

「…おっさん、ですね」

「⋯ん?」

「名誉は面倒くさい、金は欲しい。そのような人物です」

「なんとまあ、ひどい。まあ、私に人のことは言えないが」

「しかし、私が潜入すると、ゴロゴロと転がってペンドラゴンとの間にきます。そして、威嚇するかのように屁をします。ふふふ、なかなかの傑物のようで」

「面白いな。よし、下がれ」

「はっ!」


楓が煙のように消える。


「…なら、ペンドラゴンにシャーロットの出場を要請し、シャーロットが手抜きしないよう金で釣る、かな」


そこに小鈴がやってくる。


「失礼します」

「入れ」


入室した小鈴が、つまみのスルメを差し出す。


「千代姫様からです。お酒のあてに、と」

「お、そうか。千代姫には礼を言っておいてくれ。そうだ、小鈴もどうだ?一口飲むか?」

「いえ、仕事中、ですので」


小鈴は立ち上がり、執務室の外で挨拶をする。


「では、失礼します。お仕事中、失礼いたしました」

「うむ」


執務室に残された綱良がスルメをかみしめ、笑う。


「仕事中、ときたか。持つべき者は優秀な部下だな。お陰で、仕事もせずにこうやって酒を飲める」






夜、蔵五が寝静まった頃。

蔵五の住む部屋に昼間の幼女と犬がやってきた。

鍵を閉めてあるはずの戸を開き、中に入ってくる。

幼女は古いタンスがあるのに気づき、犬に言う。


「これ、良いな」

「住むか?」

「うむ」


幼女はタンスを開き、中に吸い込まれるように消える。

バクは蔵五の枕元で座る。そして言う。


「呪われとるな。呪いは解けぬが、因果は見せてやれる。さて、友と会わせてくれた恩返しをするとしよう。因果を夢で見なさい」


やがて、蔵五がうなされ始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ