7、王太子エドワード視点
今日は、王宮の貴族子女のお茶会での魔力測定について、アレクサンダーとシュベールと相談する為に、ホワイティエ家を訪れていた。
子女が初めて王宮に上がる王妃主催の茶会は、様々な仕掛けがあり、子供達の能力や魔力を知ることができる。
私の治世への準備として、同年代の貴族子女の魔力量や才能を知っておくべきだからだ。第一の目的は、気乗りはしないが妃候補を探すこと。この数年の茶会で、妃候補は絞りきれていなかった。
適齢期の全貴族女性の中から選べるといえば聞こえはいいが、女は恐ろしい生き物だ。みんな私の地位と名声に群がってくる。
時々、私は腐りかけたバナナではないかと思うことが多かった。バナナが熟しすぎるとショウジョウバエがたくさん寄って来るではないか。女に囲まれる度に、俺はバナナを想像しバナナが苦手になった。
バナナに群がるショウジョウバエの中から、魔力量が多く、王妃教育に耐えうる能力を持ち、国母となれる性格や立ち居振る舞いが出来る女性を選別しなくてはならない。それはわかっているが、俺を一人の男として見て愛してくれる女性、なんて、見つかるはずがないか。俺だって女をショウジョウバエ扱いしてる。
しかしさすがに十八歳になり、父上からも急かされていて、今回の茶会でも候補が見つからない時は、王命で決められた令嬢を娶ることになっていた。それもあって、今回の茶会は私にとって、自分の好みの女性を候補にできる最後のチャンスとなる。
ホワイティエ公爵家の者は、魔力量が王族と変わらない。王位継承権も持っているし、裏切らない関係であれば、これほど強い味方はない。もちろん関係は良好だった。
伯父上は多忙な陛下に代わって父親代わりで魔法の師でもあったし、アレクサンダーは同い年で、互いに影武者ができるくらい似ていた。シュベールは2歳年下だが、魔力量も大きく魔法仲間で、二人とは兄弟のように育ってきたので、気心も知れていた。
だがなぜか、叔父上やアレクサンダーやシュベールが溺愛している妹姫には会う機会がなかった。
その日も会わせろと言ったが、ドレスの試着があるから忙しい、と暗に拒否された。別に取って食うわけではなし。兄弟姉妹がいない私は、ホワイティエ家が羨ましかっただけだ。
打ち合わせも終わり、王城に戻る時間になって、威力の高い攻撃魔法が公爵家を揺るがせた。公爵家の屋敷は規模も大きく要塞のようで公爵の結界も張られているが、崩壊部分が出たかもしれんと思うくらいの雷魔法が放たれたのが、全属性の私にはわかった。
瞬時にアレクサンダーが、妹の部屋の方向だとサロンを飛び出した。そこには公爵夫人と妹姫がいる。誘拐か抹殺目的か?シュベールと私もアレクサンダーを追った。
リリエル嬢の部屋に近づくにつれ、侍女たちの悲鳴や騒ぎ声が聞こえてくる。ただし廊下や壁や扉には異変は無い。崩壊部分も見当たらない。部屋の周りに護衛が集まっていた。
すでに開かれている扉から、アレクサンダーが部屋に飛び込む。続いて私達も入った。
意識がなく倒れている公爵夫人。ドレス部屋の中央で、凛と仁王立ちしている少女がいる。きっと妹姫のリリエル嬢だ。
ところどころ焼け焦げ湯気の出た金色のドレスを手につかみ、透き通るような銀色の髪の毛はボーボーに逆立ち頭のてっぺんから湯気が出ている。彼女が着ているドレスも所々焼け、顔の半分は血まみれだった。
雷魔法を放ったのはこの少女だ。しかも彼女は自分の身を通して魔法を発動させている。普通ならその時点で死んでいる。とてつもない魔力量だ。
その上、アレクサンダーの問いかけに「派手なドレスを着たくなかった」と涙をこぼす表情が何とも愛らしい。
確かに黄金のドレスはド派手だったが彼女なら着こなせないことはないだろう。しかしあれだけの魔法を発動させてまで拒否したんだ。彼女が好きなドレスが気になった。
聞いてみると「あのふわふわ」と、私の髪色と瞳色のドレスを指差した。
彼女とは従兄妹だから、私達の色が似ていると言えばそれまでだが、私が贈るとしてもあの色の組み合わせになる。なんだか嬉しくなった。
本人はまだ十四歳だから無自覚だろうが、私にはアレクサンダーの舌打ちが聞こえた。私はアレクサンダーに警戒されていたのか。このシスコンめ。
鼻血を拭い髪を整えた彼女と話したかったが、リリエル嬢は、鏡に写る自分の姿を見て、大絶叫し卒倒してしまった。公爵家の姫らしからぬ型破りなところが気に入った。
いずれ彼女の魔力量を調べる為に、魔法師団に来る時に会える。
楽しみ、というか、待ち遠しい。
もし、リリエル嬢の魔力量と属性が想定のものならば、彼女は未来の王太子妃となるだろう、とニヤついてしまった。美少女が美女になるのは意外と早いんだ。
こんな思いがアレクサンダーに知られたら、きっと私は暗殺されるかもな。




