9、王家に伝わる禁忌の魔力測定
リンゴン、リーンゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン
王城勤務交代の鐘が鳴る。王城は二交代制で勤務シフトがあり、昼職員は勤めを終え、夜職員の勤務が始まり、騎士団は夜間警護の体制になるらしい。夕闇が広がってくる。
「リリエル、リリエルはどうしたいのだ?リリエルの気持ちはどうなのだ。」
「お父様、、私は、、、わたくしに魔力があって驚きました。ですから魔力測定を進めたいのです。ルベール様はやましい方ではないと思うのです。」
「よろしい。リリエルの心のままに行動してみなさい。」
お父様の肩越しでよく見えなかったのだけど、後ろにいらしたお兄様達がまだ騒いでいるけれどよく聞こえない。
「お父様、お兄様方、精一杯頑張ります。」
少し急ぎ足で結界の中央に戻る。
「ルベール様、次の魔力測定に進みます。」
「ありがとう、リリエル嬢。僕を信じてもいいのですか?」
「はい。ルベール様を信じるわたくし自身の心を信じます。よろしくお願いします。」
「ありがとう。ではもう一つ内側に結界を張る。この結界はこちら側から外は見えるが、外から結界の中は見えず、何が起きても破れない結界だ。そしてここで見聞きしたことは死ぬまで秘密にしなければならない。もし話せばホワイティエ家も聞いた者達の命も保証できない。」
「、、、、、承知しました。」
(秘密、、私には口に出せない秘密ばかりだ。異世界から来たとか、この世界でも六十六回も死んで人生やり直してるとか、今更だからきっと大丈夫よ。)
そして完全に日が暮れ、結界も王城も闇に包まれる。
ルベール様は私と向き合って近い所に立ち、両手の手袋を外されると両の手で私の頬にそっと触れられた。何だろう、ホッとする。
その瞬間、ざああと風が吹き、先程私が粉にしたものが舞い上がり、薄紫色のキラキラした風が吹いている様に見える。
「綺麗、、」
風に見惚れていると、ルベール様の声が聞こえた。
「では最終の魔法測定に入らせてもらう。」
そういうと、ルベール様は私の頬から手を離し、右手に短剣を持ち、左の手のひらをばっさりと切った。みるみる血が溢れてくる。
「なっ、ル、ルベールさまっ、なんてことを、、」
「大丈夫。リリエル嬢、これを治せますか。」
「えっ、いえ、私が触れたらきっと粉になってしまいます、どうすれば、、」
私がオロオロし立ち尽くす中、周りの空気がおかしくなってきた。
唸り声が聞こえてくる。嘘、まさか、もしかして暗闇に魔物?
「リリエル嬢、私は闇属性を持っているので私の血は魔物を呼び寄せる。そして先程張った結界は、私が魔法を使えなくなる魔法封じの結界も兼ねている。」
「なっ、ルベール様、何故こんなことを。ご自身を犠牲にしてまで、確かめる必要があるのですか。」
「あなたの魔力を知る必要があるのです。」
「ちょ、あ、魔物がっ!危ないっ!」
近づいてきたオオカミのような魔物が数匹ルベール様めがけて飛びかかり、あちこちに噛み付く。私は襲われてない。
「フェンリルか、うっ、くそっ、、」
ルベール様は手で追い払うくらいで抵抗できない。本当に魔法が使えないんだ。ルベール様の手から血がポトポトと地面に落ちていく。
フェンリルって、ああこれが本物のフェンリルなんだ。VRじゃなくて実物を初めて見たけど、、すごい!
いや、感心してる場合じゃない、どうしよう、なんとかしなくちゃ。
このままではルベール様の命に関わる。結界の外からはここの様子が見えないから助けは来ない。どうしよう。
フェンリルの数は増え続けている。暗闇の中でも、毒々しい赤黒い二つの目が、あちこちからこちらを狙っているのがわかる。
こんなイベント、ゲームで設定してないよ。
一斉にフェンリルが飛びかかってくる。
「ルベールさまっ。」
読んでいただきありがとうございます。明日21時ごろに投稿予定です。