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湿った足音は帰り道に  作者: 羊木 なさ
8/9

第八話

結局花から電話が帰ってくることは無かった。

定時だし、もう一人で帰るか。

もしまた花が来たら問い詰めてやろう。

ふと歩きながらスマホを開くとやたら目を引くネットニュースがあった。


『ーー県ーー市で女性が道路で溺死』


私の住んでいる市と同じ場所だ。

興味を持ってタップし、詳細を見る。


『昨夜、ーー県ーー市で女性が道路で溺死してい······』


スマホが手から滑り落ちる。

花が死んだ?

なんで、だってあの足音は花じゃ······。

そこまで考えてようやく気付く。

昨日の足音、乾いてた。

カツカツと音を鳴らしていた。

あのヒタヒタと水に濡れたような音じゃ無かった。

じゃあ花が殺されたのは······。

背筋が凍りついて砕け散り、地面にへたり込む。

こうしちゃいられない。

これ以上知人が友人が死ぬのは嫌だし、自分も死にたくない。

胸に黒い感情が巣食っていくのがわかる。

すぐに立ち上がって会社を出る。

駅の付近の大手ディスカウントストアへ寄り、金槌と釘を買う。

それらを鞄に入れ、電車に乗り、最寄り駅に着く。


「はぁ〜······」


溜め息が口から漏れ出す。

それを合図に鞄に入れた金槌をギュッと握る。

緊張と不安が頭を埋めつくした状態で耳を澄ましながら歩く。

ふと私の足音以外にもう1つの足音が混じっていることに気が付く。

その足音は段々と私に近付いてくる。

私の真後ろに足音が来た瞬間、金槌を取り出し、後ろの人影の頭を叩く。


「ガッ······」


即座に人影は頭から血を流しつつ倒れた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


やった。

殺したよ、志保、花。

感傷に十分に浸ってからじっくりと横たわる人影を見つめる。

見たところ30代くらいの男性か。

くっそ、よくも2人を·······。

あれ、私なんでこんなこと······。

だって志保は多分花が、花だって私を······。

あれ?えっ?あっ!

あっ、私やっちゃった?

取り返しつかない?

いくら疲れてたからとは言······。


『繧?▲縺ィ隕九▽縺代◆』


脳裏にこびり付くようなこの声。

本能が警鐘を鳴らし続けるが、身体が動かない。

後ろからヒタヒタと足音が近付いてくる。

この男の人は······革靴を履いている。

私はどうやら相手を間違えたらしい。

ゆっくりと振り返る。

そこには2桁になるかならないか、その程度の幼さを纏ったびしょ濡れの少女がいた。

この少女どこかで······。


「うぅ······」


目の前の男性が呻き声をあげる。

良かった······生きてたのか。


「ここは······」

「走って!」


男性の手を無理やり引いて立たせ、その手を引っ張って走る。


『險ア縺輔↑縺』


男性はふらつきながらもなんとか付いてくる。

絶対脳震盪起こしてるだろうけどごめん、それどころじゃない!

すぐに自宅のアパートが見えてくる。

鍵はこうなる事を見越してかけていない。

扉を開け、男性を中に入れ、すぐに鍵をかける。


『髢九¢繧』


ドアを叩く音が何度か聞こえるがすぐに消える。

男性はとにかく混乱した様子で私に話しかける。


「ど、どういうことですか?」


ヒビの入ったメガネをかけ直しつつ、男性はそう聞く。


「ごめんなさい!あなたを殴ってしまって!」

「ああ、だからこんなに頭が痛くて思考がまとまらないのか」

「すぐに包帯持って来ますね」

「ああ」


持ってきた包帯をとにかく男性の頭に巻き付ける。

応急処置ならこんなもんでいいか。


「出来れば明日中に病院に行ってくださいね」

「わかりました。少し会社に電話してきます」

「はい」


男性はリビングを出て廊下でスマホを取り出す。

そんなことよりあの女の子、どこで見たのか······。

恐らくあの子が足音の犯人だ······。

思い出せ、思い出せ、思い出せ。

絶対に見たことあるはず、確か······。


「戻りました」

「······池の子だ」

「え?」

「いや、なんでもないです」


何ヶ月か前に花と一緒に公園で昼食を取っていた時、池で溺れている女の子がいた。

その時は近くに母親らしき人もいたので大丈夫だと思っていたが、やはり罪悪感があり次の日行ってみるとそこは遊泳禁止になっていた。

しかもニュースで報道されていて、そのときの後悔を今でも覚えてる。

多分、いや確実にそうだ。

私のまわりで水難に関するのはその子しかいない。

もしかしたら心のどこかではずっと気付いていたのかもしれない。


「あの······」

「はい?」

「あの、そろそろ帰ってもいいですか?さっきのストーカーももうドアを叩いてない事ですし」

「え······」


このまま帰して良いのだろうか、もしかしたらこの人も······いや。


「わかりました。ただし、怪我をしてるのでタクシーで帰ってください。あと無事に帰れたか知りたいので連絡先ください」

「あ、はい」


男性と連絡先を交換し、タクシーを呼ぶ。

男性はタクシーに乗って帰って行った。

十数分後に男性から無事に到着しましたと連絡が来る。

念の為、病院に行ったときも連絡を寄越すよう連絡し、スマホをベッドに放り投げる。

そして私もベッドに倒れ込み、そのまま眠りに落ちる。

耳に残る不快な声と水音を頭に響かせながら。

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