12話 走れ走れ
遅くなりました。すいません。m(_ _)m
カーテンの隙間から光が差し込み、部屋全体がぼんやりと明るさを持っている。その部屋の真ん中に置いてあるベットの上で少女が目を覚ました。
目を覚ましてすぐ、侍女のヘレンがヴィオラに声をかける。
「おはようございます、お嬢様。」
「…おはよう。」
最近ではいることに慣れてしまった常に待機している侍女に挨拶を返した。本来貴族の娘とはいえ、部屋の中に誰かが常についてるのはおかしいことだ。しかし、いつも1人で起きていた部屋の中に今回のループでは、ヴィオラの自殺防止のために常に誰かがヴィオラの近くにいる。次の行動の指示がヴィオラから飛んでくるまでヘレンは部屋の隅で待機した。
今日の予定について考えるヴィオラだったが日にちを思い出すとここ最近頭を悩ませていたことについて思い出した。
ーーはぁ…。ついに今日がきてしまったのね。どうせすぐ戻ることになると思ったのに…いえ、それは言い訳だわ…。…なんとかしないと。
いつもなるべく救ってきた少年をほったらかしてしまった罪悪感でヴィオラは気が重い朝を迎えた。今日起きる問題について思案するヴィオラだが、いつまでもこうしてるわけにはいかないとヘレンに学校へ行く用意をすることを伝えると身支度を始めた。
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ヴィオラが学校へ着くと教室の前には人だかりができ、教室の中で飛び交う鋭い声が教室の外まで聞こえてきていた。
その様子で何かが起きていることを察したヴィオラは焦る心を落ち着かせながら人波をかき分け教室の入り口のところまでなんとか進む。
「お前が取ったんだろっ!レイル!」
「…俺が取った証拠がどこにあるんだよ。」
教室の中では、黒縁眼鏡をかけ、クリーム色の前髪が伸びて顔がよく見えない少年の胸ぐらをその少年よりも体が大きい深緑の髪をしている少年が掴んでいた。
ーー遅かったっ!まさか朝からこうなるなんてっ!
とりあえず止めなければ、とヴィオラは教室に飛び込もうとするが、ヴィオラの肩を誰かが掴んだことによってヴィオラは後ろに引っ張られた。しかし、ヴィオラは諦めずにいきなり掴んできた人物を確認もせずに振り払おうとする。
「離してください!!」
「落ち着け!俺だ!アンドレアだ!」
目の前の出来事に捕らわれていた思考が、聞こえてきた馴染みのある声によって、ベクトルを変えた。ヴィオラが振り向くと後ろにはアンドレアと従者の2人がいた。
「仮にも女性である貴女が出る場面ではないだろう。…しかし、これは何が起きているんだ?」
アンドレアは、一言目はヴィオラに、二言目は独り言のようにこぼした。
「…殿下。さりげなく"仮にも"なんてつけないでください。殿下の婚約者ですよ?」
「…あ、そうか。完璧に無意識だった。今度から気をつけよう。」
「では、とりあえず、喧嘩しているあの二人、俺が切ってきましょうか?」
「…いや、それはダメだろう。目をキラキラさせて何てことを言うんだ、全く。イーサン、あれは…タレン商会の子息とシーノルド男爵の子息か?」
「そのようですね。とはいえ、事態が把握できない以上、殿下が出て行くのも得策ではありませんよ。……めんどくさいのでラルクに2人とも切ってもらいませんか?」
「おい、お前が諦めるんじゃない。」
こんな非常事態でもいつものやりとりをしだす3人にヴィオラはだんだん冷静になってきた。
ーーたしかに、今出たところで私には何もできないわ…。
いつも1人で片付けていた問題に今は自分以外の3人が一緒に向き合ってくれることにヴィオラは知らず知らずのうちに安心した。
しかし、アンドレアが「さて、どうしようか。」と事態の収集について考えている間も2人の言い合いはどんどん熱を持っていく。
「だから、証拠が無いだろって言ってるんだ!」
「はっ!タレン商会は最近落ちぶれているっていう噂だっ!無能な子供は育ちが悪くたっておかしくはないだろう!!」
その瞬間、クリーム色の髪の毛の隙間から業火の赤が見えた。そしてピンと張り詰めた声が教室に響いた。
「お前みたいになにもかも恵まれた奴が!!俺の家を馬鹿にするな!!」
そう叫ぶとレイルと呼ばれていた少年は教室の前に群がっていた人混みを押しのけ、どこかへ飛び出していってしまった。たまたま、レイルが出て行った扉とは違う方にいたヴィオラは、すぐにレイルを追いかけるため走り出す。
「え!?ちょっ!まて!ヴィオラ嬢!?」
「大丈夫ですっ!任せてください!」
「君に任せるのは嫌な予感しかしないんだが!」
飛び出してしまった、ヴィオラの後を仕方がなくアンドレア達3人は、すぐさま追いかける。
ヴィオラには特になにか考えがあるわけでも無かったが、レイルとは今まで何度も知り合いになってきたという点でなんとかできるんじゃないかという自信があった。彼の事情も知っている。本当は彼の魔法が出る前に彼と接触するのが最善の一手だったのだ。そして、学生でもできるアルバイトを彼に紹介することができていれば、彼をあそこまで追い詰めることはなかった。歴史があるサングリア家の元で勉強するという方便があれば、アルバイトでも周りからとやかく言われることはない。
彼は優しい人間だということをヴィオラは知っている。優しい人間ほど自分を責めて、心を追い詰めてしまう。かつてのヴィオラのように上手くいかないのは全部人のせいにして逃げてしまえばいいのにと何度も思った。
ーー分かってたのに!こうなることは全部分かってたのに!
ヴィオラは走りながら自分を責める。すぐ次に行くことになるからと放っておいた自分を。たとえ無かったことになることでも、今この瞬間に苦しんでいる人がいることを分かっていたのなら行動しなければならなかったのだと。
「...ヴィオラ嬢めちゃめちゃ足速くないか?人がいて邪魔とはいえ、追いつけないんだが!」
「騎士団に勧誘いたしましょう!彼女はいい騎士になれるかもしれない!」
「いや、皇妃が騎士にはなれないだろう。」
「…はぁはぁ。ちょっと、私は、あなた達みたいに、体力馬鹿じゃ、ないん、ですよ…。だから、ラルクに、頼んで、2人の、気を、失わせとけば、よかった、…のに…はぁ。」
真剣に考えているヴィオラの後ろをいつものテンションでアンドレア達3人は駆け抜けて行った。




