13話 痛い
大変遅くなってしまいました。すみません、お願いします。
ーもう嫌だ…!全部全部全部全部っ…!!
レイルは息を切らせながら屋上へ向い、扉を乱暴に開け、屋上の淵まで向かった。しかし、実際にその場に立つと今から自分が死ぬという事実に思わず足が後ろに下がってしまった。
頭の中では自分が死んだらかかる迷惑が浮かんでくる。なにより跡取りの自分がいなくなることでより父親は荒れるだろう。その全てが弟に向かうことになる。バカなことをするなと訴え続ける脳みそを停止させるようにレイルは声に出して振り払う。
「大丈夫。大丈夫だ。もう死んだらなにも考えなくて済む。関係なくなる。ツラさも罪悪感もぜんぶなくなるっ。」
意を決して一歩踏み出そうとした瞬間、大きな音とともにドアがいきおいよく開いた。
「てぃやぁああああ!!」
聞こえてきたのはどう頑張っても男には聞こえない声で、けれど淑女が出すはずのない声だった。その声につられて顔を扉の方に向ける。そこには息を切らした女の子一人。そして、続いて男二人が走ってきた様子で現れる。
「仮にも女の子が足で扉を蹴り破るな!!」
「なんて素晴らしい脚力!!やっぱりっ…。」
突然現れた人にレイルは呆然としたまま扉を見ていることしかできなかった。するとふらふらになりながらもさらにもう一人人数が増えた。そこでようやく、レイルは、脳が働き出すと入ってきた人逹がこの国の重要人物である方々であることに気づいた。
「え、どう…して?」
ヴィオラはレイルに声をかけようと言葉を探すが、一体なにを言えば正解なのか答えはでてこなかった。それを見かねたアンドレアがヴィオラの代わりに声を掛ける。
「あー、私たちは君になにがあったのか、まったくわからないんだが…。とりあえずそんな端っこにいないでこちらへ来て話さないか?」
アンドレアは努めて優しい声を出し、それをきっかけにしてレイルはさっきまで自分がしようと思っていたことを思い出した。そして、彼らは自分を止めに来たのだと理解した。
「私は、、もうダメなんです。私はもう…"汚れてしまいました"し、疲れてしまいました。」
そう言うと、レイルは疲れ切った笑顔を浮かべる。汚れてしまったという表現に反応したのはアンドレアとようやく少し体力が回復したイーサンだった。
「あなた…もしかして...魔法を悪用しましたね…?」
どうやら、この場で分かっていないのはヴィオラとラルクだけのようだった。
「…さすが未来の宰相と名高いローレン殿ですね。」
「感情に異変がでてきたのか?…生きていくことが辛くなるほどに。」
しかし、アンドレアの言葉にレイルは疑問で返した。
「感情に…?」
レイルの何を言っているのか理解していない様子にアンドレアはあることを察した。
「あぁ…なるほど。魔法が使えるようになったことを国に報告してないな?」
アンドレアは、思わず、ため息をついた。話についていけないヴィオラは我慢できずに疑問をぶつける。
「あのっ!どういうことですかっ!?」
「この国では魔法が使えるようになった時点での国への報告が義務化されていることは知っているだろう?その理由は、魔法の危険について講習を受けなければならないからだ。」
ここまで話すとアンドレアはヴィオラから目線をレイルに合わせ、厳しい眼差しを向けた。
「魔法は一度悪用するだけでも身を削るような痛みを味わう。その痛みは危険信号だ。その信号を無視して、魔法を悪用し過ぎたものは、感情の起伏がなくなる。次に欲が消え去り行動することが少なくなる。そして最後に…衰弱死してしまうと言われている。」
レイルは自分がそうなるかもしれなかったことを初めて知り、慄いた。
アンドレアは自分が知らないうちに厳しい目をしていたことに気づくと、表情を和らげ、続きを話して行く。
「そのことを学ぶ講習に参加しなければならないのは国民の義務なんだよ。と言っても、実際に悪用してしまった君は嫌という程味わっているだろう。悪用する苦しみを。」
初めて聞く事実にヴィオラは驚いたが、同時にこの国で魔法を使った事件が少ないのはそういうことなのだと納得もした。
レイルは全てを諦めたような笑みをアンドレアに向ける。
「常に付きまとう苦しみですよ。…でも、もう関係ないことです。どうせ僕はもう死ぬんですから。」
そして、より端に足を進めた。
「どうも最近私の周りは、安易に死のうとするな。どう思う?」
「バカなこと言ってないで、早く解決する方法を見つけてくださいよ。」
「今まで見てこなかっただけかもしれませんよ。」
「お前はなんて怖いことを言うんだ。」
いつものような会話をする間もアンドレアの視線はレイルから片時も離さない。たとえ飛び降りたとしてもすぐに治療に向かえるように、ラルクとイーサンに合図を出した。
そして「まぁ、なにがあったのか話してみるぐらいはしてもいいんじゃないか?死ぬ前に。」とレイルが飛び降りタイミングを掴めないように話しかけ続ける。
そんなやりとりが男たちでやられている間、ヴィオラは必死にレイルにかける言葉を考えていた。
ーー『そんな簡単に死のうとしてはダメ。』って言うのもなんか綺麗事すぎるし、「だったら勝手に死ねばいい。」って言うのはきっと本当に飛ぶわね…。あぁ屋上で死のうとするなんて…!なんで、屋上の扉に鍵がかかってないの!そういえば前にここで死のうとしたときも開いてたわね…。
前の記憶が蘇ったその時、ヴィオラはあることに気づいた。
「あ…。」
アンドレアが「だから、もう少し生きてみるのもいいんじゃないか?」とレイルに話そうとした、その時、後ろから大声が聞こえた。
「ああ!!そこ!痛いわよっ!!」
「…は?」
男たちが揃って場違いにもキラキラとした表情をした女の子に目を向ける。
「そうよっ!痛いのよ!学園の屋上は!!そこ、下が土で相当打ち所が良くないと死ねないの!!」
得意げな様子のヴィオラに周りは何も言えぬまま話の主導権は完全にヴィオラに移った。ヴィオラは自分の興奮をすこし抑えながらも話し続ける。
「たいして高さがないんですよ、ここ。ほら、レイルさん下を見てみてください。土でしょう?上手く首の骨を折るぐらいしないと楽に死ねませんよそこじゃぁ。」
ーー以前、そこに気付くかなくて、死ぬまで何時間も苦しんだのは良い思い出ね。多分あれは、出血死したんだわ。…あれを機にどんな死に方をする時も死に損ねた時を考えてナイフを持ち歩くようになったのよね。
これでレイルが飛び降りることはないだろうと安心しきった様子のヴィオラに、アンドレアが不思議に思う。
「…いやいやいやいや、…なんでそんなこと貴女が知っているんだ?」
「一般常識でしょう。」
「そんな一般常識があってたまるかっ!!」
ここで空気が変わったことに気づいたアンドレアはようやくレイルから目を離し、ヴィオラに目を向けた。そんなアンドレアに気付いて、ラルクとイーサンが次いで肩の力を抜いた。
ヴィオラが未だ呆然としているレイルの元に向かう。手を伸ばせば届く距離まで近づくと優しい目を向けて慎重に語りかけた。
「ね?だからとりあえず後回しにしてしまいましょう。私が貴方にこの屋上で飛び降りなくて良かったと絶対に思わせてあげるから。」
死ぬことを止める理由が"その死に方は痛い"?そんなあまりにも奇抜な止め方に、ついにレイルも肩の力をが抜けてしまった。
ーー面白い人だなぁ。
家のことなど何も解決していない。この時飛び降りてしまえばよかったと思う日が来るかもしれない。でも、この人についていきたいとただそう思った。
そしてついにレイルはヴィオラの方へ一歩踏み出した。
これからも遅くなってしまうことがあると思いますが、思い出した頃にお読みいただけると幸いです。




