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挑戦状



丈留の病室からは今日も怒鳴り声が響く。


「だぁから、今のはループだ。何回説明すりゃ理解するんだ」


ベッドには丈留、その側に晶。

タブレットでフィギュアスケートのジャンプやスピンの種類を学ぶ。

晶もここ何日かの間で随分フィギュアを学んだ。が、どうもジャンプの見分けだけは苦手な様でテストされる度に間違えては丈留に怒られる。


だが丈留の怒鳴り声は今までの八つ当たりとはまるっきり違っていた。


「あっ、また怒った。『人間性』の “怒らない” が出来てません」

「怒ってねぇだろ、お前…あ、晶が全く理解してないからだな」

丈留を真っ直ぐに見る晶の目が気になると、なんだか目線を外し “ 晶 ” と言うのにもどもってしまう。

「だって全部おんなじなんだもん、ジャンプ」

ただ晶はそんな事にはお構いなしに頬を膨らます。

「馬鹿。よく見ろ、全然違うだろ」

「馬鹿って言った!これは『人間性』の “女性を大切にする” に違反です」

「おい、だったら晶。お前は『技』の欄の “研究” が出来てないんじゃないのか?」

「ムッ。それは丈留さんのプログラムです。それに『技』や『勝負』『環境』の欄は私が口を出せる分野ではありません。むしろ丈留さん自身がここは考えるべきです」


「だったらこうしよう」

「あ!ズルい!」


丈留はマンダラートを取り出すと『環境』の欄に“晶が俺を勝たせる” “晶が技を覚える”と書き込んだ。


「ズルくねぇよ。これは立派なプログラムだろ、技を知らないコーチがどこに居るってんだよ」


「私は技術は専門外です」


技術は専門外。

その言葉を聞いた時丈留は今までにないくらいの冷静な声で晶を諭す。


「いや。駄目だ、それは」

「…!」


晶はその声に一瞬息を呑んだ。


「晶。お前は仮にも俺のコーチだろ。フィギュアスケーター禰宜丈留の。言っておくがジャンプやステップの種類を覚えるのは技術でもなんでもない」


「…だって早過ぎるし、バスケと違って全然特徴掴めないもん。目も疲れました」


「確かに言い分は分かる。だがそれを覚えるのがお前の仕事だろ?もう一回教えてやるからよく見て覚えろ」

「…私に教える時間があるなら、その時間を自分の為に使って欲しいです」

「これが俺の為でもあるんだよ」

「え」

「お前に教えることで俺だって改めて技のタイミングとかも知れたりするし」

「うーん。3回転より4回転がすごいじゃダメですか?」


「…」

「丈留さん?」


丈留は深く考え込む。

その姿を見て晶は自分は今余計な事を言ってしまったのではないかと思った。

しかし丈留は怒る事は無かった。


「最もだな、それは」

「丈留さん?」

「3回転より4回転。種類なんか知らなくてもテレビ観てりゃ解説員が勝手にボヤいるだろ?だからわざわざ知らなくてもどうにかなる。お前の言う事は一理あるよ」

「…」


「でも、それは観客だけでいい」

「え?」

「お前がただの観客で金払ってチケット買って俺に文句垂れるだけならそれでいいんだ。客の願いは転倒するな、派手な技見せてくれ、綺麗な衣装、華のあるスケーター。大いに結構だ、俺らも同じ考えだから」

「…」

「でもな。技ってのは観客や審査員には伝わり切れない、得点だけじゃ表せない俺たちプレイヤーのこだわりがあってさ」

「…」

「例えば晶が全部同じと言ったジャンプも俺らスケーターはそれぞれにこだわりがあるんだ。得意不得意だけでなくて思い入れや憧れ、トラウマもあるし。知ってるか?イナバウアー」

「はい。グニャーってなるやつですよね」

「荒川静香が、トリノで金取って注目された技だが、正直原型はもっとシンプルで地味なんだぜ?それにあれをやったからといって点数が加算されるものでもない」

「え」

「つまり無駄な技って訳だ。マンダラートで言えば『勝負』の “棄てる” に当たるよな。でも彼女はこれをあえて使った。それはこだわりなんだよ」

「…」

「3回転より4回転。難度の高い技で連続ジャンプ、後半のジャンプの方が得点は高い。ここらは大事だが、晶に見てもらいたいのはお前なりの感性で技を見極めてもらいたいんだ。その上でアドバイスが欲しいのだがどうだ?」


「…」

「ん?」

「ごめんなさい」

「…」


「私、全然考えてませんでした。私はスケートは知らないからバスケの経験でそれを生かしたプログラムがスケートにも役立てればいい。だって私があれこれ言うよりも学校のコーチや中山さんもいらっしゃるし」

「あのなぁ、これ、マンダラートの中心はどうだ?『全日本選手権』だろ。これは俺が全日本で勝つためのプログラムだろ?お前なりに考えたものだろ。だったら責任もてよ、俺に夢みせたんだから」


「丈留さん」


「だからもう一度教えるから、分からなければ分かるまで」

丈留は何か優しい笑みを浮かべる。


その時

「…あ!」

晶は何か突然閃いた。



「どうした」

「私、ちょっと席外します」

「おい、どうした」

「ちょっと待っててください」


堰を切ったように丈留を放置して病室を出て行く晶。


彼女が再び病室に現れたのは3、40分してのことだった。どうやら何か買い物をしてきた様子だった。


「すいません。お待たせしました」

「何買って来た?」

晶はビニールからゴソゴソと取り出す。

「人形です。着せ替え人形。最近は100円ショップでも売っててくれるから助かります」

「おいおい、いい年しておままごとか?」

「いえ、これで教えてもらおうと思いまして、ジャンプ」

すると晶は人形の服を剥ぎ取った。

「⁉︎」

人形とはいえ服を脱がされた姿にドキッした。


「私、今まで映像の中ではずっとジャンプ見たけど、勿論どのジャンプの説明とかも読んだけど、やっぱり何か理解できないかったんです。きっとそれは私が未経験に加えて映像という “平面” での事だったからだと思うんです。でもこうした人形で立体視して教えてもらえば私にも分かるんじゃないかと」


晶はおままごとをするかの様に人形をいじり始めた。

丈留は晶という人間は理数系だと思っていた。自分とは違う机上の上で何でも理解出来るタイプ、しかしスポーツに関してはとことん自分の身体で覚えるまで繰り返して叩き込む体育会系だと知った。


下手に論理で教えるより人形の方が伝わる、自分もジャンプを覚えた時は見て学ぶよりも実践で覚える方が先だった。


「一理ある。ま、人形これで伝わるかは知らんがやってみるか。よし、じゃおさらいのアクセルから。アクセルは分かるな」

「はい」

晶から受け取った丈留は人形をさっそく使い始める。

「アクセルはプラス半回転。だからジャンプの直前は必ず前から入る。下手な理屈は考えるな。前から入るのは全部アクセルだ」

「はい」

人形の解説のあとはタブレットでアクセルジャンプの動画を流す。

「ちなみにアクセルは必ず組み込まなければいけない。全日本で結果残すなら3回転は絶対だ」

「2回転では駄目ですか?」

「いや、駄目ではないがトップは必ずトリプルアクセルを使う。単純な話、二回と三回は得点が大幅に違う」

「なるほど」

「それを踏まえると女子の世界はかなりシビアだぜ?トリプルアクセルを使える選手は1人か2人。男みたいに4回転を扱える選手も…まず見ないからな。つまりショートプログラムでは皆が皆同じ技を使う事になる。そうすると…」

「完成度の勝負」

「その通り。これ知るだけでもテレビ観戦で少しは面白くなるだろ」

「はい!ありがとうございます」

「お、おう」

「丈留さん?」

「いや、なんでも。よし、こここからが本番だな。よく見とけよ。まずルッツから」


人形を使うと丈留自身も教え易い事を知った。それは晶にも伝わる。

これなら思いのほか早く次の段階に進める、そんな時だった。


「よお、やってるな御両人」


病室のドアを開けてやって来たのは中山だった。


「チッ。誰が御両人だ、バカが」

「中山さん!お久しぶりです。あれ、サトちゃんは一緒じゃないんですか?」

「ああ。今日は別だよ、でも凜里花から君によろしくって伝言預かってるよ」

「そうですか…会いたかったなぁ」

少し寂しげなると、口を尖らせ丈留をジロリと見る。

「おい。なぜ俺を睨む」

「誰かさんが花瓶投げつけたりするから」

「だからいつの話だよ、それに関しては中山にも悪かったって伝えてくれって。おいこら、中山、無視するな」


「…」

晶はまたジロリと見る。

丈留はその視線に喉を詰まらせた。一度目を外すも少し真剣に考えてボソっと言う。


「退院して直接会えたら、ちゃんと彼女にも謝るつもりだ。約束する」

「はい」

ホッと息をついた丈留。


「なんだ禰宜。急に丸くなったな、だいたいなんだその全裸人形。いつからロリコン趣味に…」

「わぁ!馬鹿野郎!こ、これは」

中山がいじろうとした手に取るも一瞬で奪い返す。

「私が頼んだんです。ジャンプの違いがイマイチ掴めないので立体的に。服は邪魔なんで」

「へぇ」

「そそそそうなんだ、分かったか」

「何故どもってんだ」

「どどどもってなんかないだろ」

クスっとする晶。

「とりあえずアクセルは分かったんで次はルッツを。中山さんも居てくれればもっと助かります」


ルッツと聞くと中山の表情はすぐに変わった。


「ルッツ?何故ルッツを」

「いや特に理由はない。分かりやすいだろ」

「…」

「中山さん?」

「禰宜、まずはトウループだ。もしくはループ」

「あ?なんで」

「お前の最大の武器が4回転トウループだからだ。それに4回転ループも飛べるんだ、彼女にはまずこの二つを知ってもらう方が先だと思うが…三原さんはどう思う?」

「え?私はよく分からないのでそれは任せますけど」

「禰宜はどうだ?やはりルッツか?」


少し考えた丈留。


「…分かった。晶、ルッツじゃなくてトウループから教える」

(ん?“アキラ”?)

「はい。よろしくお願いしま…あっ、ごめなさい電話きちゃった。ちょっと外します」

「おう、分かった」


晶は携帯を見ながら病室を出る。


男二人となった病室。

中山はニヤニヤと丈留を見る。


「なんだよ、気持ち悪いな」

「ふーん。晶、ねぇ。三原じゃないんだ。随分仲良いな」

「うるせえ。あいつが名前で呼べってうるせえから。だいたいお前がフルネームで教えないからミハルってのが苗字だと思わなかったんだよ」

「別にミハルが苗字ならそれで呼べばいいだろ」

「うるせえな。と、兎に角なんか知らない内にそうなっちまったんだよ」

「そうか。で、どうよ、JKは。いいもんだろ、女子高生に付き添われるって」

「あのなぁ、あいつはお前の女と同い年だろが。本来なら高校とっくに卒業して」

「だからいいんだろ?今年大学一年の凜里花と同い年の美少女が制服着て親身に会いに来てくれるなんてたまんねぇだろ。俺なんて凜里花に桜杏の制服着て欲しいのに完全拒否られてるってのに!禰宜は幸せ者だぜ、このロリコン野郎」

「…お前、最低だな」

「冗談だよ」

「…」

「なんで俺があの子をお前に紹介したと思う」

「知るか」

「元は凜里花からだったんだ」

「あの子が」

「始めはびっくりしたよ。幾ら何でもスケート知らない素人に、しかもよりによってお前みたいな気難しい奴のコーチなんてな」

「気難しいは余計だ、アホ」

「案の定初日は予想通り激怒させたしな」

「…」

「俺だって始めは反対だったんだぜ?俺がお前の立場ならこの時期に素人連れて来ても迷惑以外のなにもんでもないし…ま、女の子が来るってのは嬉しいがぁ…そんなのは一瞬だけだな」

「…」

「でも凜里花は妙な自信があってさ、彼女は必ずお前のプラスになるって言うんだよ」

「お前こそ女の尻に敷かれてんな」

「…ああ」

「?」

「禰宜。俺、ひょっとしたら凜里花と結婚するかも」

「あ?」

「いや。それくらい離したくないって思える時があって。そんな彼女がそこまで押すあの子がどんなもんか知りたくてね」

「…あいつも同じ事言ってた」

「?」

「お前の彼女がいつも自分を支えたって。その彼女の頼みは断れないってよ」

「そうか」

「中山よ。あいつはマジでスケート何も知らない素人だよ。可愛いJKだ?口の利き方知らねえ生意気な女、俺がこの状態じゃなかったら何度襲って生意気な口塞いでやろうかと思ったか。てめえの役割は俺の性処理だけしとけばいいんだ、顔だけはマシなんだからさっさと咥えろ便所女って言ってやったさ」

「…マジか」

「お前があいつならどうよ」

「まぁ、キレるわな。キレて二度と来ないわな」

「…あいつな。ナースコール使おうとしたんよ。看護師に俺がムラムラしてるからヌイテくれって」

「うお!」

「それだけじゃねぇ。エロ本買って来いっつったら本当に買ってきやがった。金髪ボインの」

「マジか、やるな」

「あいつは生意気なクソガキだが…その分本気でな。これ見ろ」

「…これは」

「マンダラートだってよ。俺を全日本で勝たせる為に一人で考えてきやがった。この『体』の欄の解剖学、分かるか?こいつ、自分も入院してた時に全部勉強してカルテも薬も自分の体を全て理解したんだとよ。実際下手な医大生より知識は凄まじかったわ」


「…」

手渡された晶のノートを見て中山は言葉を失う。


晶がここ何日かで書き上げた丈留の復活プランの内容は濃いものがあった。


「こっちは全日本までの俺の日程。マンダラートに沿って動けない時に何をすべきか、リンクに戻った際にすぐ勘を取り戻すにはどうするかとか、日ごとに事細かく書いてある。まぁ適切かどうか置いといて…分かるか?あいつは素人なりにでも本気で俺に向き合ってんだよ」

「…」

「しかもこれは決して口だけ頑張れとかじゃねぇ。奴の経験が根底にある。ここまで本気見せられたら…腐ってるのが馬鹿みたいだろ」

「禰宜…」

「中山。だからお前も本気で俺に力を貸せ。俺はもう覚悟を決めた」

「…待ってたよ、その言葉。ラストサムライ、禰宜丈留の復活劇の始まりだ」

「ふっ」

「ところで…聞きたいのだが」

「?」

「なんだ、この『パック』って?」


「‼︎‼︎」

丈留の顔がみるみる内に真っ赤に染まる。


数秒後、病室はその真相を知った中山のクレームが来るくらいの爆笑で響き渡るのだった。


〜…


2.


晶は屋上に来ていた。

電話だけならロビーでも充分なのだが通話相手に屋上に来るように呼ばれたからでもあった。


「よかった。きっと先輩は今日も病院に来てると思ったから」


呼び出し相手は夕日に照らされた真琴だった。


「わんこ。どうしたの?肩は大丈夫?」

「大丈夫ですよ。怪我なんてしてませんから」


「?」

晶は真琴の態度に妙な違和感を感じた。


「怪我したフリしないと部活抜けられないんで」

「どうゆうこと」

「先輩に会いたいから来たんですよ」

「怪我したのは嘘ってこと?」

「でもちゃんと病院ここの先生には見てもらいましたよ。今日だって再診だし。だから私は病院の部外者じゃない」

「…」

「先輩を呼んだのは理由がありまして」

「…」

「先輩こそどうなんですか?お身体の具合。去年に比べたら随分元気そうに見えますけど」

「…良くなってる。もっと詳しく言うともう少しで腎臓病、治るかもしれない。治ったら足のリハビリも本格的にするつもり」

「ふぅーん。でしたら一発や二発くらいならやれそうですね」

「?」

「来週からウチら、女子部は集中の短期合宿始まるんです」

「うん。そんな季節だね。頑張れ、最後のインハイ悔い無いように」


「合宿、来てくれますよね」


「!」


「…」

「…」


「前も言ったけど、私はバスケ部には関わらない」

「関わってるじゃないですか。この写真」


関わらないと言った晶に即座に反応する真琴は携帯からゴールデンウィークの加藤との写真を上げる。


「…!」


「先輩前に言いましたよね。想像に任せるって。だから想像しました、間違いなく先輩は加藤先生が好きなんだなって」

「…」

「だってゴールデンウィークに二人で街中ドライブってどう考えても怪しいし、それに先輩のこの格好。すごいおしゃれ頑張ったんだなって、サイボーグって呼ばれてた先輩がこんなに楽しそうな顔、女だったら誰だって理解しますよ。私はずうっと先輩を見てきたんですからゴマせないないですよ」


「…で、何が言いたいの」


「加藤先生と二人っきりの時間を過ごせるように協力しますよ」


「…」


「やだなぁ先輩。警戒しないで下さい。私は誰にも言いません、だからこれまでだって先輩を色々助けたじゃないですか」

「悪いけどそこまで暇じゃないんだ。私に協力するならほっといてくれないかな」

「それは無理です。私も合宿でやりたい事あってそれには先輩が来てくれないと」


「バスケで聞きたいなら他の先輩に教えてもらいなよ。私が教えられるものなんて…」


晶の真琴に対する態度は一変した。

付き合ってられないとばかりに呆れ捨て台詞を残し屋上を後にする。


しかし真琴は引かない。


「和久井君にはレッグスルーのコツ教えてるくせに?」

「…」

「知ってるんですよ。ウチらには黙って和久井君だけにはこっそりバスケ教えてあげて。いいな、私にも教えて欲しいのに」


私にも教えて欲しい。

晶の背中に掛かる声、だがその声は何か嘲笑されてる様にも取れた。


「わんこはとっくにマスターしてるじゃん。私から見ても文句無いよ」


晶は振り返らず答えた。

真琴はツカツカと歩み寄り晶を正面から見た。


「マスターしてる?ああやだやだ、思っても無い事言って」

「私はホントにそう思ってる」

「だったらなんで和久井君は私に聞いてこないんですかね?なんでバスケに関わらないって言ってる先輩にわざわざ」

「…」

「和久井君が言ってたんですけど…私のレッグスルーは全然参考にならないみたいです。先輩のじゃないとダメだって。先輩も嬉しいでしょ、私よりも先輩が上で」


「私はそんな事…」


「和久井君の事、どう思ってます?好きですか?一番距離近いのは加藤先生より和久井君ですもんね」

「は?…別に好きとかそんな低俗な…」

「なんで今視線外したんですか」

「は外してないし!それに私は」

「ですよね。一度告白されたのを断ってますもんね」

「!」

「でも和久井君はまだ先輩が好きだと思いますよ。女性として」

「何言ってんのよ、そんな訳無いでしょ」

「なんでですか?好きな女の子と一緒にバスケ共有出来るなんて最高じゃないですか」

「わんこ。いい加減に…」


「私、和久井君の事が好きなんです」

「…!」


「だから先輩の気持ちが知りたいんです。好きじゃないんなら思わせぶりな行動しないで下さい。先輩の口からちゃんと彼に言ってくださいよ。私よりわんこを大切にしろって。協力してくださいよ、可愛い後輩の頼みなんですから」


「わんこ…」


今まで見せてこなかった真琴の態度に晶の頭の中で混乱と困惑が混ざり合う。

一体真琴に何があったのか晶には知る由も無い。


「協力してくれますよね」


恋愛については特に疎い晶だが、どうやら真琴は湊が好きで何やら自分と湊との今の関係が気にくわない。これは理解した。

しかしそれにしても今の真琴の態度は余りに自分を挑発してるようでとても寛容出来るものではない。


「悪いけど無理。自分で言いなよ、好きだったら」

晶は高鳴る胸を押さえ冷静に吐き捨てる。

だが真琴はすぐに割って入る。


「もう言いました。ふられました」

「わんこ」


「なんでですかね。私は和久井君が好きな先輩になる為、先輩の代わりになれる様にいっぱい努力したのに。先輩よりも全然上なのに」

「…」

「納得いかないんだよなぁ」

「…」

「どうすれば和久井君は先輩より私を認めてくれるんだろう」

「…」

「ね、先輩」

「…」


「そうだ!勝負しませんか」

「勝負?」


「そう。私と1on1…和久井君の見てる前で」

「…」


「1on1なら単純にどっちが上か分かるじゃないですか」

「私がまともに動ける訳ないだろ。勝負したいならフェアに期末テストの成績でいいんじゃないの?」

「なるほど。確かに学年三位の先輩なら問題無しか。別に勉強でも私負けるつもりは無いですけど、ツマラナイ冗談は抜きにしてくださいね」


「それはこっちのセリフなんだけど」

「は?」


「今の私が勝負以前の段階くらい分かってんのにからかうのは許せないんだけど」

「身体の調子はすごく良いんでしょ。いいじゃないですか。去年のインハイの時に比べたら」

「…」

「受けてくれますよね」

「断るわ」


「だったら “コレ” 次のスクープ流します」

真琴は携帯操作で晶の携帯に送信した。


フォルダに入っていたのは先日晶と丈留が寄り添って病院内を散歩している物だった。


「次のタイトルは『小悪魔晶ちゃんの新しい彼氏は大学生♡怪我したフィギュアスケーターに大接近』どうです?」

「わんこ、これ」

「禰宜さんって結構有名なスケーターなんですよね?こんなの流れたらすっごく迷惑だろうなぁ。もちろんもっとラブラブな角度もありますし」

「…」

「それとも加藤先生との写真の方が良いですか?いっぱいありますよ」

「…」


「今までのツイートの犯人、全部私です。驚きました?」


「…わんこ…あんた」


「いいですよ、学校に言いつけても。ま、そんな事したら私のデータの中身全部流しますけどね」

「…」

「来週の金曜日の夜から女バスの合宿始まります。土曜日の夜、空けておいてくださいね」

「…」


「先輩との勝負、楽しみにしてますから」


晶とは対照に涼しい顔で去る真琴。


その後ろ姿に晶はいつまでも動けずにいるままだった。


〜…


3.


「ただいま、戻りました」

日も沈み随分時間が経って晶は丈留の元へ帰ってくる。


「おう、えらく遅かったな…どうした?」

出て行った時とは明らかに違う表情に丈留はすぐ気付いた。


「いえ。ただ話しが長引いて…あれ中山さんは」

「中山ならもう帰った」

「そうですか。ごめんなさい」

「なんで謝る。別に奴は特に用があった訳じゃないしただ寄っただけなんだから」

「あ、はい、そうですか」


「…」

「…」


「お前、なんか変だぞ」

「え?変って、変じゃないですよ」

「体調でも悪いのか?顔色もなんか良くないし」

「え?あっ、そ、そうかも。外寒かったし」

「だったら今日はもう帰れ。お互い体が資本だからな」


「は、はい。じゃ私、今日はこれで」


晶はその言葉にホッとした。


「おう」

「ではまた」


そそくさと帰ろうとする晶に丈留は今一度声を掛けた。


「…晶」

「はい」

「何があった」

「え」

「電話。何かあったのか?もし俺で良ければ…」

「なんでもないです。後輩です、合宿来ないかってしつこく誘われただけです」

「…そうか」

「はい。では」

「おう」


「…」


扉を挟み丈留と晶、しばらくお互いに考え込む。


丈留は少なくても晶に何かがあったのは間違いないと、そしてあいつは正直で正面から向き合うのは得意だが嘘をつくのは下手過ぎると思った。


いつの間に晶のノートを熟読するのが知らずの趣味になっていた丈留。

彼女の文字を見ながら、晶の身に何もなければ良いのだがとため息をつく。

置き去りになった人形に服を着せると、とにかく自分が出来る事を教えなくてはと人形をくるくると回し始めるのだった。



次回

『決意』

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