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止められない悪意



ひかるは晶を尾行し続けた。本格的な事ではなく、あくまで注意してるといったとこか。彼女自身女子バスケ部のマネージャーも務めているので放課後全て監視とまでには至らない。

ただバスケ部は選手がメインでマネージャーはサブの立場上、部活を途中で抜け出すくらい彼女にとっては難しい事ではない。


既に郷内に晶のスキャンダル写真をばら撒いた事がバレていたひかるにとっては、もう郷内の言う通り監視し続けなくてはならなかった。

勿論郷内に褒めて貰いたい、使えないと思われたくないのもあった。


ここ何日かでひかるは晶の不審な動きを確認していた。

とにかく携帯片手にずっと動画を観ては何やらノートにメモを取っていて、始めは晶のアイドル好きから新しいグループを発掘したのか程度だった。それがフィギュアスケートと知ると随分理解に苦しんだ。

おそらくオリンピックブームに乗っかりイケメンスケーターに惚れ込んでるとばかり考えていた。


ただ晶はそれに乗じて放課後帰宅前に何処かに寄る事も多くなっていた。

晶が学校から直接帰宅する時は必ずと言って良い程タクシー、晶の父が運転する個人タクシーで帰っている。

それがフィギュアの動画を釘付け状態になってからは父親を呼ぶ素振りはない。

そしてその行き先が晶が以前から通っていた総合病院であることも判明した。


もしかするとまた体調を大きく崩したのだろうか、と頭によぎる。しかしそれは無いものだろうと踏んでいた。


何故なら5月に復学してからというもの、晶の様子はとても溌剌として日を追うごとに顔色も良くなっているのが、遠くからのひかるでもはっきり分かる程だったからだ。


ひかるは晶が本当に苦しんでいた時の姿を知っている。当時の晶は遅刻や早退、欠席が続いても珍しく無く表情も暗くそれは傍から見ても芳しくないのは明らかだった。


ひかるにとって晶は嫌いな存在だ。

本来なら3月で卒業して消える筈だった人間が残った訳だから余計である。


そんなイライラが形になってしまったのがゴールデンウィークの加藤とのお車デートのつぶやきだった。


偶然にも現場を目撃してしまった彼女の行動は無意識にスマートフォンを晶に合わせてしまっていた。そしてちょっとからかうつもりでSNSにツイートしてしまう。

後悔した頃にはもう歯止めは効かなかった。


同時に郷内が晶に目を付けている事も知っていた。

郷内の女癖の悪さはひかるも重々承知である、ひかると付き合っていながらも同じ部内で真琴に度々ちょっかいを出したり他校の生徒にもナンパしている所を目撃したりもあった。


ただ、郷内が晶に対する目の付け方は何か異質めいたものがあり、ひかるはそこはかとなく恐怖を感じていた。

ただのナンパとは違う言葉では表せない異質めいたもの。


勿論晶自身は郷内には全く振り向きはしてないが、男女の間には何が起きるか分からない。

だからこそ晶を追い出したい気持ちがあって、次のスクープ、そして病院にまで狙いに来てしまっていた。


ひかるにはなんとなくだが病院には何かがあると目星を踏んでいた。


バスケサイボーグの晶がバスケ以外のスポーツでメモを取る程夢中になる。単にアイドルスケーターの青田買いとは思えない。そして調子の良くなった晶がこうも頻繁に病院に寄る理由も理解出来ない。

そして前日には凜里花や美魚らしき姿も病院で目撃した事から、怪しい匂いだけは嗅ぎ取っていた。

本当は病棟の中で待ち伏せしたかったがそこまで侵入する勇気は無く、ひかるはひたすら外の敷地で待ち続けた。幸いに敷地は憩いのスペースが点々とあった為ベンチなので休む事で不審者には見られなかった。



夕方の防災無線から数分、晶が出てくる。

「…」

ひかるには動揺は無い。放課後学校から病院に来て晶は大抵この時間にそのまま家に帰るからだ。

だからため息が出る。


ー 結局今日何も掴めず終い、か。


と、思った時だった。


晶は一人ではなかった。

側にもう一人、しかもひかるの全く知らない男を寄り添う様な感じで出て来た。


ー え⁉︎ 誰あれ?


若い男性、とはいえ高校生以下には見えない。大学生か社会人、見ようによっては30代にも見える松葉杖の男。格好から間違いなく入院患者だ。

そして晶が頻繁に病院に行ったのはこの男に会いに来ていたのも、これで明らかになった。


気付かれない距離であったがひかるは辺りを見回してそっとスマホをカメラに切り替え二人を撮影し始める。


撮りながらもひかるはこの男が誰なのか、ずっと考えていた。


晶の恋人……ではないだろう。というよりそれはありえない。

そもそも彼女のタイプとは真逆にも程がある。ジヤニース系アイドルの様なルックスにスラっと伸びた背丈でもちゃんと筋肉があり王子様の様な存在の男性が好きな贅沢な晶が、アスリートっぽくはあるが、柔道系のゴツく褐色肌の低重心、無精髭のボサついた伸びた髪…


んん?ひょっとしてあれがフィギュアスケーター?

ありえないだろ、格闘家にしか見えんわ!


心の中でひかるは突っ込む。


「…」

ただ何か引っ掛かったひかるは検索をかけてみた。


“ゴツいスケーター”

“格好悪いスケーター”


いずれもセカンドワードは “怪我” を付け加える。すると…


『禰宜丈留《ねぎたける》』

と、出てきた。

そして本人画像は間違いなく今、目に写る男性だった。

プロフィールを確認する。

現在は大学三年生で一年生の時に全日本選手権で6位入賞。去年は本戦を棄権、シーズンに全治3ヶ月の大怪我を負ったが強行出場をして直前練習での転倒で試合を断念。

今年の復帰は未定。


「…」

それを読んでひかるには一気に謎が解けた。

晶と似た境遇のアスリート…それをどういう繋がりかは分からないが、晶が彼を支えてるこの状況…


同時にゴールデンウィークの加藤とのデートも思い出す。

正直加藤の見た目は、晶の好みのタイプから掛け離れている。丸みを帯びながらもゴツゴツとした筋肉でバスケより柔道が似合う出で立ちに禰宜が重なった。


つまり、これは使える!と瞬時に悟った。


ひかるはスマホのレンズを晶と丈留に合わせる。今度はちゃんと集中して最高のシャッターチャンスを逃がすまいと気分はパパラッチの様な感覚だった。


ー 今だ!


丈留が若干バランスを崩し晶が慌てて身体が密着した、この瞬間!


「へぇ。犯人はあんただったんだ、ひかる」


「‼︎‼︎‼︎」

後ろから掛かる声があまりに突然で背中に電気が走ったひかるは固まった。

そして声の主はひかるの両手からスマホをすっと抜き取る。

ビクビクしながらそっと振り返る。


「わんこ…!」


「…」

「あ、あの、わんこ。これはえっとその」


声の主が真琴と知ったひかるは震えが止まらなくなった。


晶を神とまで崇める真琴。

前回の写真ばら撒きの時の真琴の激怒を知ってるだけにひかるの中の恐怖はとどまる事を知らなかった。


ただ彼女はひかるを責める事をせず、シーっと人差し指で唇に当て、騒ぐなと言わんばかりの表情。

「⁉︎」

「…」

隣りに座る。


取り上げた携帯をそのままひかるに差し渡した。


「…」

何を言われるのだろうか。

ひかるはまともに真琴を見れない。

真琴はそんなひかるを心の中で笑う。


「次に上げる記事は?新しい恋人は同じ境遇の傷付いたスケーターってとこ?」

「…え」

真琴の口から出た意外な言葉。


「ミハル先輩がそんなに嫌いなんだ」

「べ別にわんこに関係…」


言葉を詰まらせながらもつっぱるひかるだが

…


「…」

ポツリとこぼれる。


「嫌いよ」

「…」

「言っとくけど止めても無駄だからね。私はこの写真アップした訳じゃないし、今までのアカウントももう消してるし」

「誰も止めるなんて言ってないじゃない。それなのに別アカ消したとか聞いて無い事答えて」

「!」

「先輩をスキャンダルで追い出したいのは分かるけど…これ以上嫌がらせするとそろそろ学校も動くよ?最初のはともかくここら辺は完全な誹謗中傷だし」

「…」

「一応言っとくけど…もうインハイ始まるんだからつまらない事で変な騒ぎ起こさないでね」

「わんこ…怒らないの?」


「別に」

「…」


「ま、とりあえず理由だけは聞かせてよ。私一応風紀委員だし、非公開聴取って事で無かった事にしてあげる」


絶対に今までの真琴ならこんな態度は取らない。敬愛する先輩を傷付けた自分に怒るどころか、むしろ我関せずとしたあっけらかんとした表情。

ただ、ひかるにはこれ以上ない好都合でここは素直に従うべきと判断した。


「…目障りなのよ、あの人が」

「…」

「バスケ出来て勉強出来てルックスも良くて、年上だけど病弱で、絵に描いた悲劇のヒロインじゃない」

「ひかるだって勉強出来て可愛いじゃない」

「そうよ。だからムカつくの…あんたもね」


ひかるは目一杯の嫌味を真琴にぶつける。しかし真琴は平然としている。


「へぇ。郷内君が私にちょっかい出してるから?」


「!」


「ひかる、郷内君と付き合ってんでしょ」

「なんで知ってるの」


(本当は遊ばれてるの間違いだろうけど)

心の内でせせり笑う真琴。だが顔はせせら笑いを微笑みに変えていた。


「だって郷内君が私に絡む時に遠くからいつも嫌ぁな視線浴びてるし。ひかるの態度モロバレ。仮に付き合ってなくても一発でああ彼が好きなんだなって分かるよ」

「そんなに?」

「分かる分かる!それに普段から郷内君との距離も近いし、みんな口に出してないだけで知ってるよ」

「…」

「ただ二人は付き合ってても郷内君の目移りはしょっちゅうだから心配なんでしょ?それがミハル先輩ならなおさら」

「…うん」

「ちなみに私が好きな人は和久井君だから安心して。郷内君には興味無いわ」

「え、わんこ、もしかして付き合ってるの?」

「まさか。ただの片思い」

「なんで、わざわざ私に教えて」

「これでフェアでしょ」

「…わんこ」

「だいたいミハル先輩と郷内君がどうかなるなんてまずあり得ないと思うけど。ミハル先輩が好きなのは加藤先生なんだから」

「え!」

「言っとくけど私はずっとミハル先輩を見てきたんだから、ミハル先輩の事なら何でもお見通し」

「そう言われると納得する。じゃ、あの人は何なの」

「知らない。私も初めて見たし、でも仮に付き合っていても本人が認めれば何の問題も無い。それより写真撮るならもっと加藤先生との近距離撮らないと。学校にとったらこっちの方が問題なんだから。いくら恋愛は自由でも教師と生徒の恋は許されないでしょ」

「…」

「それよりも。ねぇ、悪い様にはしないからその写真私に譲ってくれないかな」

「え」

「私がそれを持っていてもひかるが撮った証拠には無いし、私に渡した後データ消せば何かあった時に疑いの目は私に向けられる」

「…」


「いいよね」

「…」

何を企んでるのか知る由も無いが、真琴の眩しいくらい笑みは既にNOを言える状況では無かった。


ひかるが携帯から送信しようした時。


「…わんこ?」


⁉︎


背中から二人に掛かる声。そしてハッと二人は振り返る。

そこには晶が居た。


「やっぱりわんこだ。あれ、雨宮も。どうした?二人して」


すっかり忘れている晶の気配。


ひかるの目の前に晶の顔が迫ると口から心臓が飛び出してしまいそうになる。


「みみみ三原先輩、お疲れ様です。せせ先輩こそどうして」

「私?色々。で、二人は?」

「え、えーっと…」

ごもるひかるに見兼ねた真琴はすかさず口を挟んだ。


「ちょっと肩を痛めてひかるに付き添ってもらったんです。ね?」

「あ、そ、そうです」

「え?大丈夫なの!」

怪我と聞いた晶は敏感に反応し、真琴の肩をペタペタ触り出す。

「問題無いです。もうすぐインハイなんであくまで念の為で、さっき診察して貰いましたが実際大した事無かったです」

「そう。なら良かった。無理だけはダメだからね」

「はい。それより先輩、人を待たせてるんじゃ…」

真琴は向かいのベンチで腰を下ろす丈留に目を配る。

「お?よく分かったな」

「実はさっきお二人が一緒だったのを見たから。ひょっとしたらお二人は付き合ってるのかなぁなんて、ひかると話してたんですよ」

「!」

ビクゥと背中がそそり立つひかる。

「ただの知り合いだよ。検査の結果聞き来たついでにあの人のお見舞いもね」

晶はサラッと流した。


「なぁんだ、もうドキドキしちゃったじゃないですか」


(ドキドキしてるのはこっちだ!)

ひかるは二人の会話に圧迫されそうになっていた。


「私に構う暇あるなら自分の心配しなさい」

「はーい」

「じゃ、私もう行くね。また明日」

「はい、お疲れ様です」

「まだ部の時間でしょ?ちゃんと先生に報告するんだよ」

「はーい」


二人はこれ以上怪しまれない様に晶と丈留の行く末を尾行する事なく病院を後にする。


「脈なし、か。やっぱり本命は加藤先生で間違いないかな」


歩きながら、ハァーとため息の真琴。

それに対しひかるは目を釣り上げる。

「わんこっ」

「?」

「もう!びっくりさせないでよ。心臓止まるくらいヒヤヒヤしたんだから」


(だったら始めからストーカーなんてするなよ、ビビりが)

胸を押さえ深く息を整えるひかるを見ると、改めて冷めた目で真琴は心で呟いた。


「あの場合変に知らないふりしたら余計怪しまれるでしょ?ひかるも挙動不審だし」

「わんこが凄過ぎなんだよ、ってゆうかよく学校抜け出して来れたね。大丈夫だったの?」

(お前が言うなよ)

「怪我したふり。この時期ならちょっとした痛みで病院駆け込むのは決して大げさじゃない。だから学校帰ったら話し合わせてよ?」

「う、うん」


淡々とひかるに答える真琴。

ひかるにとって真琴は自分の味方かどうかはわからない。

ただ敵では無い。

それだけでもプラスに考えるしかない、真琴も上手く利用する方法を必死に頭の中で考えていた。


〜…


2.


晶を見届けた真琴とひかるは学校に戻った。肩を痛めたと言った手前、真琴は練習は参加せず見学をして残り時間を過ごした。


帰り道、真琴は珠代と二人で駅へ向かう。

インターハイ前だけに珠代は随分真琴を心配した。


「で、ホントに大丈夫なの?」

「大丈夫だって」

「ホントにホント?わんこはそういうの隠すとこあるし」


珠代は本気で心配していた。

去年の今頃も真琴は負傷していて、それがインターハイにも影響していた。


「問題ないからこそ自分から病院行ってお医者さんに診てもらったんだから。一応三日安静で痛みなければ問題無し。治療たってテーピングで肩止めるだけだし突き指と同じ」

それを聞いて胸を撫で下ろしす珠代。

「良かったぁ。絶対無理しないでよ?三日間あたしが張り付いて練習させないようにするから」

「しないってば。インハイ前の骨休みと思ってのんびりするよ、ってゆうか私こそナベをしっかり見張るからね?覚悟するんだよ、ふふふ」

「ひっ!鬼コーチっすか」

「なぁんてね」

「お、おう、ブルッときた」

「まぁ休みでもやる事は変わらないよ。プレイするかしないかの違いだから。合宿のスケジュールも立てないといけないし」

「うん」


「ただ…」

真琴は立ち止まる。


「?」

立ち止まった真琴を追い越した珠代は後ろを振り返る。


「…」

「…わんこ?」

「…」

「…」


「せっかくの骨休みだしちょっとだけ恋でも頑張ってみようかな…」

「わんこ…」


「ねぇ、ナベ。前に言った事覚えてる?」


「え?えーっと」

珠代の胸に動揺が走った。


「私の好きな人が和久井君だって事」

「お、おうおう、勿論」

「和久井君って、まだミハル先輩が好きなのかな」

「え、どうだろ。いやでも晶ちゃんは一度告白断ってるし。和久井君もそこは吹っ切れたんじゃ…」

「じゃ私にもまだチャンスある、のかな」

「そ、そりゃそうだよ」


「ナベは応援してくれるんだよね」


「うん。わんこは私の親友だもん」


その返事に真琴は満面の笑みを浮かべ、珠代に近づくとポンと肩を叩いた。


「良かった!で、どうやって応援してくれるの?」


「え」

「だから、私はどうすればいいの?」

「…」

「ねぇ」

真琴は笑みを崩さず珠代に問う。

珠代には真琴が全く笑っていないのを既に感じとっていた。


言葉が詰まる。

「えっと、それは…」

どうにかこの場を流そうとした時、真琴はすかさず被せてきた。


「例えば、二人っきりで夜の公園で秘密特訓とか?」


「え?」


「ミハル先輩のレッグスルーを身に付けてその動画でミハル先輩にアドバイス貰うとか?」

「わんこ…なんで」

「私を応援すると言いつつも実は和久井君の応援の手伝いしちゃうとか」

「…」

「私と和久井君より、ミハル先輩と和久井君を応援したいとか」

「…」

「やだ、なにその顔。面白い顔しないでよ…笑いたいの私なんだから」


「わんこ…」


「で、私はどうすればいいの?」


「…ごめん」

「謝らなくていいわよ、私はナベの考え聞きたいの。考えてあるんでしょ、和久井君とミハル先輩の恋を応援した後で私を応援する方法」


「ごめん」

「…」


「ごめん。何も考えてなかった」


「よく分からないんだけど」


「わんこが和久井君を好きだとは思ってなかったから」

「だから言ったでしょ。ナベも引き受けてくれたじゃない」


「断れなかった。ごめん」

「…」


「先に和久井君を応援してたから…私も好きな人が居たから。わんこが和久井君が好きなのはあの時までホントに知らなくて、だからとても動揺して軽はずみなOKしちゃったの。ホントにごめん」


「へぇ」

「…」


「で、もし和久井君とミハル先輩が付き合ったら私に何て言うつもりだったの?」

「それは」

「ナベ、随分楽しそうだったもんね。和久井君と話してる時」

「…あたし、今から考えるよ。わんこはやっぱりあたしの親友だから」


「ありがとう、ナベ。でももういいわよ。私、和久井君に告白してふられたから」


「え」


「ありがとう。ナベのその気持ちが嬉しい」

「わんこ」

「お礼にナベの恋も応援してあげたいな」

「あ、いやいや、あたしのは別に」


「郷内君でしょ。隠さなくていいよ」


「!」


「郷内君、ひかると付き合ってるんだって」

「…え」

「なんか部活サボってナベと遊んでた時に郷内君に助けてもらったんだよね?で、それきっかけで付き合ったみたいだよ」


「…!」


「ナベはその時から好きだったんだよね?でもひかると郷内君は翌日から付き合い始めたらしいよ」

「…」

「ただ郷内君はオススメしない。なんか一年生の可愛い子にも手を出してるみたいだし、ミハル先輩にも気がある素振りしてるし…ま、ひかる自身も完全に遊ばれてるけど」


「…」

「…」


「……知ってた」

「え」


「知ってた。郷ちゃんがひかると付き合ってる事。あたしにも興味ない事」


「え」


「二人が話してるの立ち聞きしちゃったから。あたしの事笑ってたのも聞いちゃったから」

「…」

「でも、好きだった。あの時助けてくれた郷ちゃんはホントにカッコよかった。勿論ひかるが目当てだったと思うけど、でもやっぱ助けてくれたのは事実だし」


「ナベ…」

真琴の口から「ナベ、ごめん、傷付けるつもりじゃなくて」と出る直前唇をギュっと閉じる。


そして

「良かったじゃん、遊ばれる前に郷内君の正体分かって。私に比べたら全然マシだよ」

思ってもない言葉が滑り落ちる。


「わんこ」

「私、今日予備校だからここでバイバイ」

「わんこ、あの…」

「じゃあね」

真琴は走り出す。


「わんこ!あたし、考えるから!わんこの恋のぉ…」


珠代の呼び声が小さくなる。

珠代の声が小さくなるのと反比例しその憎しみが増幅もする。


ふざけるな。

どうやって私を応援するんだよ。もうフラれたのに、また告白するのかよ、そしてまたフラれろと?そうやってバカにして!

許せない、ナベの奴。


ふざけんな!


怒りが頂点に達した時走り出した足を強引に止める。


…

…


立ち止まった真琴は怒りの源が珠代では無い事に気付いた。

怒っていたのは自分自身にだった。


…私の馬鹿野郎!


なんで私はナベを傷付けてしまったのだろう、私の方がナベを困らせて困ってるナベをあざ笑って…私、なんでこんな嫌な奴に…


ナベに謝りたい。

今すぐ引き返して、今なら間に合う。

すぐに引き返さないと!


しかし体は振り向かない。

珠代に謝りたいと思えば思うほど足はどんどん遠ざかって行く。

遠ざかれば遠ざかる程また自分の中のイライラしたものが珠代であり、晶にも注がれていってしまう。


もう止められない…


頭の中でそんなワードだけが強く塗りたくっていった。




次回

『挑戦状』(仮

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