8話 それぞれの休日
目が覚めると既に日は高く昇っていた。時間を気にせずのんびりするのは
異世界に来てはじめてかもしれない。
黄昏の鳥はイスカの治療も兼ねてしばらくパーティとしての活動はないそうだ。
生活するうえで必要なものを買いそろえておきたい。マリアさんにお店を聞きに行ってみようか?
いや、やめておこう。ギルドの仕事以外のことを頼むのは気か引ける。
考えながら宿の階段を降りていると宿屋のおばさんに話しかけられた。
「お、お目覚めかい?もうすぐお昼だけど食べてくかい?」
「いえ、大丈夫です。あ、生活必需品を揃えたいんですけどおすすめのお店とかってあります?」
「それなら市場から少し外れたところに雑貨屋があるよ。袋の絵の看板がぶら下がってるから
すぐわかるさ」
文字が読めない秋のような冒険者が多いランパートでは確かに看板は字よりも絵が多い気がする。
「行ってみます、ありがとうございます」
「冒険者なのに礼儀正しいねぇ、そんなんじゃカモにされちまうよ。」
冒険者は悪事を働けば格が遠のくと言われているらしく、表立って力を振りかざすようなことは少ないらしい。迷信かわからないが悪事を働くと、悪人面になってくとか、冒険の導きを授かったものが、普通の人に手を上げたらクラスがならず者になったとかそういううわさ話が数多くあるらしい。
そういうこともあってランパートでは冒険者よりも商人に気をつけろと言われてる。
「はい、それじゃ行ってきます」
宿屋をでて、市場のほうへ向かうにつれて人が多くなった。
こうして改めてみると明らかに違う種族もいる。獣人やドワーフ、2mを超える部族のような大男に
人間観察してるだけで暇をつぶせそうだ。獣人を見てたら無性に飼っていた猫に会いたくなった。
そうこうしてるうちに雑貨屋を見つけた。
中に入ると、さまざまな道具に目を奪われた。
「げ、高いな」
低級ポーションの値札をみて、思わず口に出して店員に睨まれた。
低級ポーション、大銀貨1枚。一万円くらいだ。切り傷や擦り傷が治るくらいの効果だ。命にかかわるようなけがは治せない。ゴブリンの巣穴を攻略したときの報酬、魔石や戦利品を売ったお金の秋の分け前は
大銀貨30枚ほどだった。貰った時は浮かれたが、生きていくとなると心もとない。
火の魔石を使ったランタンやコンロなんかもある。一般人が常用できるものでもないらしく在庫はあまり置いてないらしい。くず魔石を粉々にしてつまようじのような木に貼り付けたマッチのようなもののほうが売れ筋らしい。
「アキくん?」
商品とにらめっこしていると後ろから声がした。
栗色の髪に緑の瞳、マリアさんだ。
「お、アキじゃん?買い物か?」
アメリさんと一緒に来ていたらしい。仲がいいとは思っていたがプライベートでも交流があるらしい。
「マリアさんとアメリさん、おはようございます、買い物ですか?」
「ええ、アキ君も?」
「はい、必要なものを揃えたくて」
「探し物?日用品ならこっちで、冒険に必要なものだったらこっち。さ、いくよ!!」
「え、ちょっ」
いきなりのことにアメリさんをみるとあきらめろ、という目をしていた。
それからマリアさんに連れられてほしかったものを揃えることができた。
「そういや聞いたぞ、ゴブリンの巣穴に入ったんだって?」
「はい、成り行きで...ついていくので精一杯でした」
「あたしに弓を習ってその翌日にゴブリンの巣穴に入るなんてマリアじゃなくても怒るぞ?」
ほんとにそう思う。異世界にきてからずっと生き急いでいる。
命を懸けることで元の世界で死んだような生きていた過去の自分を拭うようにあがいているのが
自分でもわかる。
「マリアにあんま心配かけるなよ。あいつがお前のことを弟のように扱ってるの気づいてるだろ?
最初は不安だったんだ、弟の死を受け入れられずにお前に入れ込んでるんじゃないかって...
でも今日のマリアをみてわかったよ。マリアは逃げてるわけじゃなくて受け入れるタイミングを探してたんだって。強いやつだよ、あたしなんかよりずっとな」
マリアは服に夢中になっている。遠目に見ても楽しそうだ。
アメリが言うならそうなんだろう。秋の悩みは杞憂だったようだ。
マリアに向き合えてないのはむしろアキのほうだ。善意や思いやりや期待に応えられる自信がないのだ
「俺なんかがマリアさんに何ができるかわからないけど、少しずつ恩返ししたいと思います。
もちろんアメリさんにも」
「ちょっとぉ、次はアキ君が私の買い物に付き合う番だからね!アメリもはやく!」
いつまでも異世界人気分でいてはいけないと思った。ちゃんとこの世界で生きてる人たちに応えて
向き合ってこの世界で生きていかなければならないと二人を見て強く思った。
マリアさんのショッピングに付き合った後、三人はアメリさん用事で武器屋に来ていた。
いつか来たいと思ってたが、男のロマンあふれる空間にワクワクしてしまう。
秋は空間収納があるからか、変にコレクター癖に芽生えつつある気がする。
ゴブリンの持っていた武器さえなんとなく拾い集めてしまっていた。
「アキ君もそんな男の子みたいな顔するんだねぇ」
「今は買えないとわかっていても見てるだけで楽しくなっちゃいますね」
「あたしの服見てるときは暇そうにしてたのにさ、、」
マリアはわかりやすく拗ねた顔をする。
「男はそういう生き物だと思ってあきらめな」
「ロイドもそうだったもんなぁお姉ちゃんかなしい」
はじめてマリアの口から弟の名前を聞くことができた。
「アキは欲しい武器とかあるのか?」
アメリが注文していた矢と短剣を研ぎに出していたらしい。
「空間収納があるので正直何でも欲しいですね。アメリさんは矢が効かない敵に遭遇したらどうしますか?」
秋はないものねだりかもしれないが火力の低さを気にしていた。
「わたしは獣使いとして育てられたからね、獣の援護をするのが最善だと思ってる。
アキもパーティの援護に専念すればいいと思うってのが本音だけど悩んでるならジンに聞いてみるといい、アイツお前のこと気に入ってるみたいだから」
確かに狩人としては火力よりも援護に力を入れるのが正解なのだろう。
アメリとジンは交流があるのも意外だ。
「ロイドは矢を風魔法で強化してたよねぇ」
「あの子は弓よりもそういうところが器用な子だったわね」
「そうだ、アキ君。黄昏の鳥の上位種の報告なんだけどね、ゴブリンの大規模な集落があってそこからながれてきたんじゃないかって問題になってるの。それで今調査が行われてるんだけどもしかしたら近いうちに討伐隊が組まれるかもしれないからそうなったら黄昏の鳥も駆り出されるかも」
マリアさんは複雑そうな顔をしている。あの巣穴よりも規模がでかいとなるとそれまでに準備を万全にしておきたい。
「そうなればアタシもジンもでるだろうからよろしくね」
「心強いですね楽しみです」
そうして初めての休日は終わった。
――――――
ギルドを訪れ、ステータスシートを更新すると
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野上 秋 クラス:狩人
スキル:危険察知 並列思考 バックステップ
魔法属性:空間
称号:なし
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クラスは狩人でになり、スキルにバックステップが追加されていた。
それからは、アメリとジンの訓練を受ける毎日だった。
狩人のクラスになってから弓を射るのが容易になった気がする。
アメリに指導を受けて矢を3本連続で射れるようになり、複数の敵にも対処できるようになった。
ジンにはバックステップを使いながらの戦闘と逆に前に出るフォワードステップを教えてもらった。
二人の訓練はスパルタだが、完璧な見本であり、空間知覚で姿勢を模倣することによって
大きく練習効率を短縮できた実感がある。
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野上 秋 クラス:狩人
スキル:危険察知 並列思考 ブリンク 速射
魔法属性:空間
称号:なし
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速射を獲得し、
フォワードステップ+バックステップでブリンクに変化した。
―――ささやきの森の深部にて
強くなったのは秋だけじゃなく黄昏の鳥のメンバーもだった。
まずはイスカだ。自分よりでかいフォレストボアを押し返している。
スキル〈跳躍〉と〈起死回生〉を得たらしくクラスも剣士になったことで
高く飛び上がり、一撃でフォレストボアの首を切り落とした。
セッカはスキル〈フェザーステップ〉と〈カウンター〉を獲得しクラスは拳闘士になっていた。
ビッグラッドに囲まれてもフェザーステップでひらりひらりと躱し、カウンターで一蹴した。
もともと強かったが避ける術を身につけたことによりどんどん洗練されていっている。
パッチは盗賊になり、〈バックスタブ〉と〈サイレント〉を獲得していた。
さらに音魔法で撹乱し、気が付いたころにはバックスタブやクロスボウで敵を倒していた。
ベリザは魔法使いのクラスになり、スキル《魔力上昇》《魔力操作》を獲得したことにより、火の壁で退路を塞ぎ、火の矢で小さな敵や狭い場所でも対処できるようになっていた。
そうして今回のターゲットのビッグトレントのところにたどり着いた。
ビッグトレントは森の魔物を従えてるらしく、近づくには魔物が邪魔で近づけばツルで巻き取られてしまう。思った以上に厄介だ。
「アキはフォレストバードを、イスカとセッカは立ち塞がってる魔物を減らすぞ、ベリザはあのツルを焼き払えるように待機だ」
パッチは指示に回ることが多くなった。本当にいいパーティになったと思う。
その時秋の心臓がドクンと跳ねた。覚えのある感覚。空間知覚はパーティを囲んでいるフォレストウルフを捉えた。
「フォレストウルフに囲まれてる、どうするパッチ」
アキはそうパッチにたずねる。
「みんな、一度退いて立て直そう」
パッチの指示でイスカは退路を開いた。
秋も弓で牽制しながら下がろうとする。
が、
退こうとする足が動かない。狼へのトラウマで足がすくんだのかと思ったが違う。
前には進める。
退くという行為だけが縛られている。秋はそのとき確信した。【狼の災い】は狼から逃げるという行為を許さないのだ。
「アキ!いつまで突っ立ってるんだよ!」
イスカが叫んだ。
狼がイスカ達を無視してアキの方へ向かう。
「アキ!!」
セッカが秋を助けに走り出す。
「姉さん、受け取って!」
ベリザが放った魔法がセッカの拳に集まり羽のような形で纏った
「アキ伏せて!」
セッカに言われるがままに伏せるとセッカは炎で狼を薙ぎ払った。
巣穴の一件以来、姉妹で練習していたらしい。
狼が一掃され、秋の体は狼の災いから解放された。
「助かった!ありがとうセッカ」
「お礼はあとでしっかりしてもらうね!それよりこのままビッグトレントまで突っ切るよ!いける?」
「ああ、ついてこれそうか?」
秋は短剣を抜き、前方にブリンクする。
「当然!アキが来てから本当に退屈しないや!」
そうして秋とセッカは魔物の群れをかきわけ、ビッグトレントに迫る。
ベリザの火の玉が見えた。まっすぐビッグトレントにぶつかってツルが焼け落ちた。
それを追うように二つの影が交差しビッグトレントを切り裂いた。
秋とセッカはグータッチをかわし、その場に倒れこんだ。
「は~、楽しかったね!」
秋もつられて笑った
「大丈夫か?二人とも」
パッチが呆れたように二人を見下ろした。
「一体何があったんだよアキ」
イスカがたずねた。
「【狼の災い】ってやつのせいで狼から退くことが許されないらしい。今まで狼と遭遇しなかったからどんな効果なのか知らなかったんだ....みんなを危険にさらしてごめん」
「まあなにはともあれビッグトレント討伐成功だな!!」
黄昏の鳥はこうして2度目の依頼を達成した。




