9話 やさしさでうごけない
秋が不安なのは異世界さえいつか飽きてしまうのではないかという恐怖だった。
その恐怖をこれから生きていけるのかという恐怖が塗りつぶしていた。
もし、死角から矢が飛んできたら
寝てる間に首をかき切られたら
食事に毒を盛られたら
仲間に背中から刺されたら
逆に大事な仲間が人質にとられたら
そう考えるたびに木刀を振っていた。疲れるまで
インターネットも娯楽もない世界で
元の世界の自分がみたらどう思うだろう。
というか異世界もので見ていた主人公たちも見えないところではこんな苦悩を
抱えていたのだろうか?
「おーい、アキ!!!」
いつの間にか寝てしまっていた。外から声がする。
空間魔法を拡げると、黄昏の鳥が秋の借りてる宿まできていた。
遅刻したか?と思ったが今日は休みだったはずだ。
「あそぼぉーぜ!!!」
遊びでした。ときどき、いや結構頻繁にパーティメンバーがまぶしく思える。
若さが羨ましい。
宿の階段を降りると、おかみさんがにやにやしている。
「随分とかわいらしいお誘いじゃないか」
「騒がしくしてすいません...」
「楽しんできな、いってらっしゃい」
「はい!」
宿を見ると4人の笑顔がまぶしい。普通に日の光も。
「おはよう。みんな。急に来るからびっくりしたよ」
「すみません、イスカが急に...」
まあそんなことだろうとは思った。パッチも大変そうだ。
「ほら、ゴブリンの砦の討伐隊に私たちも選ばれたでしょ?それでパーティの装備とか必要なもの
揃えに行くことになったんだけどアキもどうかなって」
たしかにささやきの森を攻略できたし、装備を更新するタイミングとしてはぴったりだろう。
「なるほど、一緒に行くよ」
「よっし!まずは武器屋だな!行くぞアキ!」
イスカはいつもに増して元気だ。ひとりでズンズン進んで行ってしまった。
「あの、アキさん」
「ん?」
声をかけてきたのはベリザだ。よくよく考えたらみんなの私服を見るのははじめてだ。
同郷だからかみんな三角を基調としたトライバル柄の凝った刺繍のあしらわれた服をしている。
「お、おはようござい、ます...」
出会った頃にもどったみたいな歯切れの悪さだ。仲良くなったと思っていたんだが
魔法の話意外だとこうだった気もする。
「おはよう、私服いいね、故郷の?」
「はい、ガルサ村の工芸品なんです」
「そうなんだ、いつか行ってみたいな」
きっといい村なんだろう。故郷を離れても明るく楽しそうな4人を見てるとそう思う。
「アキさーんおっはよー」
声の主はパン屋の娘のビスケだ。今日も元気に働いている。
秋の宿屋から市場へ向かう途中にあることもあり、秋の行きつけになっていた。
明るく挨拶してくれるビスケに手を振った。
そうしているうちに武器屋に着いた。
マリアやアメリときた店だ。
「セッカはグローブか?」
秋から見てもセッカのグローブはときどきベリザの火を纏うせいでぼろぼろだった。
「ガントレットにしようかな?どう思う?」
ガントレットのメリットは前腕まで守られていることだ。
「腕全体でガードできたほうがいいと思う。正直、拳闘士の戦いは見てて心配になるし」
「心配、してくれるんだぁ?」
セッカはニヤニヤとからかっている。
「そりゃそうだよ。火まで纏って心配通り越してひいてるから」
「ははっ、ベリザの火はなぜか私のこと燃やさないからやけどはしてないよ?ねね、ソルレットはどう?あったほうがいいかな?」
ソルレットはガントレットの脚バージョンだ。
「守れる部位が多いほどいいね、甲冑も着てほしいくらいだよ後衛として安心するから」
「やだよ!さっすがに動きづらいでしょ!!」
「でもガントレットとソルレット、まじでみててワクワクしてくるね、かっこいい」
男でワクワクしない人はいないだろう。
「ふふ、じゃこれにしちゃおっかなぁ」
出来るだけスリムなものを選んだらしい。セッカは納得したのかごきげんだ
「そのうち頭突きとかしそうだし兜もかったらどうだ?」
秋は笑いながらからかった。半分本音だが...
「ぜっ!たい!やだ!!!!」
さすがにか、、、少し残念だ。
「アキ!こっちとこっちどっちがいい?」
そう尋ねてきたのはイスカだ。今使ってる剣よりも大きい、というか明らかに両手用だ。
盾を使うイスカには不向きだ。
「どっちも少し大きいんじゃないか?片手で振れるやつのほうがイスカには合ってると思うぞ」
「ズバッとでかいやつ切れたほうがかっこいいだろ?」
「騎士になりたいんだろ?騎士ってのは誰かを守るもんだ、違うか?」
さすがパッチだ。イスカを説得するのが上手い。
「うーんでもさぁ」
「誰かを守れるってかっこいいよなぁ狩人として憧れるなぁ」
ちょっとわざとらしかったかもしれないと案じた秋だったが
「そうだよな!ちょっと盾見てみるわ!!」
そういって盾のコーナーに行ってしまった
パッチと顔を合わせて笑いあった。
「アキさんは、剣とか持たないんです、か?」
ベリザがそうたずねてきた。
「あーそれ私も気になってた!近距離戦闘もいけるんだから一本くらいあってもいいんじゃない?」
セッカも気になっていたらしい。
「ほしいはほしいんだけど、ジンさんが言うには剣よりも刀が向いてるらしくて、ランパートに刀はないみたいだし保留かなって。槍でも習ってみようかな」
「かたな?なんだそりゃ」
イスカは知らないらしい。たしかに武器に命を預ける冒険者として丈夫とはいえない刀は剣よりも
需要がないのかもしれない。
「イロアスで剣よりも主流らしいよ。剣よりも刃が薄くて切れ味がすごいんだよ」
イスカは一番子供っぽいからついつい甥っ子と話してる気分になってしまう。
「さ、次は魔法のお店にいこうか?ベリザも杖を見てみよう」
アキは集団行動が苦手だっただけにパッチがこういうときも仕切ってくれるのが本当にありがたい。
魔法店には様々な杖がある。自分の属性の魔法を強化する杖もあるが、他の属性に変換しやすくする杖なんかもあるらしい。そろそろ、空間魔法以外も試してみてもいいかもしれない。
ベリザは本当に楽しそうに杖を選んでいた。結局、火属性の杖を選んだらしい。
杖は武器よりも高いのでパーティ資金からも出すことになった。
ベリザの魔法がさらに強くなればパーティの大きな力になるだろう。
パッチは小さな杖を手首に仕込むことにしたらしい。秋が提案した三半規管を狂わせて敵を無力化する魔法を試してみたいのだそうだ。
秋は何かと役に立ちそうな生活魔法の本を買った。
そのあとは露店で肉の串焼きを頬張ったり、男には羽根のネックレス、女には髪飾りをパーティで身に着けることにした。
なんか学生の放課後みたいだと思った。
別の日にはパーティみんなで剣術や槍術、格闘術などの稽古をした。
ジンといつも訓練してるだけに他のメンバーに後れをとることはなかった。
ジンは秋のために鞘付きの木刀を用意してくれ、居合術を教えてくれた。
アメリは教えることはない、といいながら弓での対人戦闘や遠射や槍も教えてくれた。
ジンは雷属性らしく、ときどき技を見せてくれた。剣と雷の組み合わせはかっこいいだけじゃなく、
本当に強かった。
アメリは水属性で、弓に使うことはないそうだが、ムチのようにしたり、水圧で体を吹っ飛ばされたりした。
正直自分も訓練を楽しむジンよりアメリのほうが戦闘では厳しく指導された。
マリアさんは食生活がだらしない秋を見かねてご飯に連れて行ってくれたりした
どんどんランパートに慣れて楽しいと思いつつ、すこしこわかった。
この日々がいつか終わってしまう気がする。
三日月を見ながらそんなことを思っていた。
そうこうしてるうちに討伐隊の遠征が始まった。
秋は一時的に黄昏の鳥を離れ、
先遣隊として、アメリさんとジンさんと組むことになった。
斥候としてアメリはわかるが、なぜジンもなんだろうと思ったが、二人は元パーティメンバーだったらしい。
黄昏の鳥のことが心配だが今のみんななら上手いことやっていけるだろう。
そして、はじめてアメリさんの相棒のブンタと会うことができた。
体はアメリさんを乗せて走れるほどでかいが顔はチーターのような顔をしていてすごくかわいい。
見た目もそうだが名前がかわいいですねと言ったら殴られた。
子供のころにつけた名前だから恥ずかしいらしかった。
アメリやジンのほうが黄昏の鳥より歳が近い。というかアメリにいたっては
同じくらいだからか、いつもより自然体だった気がする。
黄昏の鳥のときは自然体じゃないわけではないが、やはり見守るスタンスでいることが多かった。
夜になり野営では秋が食事を担当することになった。
フライパンにオリーブオイル、とうがらし、にんにくを炒め、具材にブロッコリー、ミニトマト、
ソーセージ、マッシュルームを入れた。いわゆるアヒージョだ。
それをパンに乗せて食べてもらうことにした。
「まさか遠征でこんなもんが食べれるなんてな、なんて料理なんだ?」
「アヒージョっていうんです。お口に合えばいいんですけど」
あまり料理をしない秋でも作れそうだったのと単純に好きだからという理由で作ったのだが
誰かに食べてもらうとなると緊張した。
「「「いただきます」」」
そういって二人はアヒージョをパンにのせて口に運んだ。
「うめえじゃねえか!酒が飲みたくなるな」
「ほんとにおいしいよ、空間魔法もそうだけどアキは便利だねえ」
二人とも満足してくれたらしい。
「エールなら。これブンタも食べれますかね?」
エールをジンに渡しながらアメリに聞いた
「遠征中なんだから酒はほどほどにしなさいよ。ブンタはなんでも食べるから大丈夫。舌が肥えて困るくらいだよ」
ブンタは熱くて食べにくそうにしてるがおいしそうに食べてる。ほんとうにかわいい。
アメリさんに弟子入りして獣使いになりたいくらいだ。朝にでもソーセージを焼いてあげよう。
「でも不思議ですね、アメリさんとジンさんと依頼を受けてるなんて...」
「黄昏の鳥の勢いなら今回の討伐隊に組まれるのも納得だよ」
「そうはいっても俺はまだ数回しか依頼をこなしてないのに...」
「んーまあ俺たち二人が先遣隊に推薦したしな」
え
なるほど、さすがにおかしいと思ったがそういうことだったのか。
「まあそんな構えなくてもアタシ達もいるし問題ないよ」
「てか、お前出身はどこなんだ?」
しまった。アヒージョのせいで疑問をもたれてしまったのだろうか。
「マリアがイロアスあたりだろうっていってたけど...まあ詮索するもんじゃないよ酔っ払い」
困ってる秋を見かねてアメリが助け舟を出してくれた。
隠したいわけじゃないが秋がこっちの世界にきてからどういうわけだか異世界人の話を全く聞かない。
王都で大魔法を使うという噂は聞いたが、それが転移魔法なのかすでに使われたのか音沙汰がなかった。
秋が王都に転移できなかった理由も気になる。
お世話になった人たちが信じれないわけじゃないがわからないことだらけで打ち明けられずにいた。
「アキ、」
「別に話せないことがあったっていいんだ。そんな難しい顔しなくていい。見な、ジンだってもう寝ちまってるよ」
ジンは既にいびきをかきながら寝ていた。
アメリのやさしさがアキには苦しかった。
なんで自分に世話を焼いてくれるのかわからずにいた。
マリアもアメリもジンもパーティのみんなも
出会ったときからアキを信じて親切にしてくれている。
それがアキにはどうしようもなく苦しいときがあった。
結局異世界に来ても秋はどうしようもなく愛着障害だった。
いつか恩を返して、みんなに向き合いたいと願うと同時にこわくてたまらない。
誰にも告げずランパートから逃げてしまいたいと思ったことだってあった。
「すみません」
それしかいえなかった。目を合わせることもできなくなってしまった。
「困ったときは言いな。どんなことがあっても、とは言えないけどよっぽどなことがない限り
私はアキの味方だよ」
言葉のひとつひとつに気遣いがあるのがわかる。
普段のアメリだったら選ばない言葉を選んでくれてる。
情けなかった。何も返せずに周りに気を遣わせるだけの自分が。
動けなくなった秋の背中をトントンとさすった。
そのやさしさが
ずっと消えずに背中に残っていた。




