10話 嵐のあとで
すこし眠ってしまっていたらしい。
すでにアメリが朝食を作っていてくれた。
朝の静けさで耳がピンと張りつめていた。
「ごはん食べたら散歩でもしようか」
アメリさんが提案してくれた。
「いいですね」
ブンタがうれしそうにそわそわしていた。
アメリさんと歩いていると不思議と気まずさがゆっくりと溶けていった。
ブンタが二人の少し前を歩き、時々振り返ってくるのをみて二人で笑った。
そうして歩いていると湖が見えてきた。
「そろそろゴブリンの集落も近いね」
情報によるとこの湖とつながっている川を辿っていけば目撃された集落に着くらしい。
いくつかそれらしい足跡をアメリさんが見つけていた。
これから先は魔物と接敵する機会が増えるだろう。
ジンのもとに戻ると日課なのか、素振りをしていた。
「アキ、俺にも付き合えよ」
そういって剣を向けてきた。
鞘付きの木刀を空間収納からとりだし腰に差し、向かい合った。
お互いに礼をして刀を抜いた。
ジンはいつもより真剣な顔をしていた。
刃先が震えそうになるのを誤魔化すように切り込んだ。避けるジンにブリンクですれ違いざまに
切りつけたが防がれた。
そのまま背中に追撃するがジンは振り返ることなく剣を背負うように防いでしまった。
そしてジンの真横に振った剣をのけ反るように避けて地面に左手をつき蹴りを放った。
そのまま一回転して低い姿勢のまま獣のような姿勢のまま切り込んだ。
「お前の戦い方はやっぱおもしれえなぁ自分の剣を何も信じてねぇのがいい」
攻めても攻めても涼しい顔で防がれてしまう。
秋はブリンクで下がり、鞘に刀を納め、居合の構えをみせた、
「いいねぇ戦い以外もそんぐれェぐらい迷いがなきゃいいんだがなぁ」
そういって上段に構える。うっすらと電撃がはしっていた
秋はゆっくりと柄を握り、ブリンクを目前で止めて低い姿勢のまま逆袈裟で居合を放った
上段で迎え撃ってくるジンにそのまま鞘を逆手で脇腹に叩きつけた。
「ははっ、鞘まで使うなんてほんとにおもしろいことすんなぁ」
はじめてジンから一本取ることができた。
「いまはそれでいい。てめえすら信じないままでいい。強くなれば...生きてれば間違ってでも信じてぇもんが嫌でもできるもんだ。それまではうだうだ悩むな、ただ笑え、意味もなく生きろ、ただ誰かに寄りかかってふんぞり返ってりゃいい」
ジンなりのやさしさだろう。不器用だけどわかりやすくて、おおざっぱであったかい。
「はい!」
秋の心がすっと軽くなった。
「俺抜きで朝飯食うなよ、さびしいだろが」
ジンが愚痴った。台無しだ。
「なら、早く起きろバカ」
アメリが容赦なく咎めた。
自然と笑みが伝染していく。家族みたいな朝だった。
・・・・・・・・・・・・・・
そうして先遣隊はゴブリンの大規模な集落を発見した。
黄昏の鳥率いる本隊にブンタを走らせた。
合流するまでにゴブリンたちの戦力を把握する必要がある。
思ってたよりはるかに規模がでかく、木で囲われ砦のようになっていた。
「どうだアキ?」
そうアメリはたずねる。アキは空間魔法を拡げる。情報で頭がまとまらない。
「ゴブリンもホブも数えきれないですね。ホブよりでかくて筋肉質な個体も20くらいいますね。」
「ゴブリンウォリアーだなそりゃ。」
ジンが言うにはい1v1なら平気だが複数だとジンでもきついそうだ。
「鉄製の武器を持ってます。それとゴブリンシャーマンも3体いますね、あとゴブリンウォリアーよりかなりでかい個体が1体...」
「人間の補給物資を奪ってるのでしょうね。その個体が王だとしたら人の集落をいつ攻めてもおかしくない」
アメリの反応を見る限り、考えうる最悪の状況らしい。
「ゴブリンキングなんて滅多に生まれるもんじゃねえぞ...俺らでやれんのか?」
ジンでさえゴブリンキングを目にしたことはないらしい。
「援軍を王都に申請するレベルね....今の王都が援軍をよこせるのかあやしいけど...」
秋が王都を訪れたときは検問が厳しくなっており、諦めてランパートを訪れることになった。
それだけ今の王都は余裕がないと思った方がいい。
「俺たちにも試練が巡ってきちまったってことかね」
「近くの村にも気を付けるように勧告をだしたほうがよさそうね...」
魔物というよりも、もはや軍隊だ。そしていずれ勢力を拡げて侵略してくる。
討伐でも依頼でもない、戦争だ。
これからどうなるのだろうか?本隊と合流してもせいぜい20人くらいだ。
今回は一度出直すべきだろう。明らかにこちらの戦力不足だ。
だけどそうはならなかった。本隊が合流し、野営をしてるときゴブリンたちに動きがあったのだ。
武器を携えて、大規模な進軍を開始したらしい。
ゴブリンの集落には鉄製の武器に家畜も何頭かいた。略奪の慣れてしまったゴブリンはもう共生という選択肢はない。常習的に略奪を繰り返す。もし近くの村の場所を突き止めていたなら向かう先はひとつだ。
「みんな聞いてくれ。今から、ゴブリンの集落に攻撃を仕掛けてゴブリンたちの進行を食い止める。そして朝を待ち、明るくなったら掃討するつもりだ。 これは当初の作戦とは規模も危険性もまるで違う。
降りたい奴は降りていい。ギルドに戻り報告してほしい」
ジンの言うとおりだ。正直、降りるべきとさえ言いたいのだろう。
そう言われ、みんな戸惑いながらも引き返す者はいなかった。
それが冒険者という生き物なのだろう。討伐隊に選ばれた冒険者ならなおさらだ。
一度は死線をくぐり強くなってきたのだ。
試練とその選択の価値を知っている。
無謀でも無価値ではない。誰かのための戦いのその価値を
黄昏の鳥にアイコンタクトをするとみんなただ強く頷いた。
「よし、それじゃ時間が惜しい。集落に火を放ち、ゴブリンの進行を止め、動きを確かめながら一度撤退をする」
ジンの言う通り時間がない。どこかへ向かうゴブリンを集落へ押し返す意味でも一度派手に襲撃をしかけなくてはならない。
「近隣の村には文を持たせてブンタを走らせた、弓を使えるものは私ときて」
アメリ率いる陽動とジン率いる別動隊の奇襲で集落に押し返し、朝になったら一気に掃討するというのが
大まかな作戦だ。
「あ、あのわたしもやれ、やれます」
そうアメリに志願したのはベリザだ。
たしかにベリザの魔法は派手で敵を引き付けるのに向いている。
「よし、位置につきな」
「俺たちも行くぞ火矢の合図で外のゴブリンを押し返すぞ、無理だけはするなよ」
そういってジンたちも行動を開始した。
秋とベリザはアメリ隊、イスカ、セッカ、パッチはジン隊に加わった。
ベリザが秋のマントを掴んでいた。
「大丈夫?やっぱり不安?」
「いえ、近くに私の村があるんです。ここで頑張らなきゃ」
ベリザの前髪の中にいつもよりはっきりとした意思を感じる。
「ベリザなら大丈夫。きっとうまくいくよ」
意思が弱かったのは秋のほうかもしれない。ベリザの言葉で気が引き締まったのを感じる。
「よし、準備はいいね、放て!!」
一斉に火矢が放物線を描いて集落に落ちていく。次いでベリザの花火が集落の真上で破裂した。
遠くから雄たけびが聞こえる。ジン達も交戦し始めたらしい。
「俺も加勢にい――」
「だめだ、合流地点に向かう。加勢に行くにしても合流地点の安全の確保が先だ」
秋をアメリが諭した。合流地点は集落を挟んで反対側だ。ゴブリンたちに矢の飛んできた方向がばれているためだ。
「大丈夫。しっかり交戦するのは朝なんだ。危なくなる前に切り上げるさ」
そうやさしくアメリが言った。
暗い中ではゴブリンが有利だ。正直なにが起こるかわからない。秋は最悪の展開ばかりを考えてしまい、
焦っていた。
キーン、と大きな音がした。パッチが音魔法で囮になり、ジン達も退却したらしい。
そうしてアメリ隊は秋が索敵をしながら接敵を避け、集落の反対側へ回り込んだ。
キーン、と大きな音がした。パッチが音魔法で囮になり、ジン達も退却したらしい。
それからしばらくしてジン隊とパッチが合流地点にたどり着いた。
それから互いの顔もよくみえない中、息を潜めて朝を待った。
秋は空間魔法を一晩中、使っていた。警戒し続ける秋にパーティのみんながただ背中をぽんと叩いて離れていった。一番確実な索敵が潜伏の要だった。
ゴブリン達は籠城しながら、矢の飛んできた方向とジン達と交戦したあたりを徘徊していた。
半月が見守る長い長い夜が明けるのをただじっと待っていた。
いつも見てくれてありがとう




