5話 誰かのための灯火
目が覚めるといつもより大部屋の人の数が少なかった。結構寝てしまっていたらしい。
アキは夜もジンに教わった素振りを復習していた。おかげでアキの体は筋肉痛で悲鳴をあげていた。
ジンとの稽古で咄嗟に空間魔法を使ったことの罪悪感を振り払うようにのめりこんでしまった
おかげでアキの体は筋肉痛で悲鳴をあげていた。
「イッテテ、くぅ」
苦しみながら起き上がるとしばらくぼーっとしていた。
そういえば今日はパーティと顔合わせしなければいけない。
アキにとってマリアさんはともかく、人と会うというのは気が滅入る。
気が進まないが今何時かもわからないアキは走ってギルドに向かった。
いつもの笑顔でマリアさんに迎えられた。どうやら遅れたわけではなさそうだ。
「おはようございます、ってアキ君顔真っ白だよ?ちゃんとご飯食べてる?」
どうやら、低血圧で走ったせいで血の気が引いたらしい。
はじめてアキが貧血を経験した時、死ぬってこんな感じなのかな、という感想だった。
どんどん目が何も写さなくなり、それがしばらく続きいつ終わるかもわからず戸惑ったのを覚えている。
「朝が苦手で...大丈夫です。」
そういって誤魔化した。収入が安定するまで食費を出来るだけ削ることに決めていた。
「食べてないんでしょう!?あんまりひどいと徹底的に管理しますからね!」
いつもおしとやかなマリアの怒気にギルド全体が一瞬静まった気がした。
「すみませんでした....」
「パーティメンバーがお待ちですよあちらのテーブルです」
マリアさんは怒ると敬語が多くなるらしい。どうやらまだ許されたわけじゃないらしい。目を合わせてくれない。
マリアさんが言ってたパーティのところに向かう。
「きたきた。お前がアキか?あのマリアさんを怒らせるなんてなにしたんだよ?」
そういって出迎えたのはイスカというオレンジの髪をした好青年だ。わんぱくな顔をしている。
「ちょっとイスカ!初対面の人に失礼じゃない!」
そうイスカに怒ったのはセッカという少女だ。茶色にまばらに黒いメッシュがはいったような髪色をしている
髪はクセッ毛なのかところどころハネている。
「まあまあ、アキさんが困ってるじゃないか」
そう俺に目配せして二人をなだめるのは灰色でつんつんとした髪の少年パッチだ。
「あの。自己紹介、しよう?」
蚊が鳴くような声で頬を赤らめてベリザは言う。前髪で目があからめており、セッカと同じ茶色で
前髪の一束だけ黒い髪をしている。
みんな中学生くらいに見える。新米パーティだけあってかなり若い。みんな同じ村出身らしい。
この幼馴染の中に一人混ざってやっていけるだろうか?
「俺の名はイスカだ。クラスは剣士で魔法属性は土だったかな?まあ使えねえけど。スキルは威嚇だ」
剣と盾を持っているがまだ新しい。
「なーに言ってんのよ、私たちまだクラスは冒険者のままでしょ?私はセッカ。属性は火で
スキルは筋力強化。拳闘士目指してるの、よろしくね!」
グローブをつけている。この中では一番強そうな感じがした。
「次は俺だな。名はパッチ。クラスは盗賊を目指してて、魔法は音属性でスキルは冷静沈着。
よろしく」
武器は短剣とクロスボウを使うらしい。音属性はどんな魔法なのだろう。
「っわ、わたしはベ、ベリザですっ!魔法使いを目指してます!属性はお姉ちゃんと同じ火です
スキルは集中です、よ、よろしくおねがいしすっ...ます!」
「噛んだな」「噛んだわね」「噛んじまったなぁ」―――笑いが広がる
本当に仲がいいようだ
似てるなとは思っていたが、セッカとベリザは姉妹らしい。ベリザは自分の身長くらいの杖を持っていた
しかしバランスのいいパーティだ。メンバーを補充しなくても良さそうなものだが...幼馴染のなかに
よそものを入れるほうがリスクだと思う。
「アキです。クラスは狩人を目指してます。スキルは危険察知と並列思考で空間魔法が使えます。
よろしくお願いします」
「「「「ようこそ、『ようこそ黄昏の鳥へ』」」」」
温かく向けてくれた。パーティ名は黄昏の鳥というらしい。
「それにしても助かったぜ。索敵できる人はあんまいないからな。」
「俺が音魔法使いこなせたらよかったんだけどな。」
音魔法は珍しく、なかなか人に教わるのが難しいらしい。
それで丁度良く秋をマリアさんから聞いたらしい。
「じゃ、さっそく依頼こなしに行こうぜ、ささやきの森にリベンジだ」
イスカは明るくて助かるが、年相応で少し不安だ。命を預けたくはないというのが率直な感想だ。
「ちょっと!もうあたし達だけのパーティじゃないのよ?アキにもちゃんと聞きなさいよ!」
セッカはお姉ちゃんだからだろうか?しっかりしている。
「すみません、イスカはちょっと小鬼狩りで一度失敗して焦ってるんです。
いまから出発で問題ないですか?」
パッチは逆に大人びすぎてちょっと怖いくらいだ。同い年か年上かと錯覚しそうになる。
「おいおい、またゴブリン狩りしっぱいすんなよぉ!はははっ!!」
どこからともなく野次が聞こえる。
「うるせえ!すぐてめえらなんか超えてやるからな!!」
ギルド全体から笑い声が聞こえる。イスカはギルドでは愛されキャラらしい。
マリアさんにおじぎしてギルドを出た。小さく手を振って見送ってくれた。
「ちょっと荷物取ってくるわね。」
そういってセッカは走っていった。
「いいんですか?置いて行って」
待たずに歩いてく男二人を見ながらトコトコ歩くベリザに話しかけてみる。
「はい、す、すぐくるので」
ベリザがそういってすぐ、セッカが全速力で自分と同じくらいのでっかいリュックを背負って
走ってきた。
「すごい荷物ですね?」
思わず尋ねる。
「野宿になるかもしれないからね、それよりあなたこそ手ぶらじゃない。
ごめんね準備できてなかった?」
「いや、これがあるから」
そういって空間収納で弓を出してみせた。
「そっちのも俺が持つよ」
「ほえぇー空間魔法って便利なのね。お願いできる?」
セッカに荷物持ちさせる男二人もどうかと思ったが、セッカが修行になるからと引き受けたらしい。
ささやきの森までは半日かかるらしい。ノルマはゴブリン15体。
不安もあったがゴブリンを見れるという期待もあった。
―――――ささやきの森
そうして黄昏の鳥はささやきの森についた。
魔物が棲んでるだけあって魔力が漂ってるのが視えた。
空間魔法を展開した。空間知覚で確かめるが周りに生き物の反応はない。
「50m付近魔物はいないみたいです。」
無理なく秋が使える空間魔法の距離だった。ずっと展開し続けるのは困難なので、50m進むたびに
展開することにした。
「よし、進もうぜ」
イスカは慣れているようでずんずん進む。
「すごいですね、空間魔法って。どんな風に索敵してるんですか?」
「魔法を展開してってその中になにがあるかわかるって感じですかね?説明が難しいですが。
音魔法も同じことができそうですよねエコーロケーション的な」
「えこー?ろけ?なんですかそれ」
まずい。どうやら文明的に元の世界の言葉でも専門的な用語は伝わらないらしい。
「音波、えっとわかりやすくいうと音を発して、かえってきた音を読み取って障害物などを
把握するみたいな」
音魔法がそれができるだけの汎用性があるのかはわからないが。
「なるほど考えたこともありませんでした。でも音を出したら相手にもばれませんか?」
「音の大きさというより振動数が大事というか詳しいことはわからないんですが洞窟などで人間には聞こえない音をだしてかえってきた音で暗いところで飛び回れる生き物がいるらしいです」
ひょっとしたらけっこう無茶ぶりかもしれない。
「自分が音魔法の属性だったら試してみるってだけで一つのアイデアとして受け取ってください
詳しいことはわからないので」
正直秋は全然そこらへんはわからないのでこの話はきりあげたかった。
「いや、助かります、後で試してみます。」
余程試してみたいのか、パッチも子供らしい表情するんだなと少し安心した。依頼中に試さないあたり
子供にしては冷静だが。
「難しい話はわかんねえんだけどさ、お前ら敬語なのむず痒くねえ?」
拗ねたようにイスカが言う。
「まあ、言いたいことはわかるけど身もふたもないのよあんたは。アキさんは少し私たちより年上なんだから敬うのは当然なんだから」
秋は基本使い分けるのが面倒で年下だろうと敬語で話していたが確かに冒険者が敬語を使うのも
おかしな話かもしれない。
秋が異世界にきて敬語じゃないのはそういえば月くらいだ。
四人の正確な歳はわからないが15歳ぐらいにみえる。それでも25の秋は少し年上という認識らしい。
「確かにこれからコミュニケーションも簡略化したほうがいいかもだし敬語はやめようか」
そう秋は提案した。
「わかりま、わかったよアキがそれでいいのなら」
そうパッチが言った。
ベリザにも目配せするがあわてて目を逸らされてしまった。
「っはは!ベリザにはまだちょ~とまだ厳しいかもね」
一部始終を見ていたセッカと目が合って笑いあった。意外と女の子っぽく笑うんだなと思った。
そうこうしてる展開した空間魔法になにかひっかかった。
「止まってくれ...ゴブリンを見つけた」
「...どこだ?」
イスカがうずうずしながらも小声で聞いてくる。
「右前、えっと2時の方向15mくらい2体だな」
イスカは「2時の方向」じゃわかりずらいらしくきょろきょろしている。
「...ここからじゃ見えないな」
パッチが言う。
確かに草に遮られていてる。ゴブリンも同じように音には気づいてるらしいがこちらを認識できていない。
「こちらに気づいてるみたいだ。射ってみようか?」
無言でセッカとパッチが頷く
矢を番えて目を閉じる。空間知覚で獲物を捉えて弦をひく。
矢を射った―――
草をかきわけて矢が飛んでいく。
頭を狙ったが首を貫いた。短く唸り倒れた。
もう一体がうろたえている。
間髪をいれずに矢を放った。空間知覚で捉えたさっきの矢の軌道をもとに微調整したからか
今度は頭に命中した。
「当たった。もう大丈夫だと思う。」
4人は驚いた顔を見せる。
「ほんとに?何にも見えないのに?」
セッカは驚く。
「行ってみるぞ」
痺れをきらしたイスカが駆け出した。
あわててみんなで追いかけ草をかき分けると二匹の死体が転がっていた。
――――死んでいる。殺したんだ、俺が。
首を射たほうのゴブリンの手元の地面はえぐれていた
もがいたのだ。
アキは目の前の光景に唖然としていた
イスカとセッカそれぞれの死体にナイフを突き立て、魔石を手際よく取り出した。
心の準備ができてなかったのは自分だけだった。
「殺ったのははじめてか?ほら、これ魔石」
奥歯くらいの小粒だった。
「後で売って山分けな。つってもゴブリンのはあんま使い道ないから安いけどな」
「はい」
セッカはそういって袋を広げていた
魔石をその袋に落とす
戦利品はいつもセッカが管理するらしい。
改めてゴブリンを見る。布を体に巻いている。石斧と骨で削って作った槍が落ちている。
ちゃんとした凶器だ。この技術なら弓だって使ってくるかもしれない。
油断したら死ぬのは俺のほうだ。俺がやったように矢が俺の頭を、首を貫くかもしれない。
50m進むごとに索敵するのではだめだ。50m展開したなら30mごとに索敵しなおさないと
さっきみたいなことが起こる。
いつ矢が飛んでくるのかわからない恐怖のせいか空間を展開し続けてしまっていた。
「大丈夫?怖い顔してるけど」
セッカが顔を覗き込んできた。
「あ...ああちょっと索敵してました」
セッカはジト目で見てきた
「敬語、」
「ああ、ごめん」
ニッっと笑って置いてくよ、と踵を返した
彼女なりに気遣ってくれたのかもしれない。
それから何回か戦闘をこなした。幼馴染なだけあって見事な連携だった。
ベリザは森の中だからか魔法を使うのを躊躇していた。
火が燃え広がらないようにコントロールするのに苦戦しているらしかった。
だがぱたりとエンカウントしなくなってしまった。
「もう日が暮れる。野宿しないならリミットだぞ」
パッチはこういうところがきっちりしていた。
「あと5体くらいだろ?このまま帰れっかよ、また馬鹿にされんだろ!」
他の三人はあきれたような顔をした。
「じゃあ今日は野宿ね、アキもそれでいい?」
どうやらパーティではいつものことらしい。
「ああ、大丈夫」
森からでて野宿をすることになった。
五人で焚火を囲んで座った。
「しっかしアキの魔法はすげぇな」
イスカは上機嫌だった。ゴブリンを倒そうという焦りは消えたらしい。
「いや、ついていくので精一杯だったよ。みんなちゃんと冒険者なんだな」
アキの紛れもない本音だった。
「あ、あの、」
はじめてベリザのほうから話しかけてくれた。
「魔法、教えてほしい、です。パッチばっかりずるい...」
「あの、ごめん、俺は別に魔法に詳しいわけじゃないんだ、教えられることは...」
みるみる悲しい顔になり思わず秋はたじろいだ。
「そ、そうだな魔力循環を見てあげようか」
パア、と明るい顔になった。みんなの役に立ちたいと焦っていたのかもしれない。
「じゃあ手に小さな火を出してみて」
月暈をつかってベリザを視た。
魔法をだそうとする右手ばかりに魔力が集中しているのが視える
ベリザの右の手のひらで火がゆらゆらと揺れている
「魔力が体を循環してるのはわかる?」
「なんとなく、ですけど」
「今、ベリザさんの魔力循環は魔法を使おうとする右手側に寄ってしまってる。そのせいで魔力が
一定の出力で循環してないんだ。左側も意識して全身で循環させれば簡単になると思うよ」
ベリザは普通よりもはるかに難しいやり方でコントロールできていたのだ。
すぐに上手くなるだろう。
「やってみます」
前髪の奥の目の焦点があっていない。相当集中しているのだろう。ゆらゆらと不安定だった火が
ピタリと止まり、ベリザの意思で大きくしたり小さくしたりしている。
「できました!!アキさん、みてください!!」
よほど魔法が好きなのだろう。いつもより流暢にしゃべっている。
「うん、もう完璧だ、ほんとうにすごい」
秋は素直にそう思った。
それから秋たちはたくさん話をした。そしてひとり、また一人と眠りについていった。
「今日は私が不寝番するからアキも寝なよ。眠れない?」
セッカは穏やかな顔でそう言った
「ああ、こうして外で寝るのに慣れてないからかな」
ゴブリンは洞窟や暗いところで暮らす傾向になるらしい。そのせいか夜行性でもあるのだ。
そして、秋は今日はじめて自分の意志で生き物を殺した。
生きるため、と割り切れたらよかった。でも秋は知っている。人間社会では生き物を殺さなくても
生きていけるのだ。元の世界で嫌というほど知っている。
「私もね、初めての夜は眠れなかった。きっとみんなもそう。
ベリザを見てるとね、たまに不安になるの。自分に降りかかる不幸ならどうにかこうにか乗り越えられる。でもベリザに不幸が降りかかると思うとほんとにこわいの。おかしいよね。」
わかるよ、といってあげたかった。でもそれを言ってはだめだとなんとなく思った。
「ベリザもセッカの役に立ちたくて勇気を振り絞って今日初めて会った俺に魔法を教えてもらおうと
したんじゃないかな。誰かのために、って気持ちはこんな夜にしか見えなかったりする、だからその...」
月を見上げて言う
「いい夜だな」
「なにそれ、くふふっ...へーんなの...!」
秋とセッカは笑いあった。
「そうだ、魔法教えてよ!わたしにもできるかな?」
「どうかな」
秋はおどけていった。
そうして夜は更けていった――――二人分の明かりを残して




