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4話 はじめての報酬

目が覚めると宿舎の大部屋にはまだ、駆け出しの冒険者たちが眠っていた。


物音を立てないように部屋を出た。廊下で【空間収納】で取り出したマリアからもらった装備を

身に着けた。腰に付けた〔お守りの短剣〕がかちゃりと鳴った。


(やっぱり時計がないと不安だな...。)


心の中で呟く。

いまは早朝なのだろう。今日は弓術が学べる訓練所に行くことになっている。


散歩がてら養成所の場所を確認しておくか...。


テレビでしか見たことないような街並みを今歩いている。まだ街に活気はない。


目を閉じ鼻から息を吸い込む。ツンと冷たい空気が鼻を突きぬけて肺にひろがる。


「いい朝だな。」

素直にそう思った。

元の世界の秋は朝が苦手だった。

低血圧なのもあったが、ときどきやってくる音のない朝が怖かった。

完璧な朝はまるで自分を置いて行って、

世界に自分以外いなくなったのではないかとそんな錯覚さえするあの朝が嫌いだった。


そんな秋が今はただ街が起きるのを静かに待っていた――

どこからかパンの匂いがした。

あの角を曲がったら、誰かに会えそうな

そんな根拠のない期待を街がきらきらと反射していた。



街が活気をみせはじめた頃合いに秋は弓を習いに来ていた。

秋のほかにも2~3人ほど駆け出しの冒険者がいた。

弓を射る姿を観察しているとふいに声をかけられた。


「あんたがマリアが言ってた新入りかい?」


長い赤毛を三つ編みで左肩に垂らしている緑の瞳の女性だった。眉には剃りこみがあって強面かと

思いきや、顔はとても整っている。なにより瞳が元の世界では見たことがない色だからか

ひと際新鮮だった。


「はい。アキです、よろしくおねがいします!」


「あたしはアメリ。冒険者しながらここで弓を教えてる。よろしく」

差し出された手を握るとがっしりしていてそれでいてしなやかさもある不思議な手だった。


「さっそくはじめようか。ン、弓がないなら貸そうか?」


「いえ、あります。」


そういって秋は【空間収納】からマリアさんからもらった弓を取り出した。

黒いシンプルな弓は握ると木のような感触がした。塗装という感じもしないから異世界ならではの

材質なのかもしれない。


「その弓....そういやその恰好も...そっか、あの子も受け入れられたってことかな」


「マリアさんに....借りました」


もらった、とは言えなかった。まだいつか返すべきだと思っているからだ。


「まあ今はそれでもいいさ、大事にするんだよ」


見透かされたようだった。でも不思議と心地よさを感じる。


「はい。そうします」


「それにしても珍しい魔法だね。初めて見たよ。それなら矢筒も要らないんじゃないかい?」


「完全に慣れるまでは使おうと思っています。矢の本数も把握したいので...。」

【空間収納】にもだいぶ慣れたが緊迫した状況で使える自信はまだなかった。


「いい心がけだね。じゃあひとまず射ってみな」


「わかりました」


そういって秋は矢を番える。足を肩幅に開き弓を構え弦を引いた

遠くの的を見た。的に狙いを定めようとするほど手が震えた。


放った――


と思ったが3m先の地面に突き刺さった。


「あれ、」


「はは、まあ最初はそんなもんさ、どれもう一度構えてみな」

言われるまま構える。

「足はもっと開きな、ひじをもうちょいまっすぐ、そういい感じだ」


秋のうしろから姿勢をなおされる。

そして射る――

的にこそ当たらなかったがさっきよりまっすぐ飛んだ


「いい感じだ、あとは私から見て盗みな」


そういってアメリは弓を構えた。弓道ほど型にはまった感じではないが素人目でもきれいだった

見て盗めと言われ秋は思いついた。


【空間知覚】でアメリの姿勢を読み取った。


アメリの矢は当然かのように的の中心を貫いた。


やってみな、といわれ秋はさっき読み取ったアメリの動きをできる限りトレースした。

そして【空間知覚】で的を捉え息を止めた


指が弦からほどけた。矢は的に吸い込まれていった


「あたった....?」


「すごいじゃないか、何かしたのかい?」


自分の姿勢を狂いなく真似する秋にさすがに違和感を覚えたらしい。


「空間魔法を使ってみました。」


「空間魔法ってのは実用性がないって聞いてたけど便利なもんだねぇ」

そういってアメリは感心していた。


「あとは実戦で養うことだね。私の動きを忘れたらいつでも見に来るといい」


「なんとか形になりそうです。ありがとうございます。」


「その弓に笑われないように頑張るんだよ」

そういって秋の背中を叩いて笑った。


「イテ、大丈夫ですよ先(・)生(・)が良いから」

秋もつられるように笑った

「それもそっか」



――――――――――



そうして秋はギルドに戻ることにした。


ギルドに入ると昨日と同じ位置にマリアがいた。ピンと姿勢をただして栗色の髪を後ろで結んでいる。

受付としてみてたから気づかなかったが冒険者の憧れなのだろう。周りから時折、まなざしを向けられてる。


こちらに気づいて微笑む。一瞬手を下に向けてひらひらと招いた

昨日とは違う親しみのある笑顔に心がほころぶ。


「戻りました。」


「早いね。アメリの指導はどうだった?」

秋の腰に差された短剣をみてわずかに喜んでるようにみえた。


「あとは実戦に慣れろって...あとその弓に笑われるなとも」


「アメリらしいね。でもアメリがこんなに早くオッケーするなんて、アキは将来有望だねぇ?」

からかうように笑った。

「からかわないでくださいよ。空間魔法と相性がよかったんです」


「アメリは新人に厳しいのほんとだよ?少しは自信持てばいいのに」


「たった一日で自信持つほうが冒険者としてどうかしてるんじゃ...」

まだ実戦経験がないアキには、まだ弓でやっていく自信がなかった。

「それもそうか...。アキくん、過信しないように!」


調子のいい物言いにギャップを感じる。


――マリアはきっと自分と弟を重ねている。だからこんなに親しくしてくれるんだ。

この笑顔はおれではなく弟に向けられるはずだったものだ。

おれは今誰かの席を奪っている。それが正しいことなのかわからない。

でもそれはおれ自身が無意識にマリアさんが弟の死と向き合えてないと憐れんでいるということでは

ないだろうか....

――――あぁ沈んでく....

そうだ、俺にも姉がいた...俺が泣いてた時、姉が抱きしめてくれて...それで――


こ(・)ん(・)な(・)も(・)ん(・)か(・)


理解とは軽蔑だ。愛なんてものがなければ人はその結論に至るだろう。


「、キくん!アキくんてば」


一瞬で世界に引き戻された。秋は暗いところから救い上げてくれた声に感謝する。


「すみません。なんでしたっけ」


「だーからーパーティ募集。見つかったよ!新米パーティ4人なんだけどアキくんは大丈夫?」


「はい。お願いします。」


「じゃ、受理するね。パーティにも伝えとくね。明日にでもパーティ依頼受けれるよ」


「あの、今からでも一人で受けれるパーティ依頼とかってないですか?お金を少しでも稼ぎたくて」

宿舎や弓を学ぶための費用を借金してしまってる秋は一刻も早く依頼を受けたかった。


「もう、あんまり焦ってもいいことないよ?簡単な採取依頼なら回してあげられるけど...。」

身の上を知ってくれてるマリアは心配しながらも依頼を回してくれた。



受けた依頼は、薬草の採取だ。ランパート近隣の森で採れるらしい。魔物が全くでないわけではないが

比較的少ないらしい。


森に入ると予想以上に様々な植物が生えていて見分けるのが難しい。


「全部雑草じゃないよな?」

【空間収納】があるアキはとりあえず一通りの種類の草を眺めていた。

つやがあって固い草、ギザギザした大葉のような草、ほうれん草のような草もある。

しばらくマリアさんからもらったスケッチと見比べて特徴を見てくうちに候補は2種類に絞られた。


――――なんか楽しいな、元の世界では花が気になることはあっても生えてる草に関心が

向くことはなかった。まるで子供に戻った気分だ


草や土で汚れた手を見る。すると手からうっすら匂いがした。入浴剤で嗅いだ匂いだ、正直あまり好きではなかったのを覚えている。なんとなくこの匂いがするほうが薬草な気がする。


「このスケッチの文字が読めればこんなに迷わなかったのにな」


薬草を見分けられるようになった秋は空間魔法で効率よくみつけることができた。


「そろそろ帰るか」


【空間知覚】を使うと森に思ったよりたくさんの生き物がいた。

鹿を見つけたが弓を構えて踏みとどまる。

狩って肉屋にでももっていけば金をもらえるだろう。

でもそれが殺める理由として受け入れることがまだ秋にはできなかった。




――――――――


ギルドに入って受付に向かう。あまり毎度マリアさんに対応してもらうのも悪い気がするが

ギルドに入るとすぐマリアさんがこちらを見つけてくれるのでこれからもお世話になりそうだ。

そうしてアキは内心ビクビクしながらマリアさんに薬草と思われる草を提出した


「確認しますね。はじめてなのにけっこうたくさん採れたね」


「依頼の薬草と合ってますか?」


「うん。合ってるよ!これだと大体、銀貨2枚にはなるね」


移動時間も含めて3~4時間ほどかかったから稼ぎとしては正直物足りないが次に行けば2倍は採れるだろう。慣れてくればもっと採れるかもしれない。


何より異世界ではじめて稼いだお金だった。元の世界ではじめて給料を貰った時より確かな満足感がある。

元の世界では働くことと生きることが直接結びついていないことに違和感があった。

生きるために必要な知識よりも楽をするための経験だけが蓄積していたように思う。

命の危険のない世界は、生き物としての『生きる』ということを大きく歪めてしまっているように思えた。


「あの、今から剣術の訓練って厳しいですか?」

今のアキは生きるための術を身につけることに貪欲になっていた。薬草採取で少年心がくすぐられたのかもしれない。


「たぶん大丈夫だけど....アキ君、弓の訓練に薬草採取も行って疲れたでしょ?休んだほうが

いいんじゃない?」

マリアは心配そうに見つめている。


「なんとなく今は動いていたくて。冒険者として必要なことを身に着けておきたいんです」

ここで止まってしまうのが怖かった。秋は生きる気力が人より少ないを元の世界で自覚していた。

愛着障害の悪いところがいつまた出てくるかわからなかった。


「無理だけはしないでね。アキ君ならちゃんと上手くいくから」

悲しい顔をさせてしまった....


気まずい気持ちを抱えながらアキは訓練所に向かった。


「すみません。初めてなんですけど今から剣術を教えてもらうことってできますか?」


剣術の訓練所にはかかしがいくつかあって、ひとり、筋骨隆々ってかんじの男の人が素振りをしていた。

マンバンのような髪をしており白髪が綺麗に一筋はいっていた。


「初めてか?ギルドから来たのか?」


「はい、ギルドからです。」


「丁度、みんな上がったとこだ。おれはジンだ、よろしくな」


タイミングが悪かっただろうか、強面なのも相まっておそるおそる応えた


「アキです。すみません、変な時間に来てしまって」


「いや、退屈してたとこだ。剣をとれ」


間髪入れない物言いに面食らう


「え、あ、はい!」


木剣が無造作に入れられたかごから一本手に取る。

握る手に汗がにじんだ。


構える


「お願いします!」


面食らう。

ジンは位置について頭をさげた。日本で見慣れた動作だった。

秋もあわてて頭を下げた。


「俺の出身のクセでな、気にすんな」


「どこなんですか?」


「言葉はいい、始めるぞ」

気まずい空気に気圧されながらもアキは構えた。


「いつでも打ち込んで来い」


「行きます」


アキはつま先で大きく踏み込んだ。上段から振りおろし、木剣同士が当たり音を立てた。

秋は自分の運動不足の体が貧弱な自覚があっただけに、その音に驚いた

【冒険の導き】の効果をはじめてちゃんと目の当たりにした。


そのまま何度か打ち込むが片手でいなされ続けてる。そしてとうとうアキの木剣が大きく弾かれ

のけぞる。


「こっちからも打ち込むぞ」


そういわれ心臓が跳ねた。たびたびあったこの感覚は危険察知なのだろうか?全身が危険信号を

発している。

反射的に【空間知的】でジンを捉えた。


ジンの姿勢をトレースし、どこから打ち込んでくるか【空間知覚】で予想し、決め打ちした。

ジンは一瞬驚いたのをアキは捉えた。


―――ここしないッ!!


踏み込みグルンと体を回転させ横一閃振りおろした。

しかしジンはいとも簡単にいなして距離をとった。


「初めてっていってなかったか?ずいぶん思い切りがいいな?」


経歴を偽ったのか訝しんだのか怒気を帯びてる気がした


「すいません、空間魔法を使ってしまいました」


「なんだそりぁ聞いたことがねえな。予備動作の起こりをみてやがるってことか?」


鋭い。というよりもアキの素人丸出しさと予測動作がかみ合ってなくて不自然なのかもしれない


「はい、【空間知覚】でジンさんの体の動きが手に取るようにわかります、魔法を使ってしまって

すみません」


「いや、使えるもんを使わないほうが相手に失礼だ。まああくまでも俺の考えではだがな」


ジンの言うことにも一理あるが魔法を使っていいなら火魔法で燃やしてもいいことになる。

空間魔法の便利さにあぐらをかいていたのかもしれない。危険を感じ咄嗟に使えたことは

喜ばしいが、あまりにも浅慮だった。


「本当にすみません...。」


罪悪感に苛まれアキは己を恥じた。


「もういい。それもお前の武器だ。俺の前では気にせず使え。そのほうが成長がはやそうだしな。

スキルはあるのか?」


アキの罪悪感を察したのかぶっきらぼうなやさしさを感じる。


「《危険察知》と《並列思考》があるらしいです。任意で使えるかはまだわかりません。

あと【空間収納】を使えます」


「魔法を使いながら動けるのは《並列思考》のおかげかもな、剣士としては羨ましいかぎりだな。

それと木剣より木刀で訓練したほうがいいかもな」


分析が早い。冒険者になるにはきっとこういう経験に裏付けされた能力が必要になるだろう。

そして木刀があるということはこの世界にも刀があるのだろうか?


「刀も学べるのですか?」


「俺の故郷では剣より主流だったからな、まあ、俺には向いてなくて剣を使ってるから

教えられるってほどではねえんだけどな」


ジンは自虐気味に笑った。最初はこわいと思ってたがいい人のようだ

そういえばマリアさんに侍や忍のクラスがあると聞いた気がする。


「お前の剣は力任せに切るよりなんっつーかもっとこう、ズバッて感じのほうがいいと思うんだよな、

ほれ」


そういいながら木刀を投げてきた。ジンは言語化するのは苦手らしい。


アキは木刀を振ってみる。どっちがいいかは自分ではわからないが確かに結構重心が違うことに驚いた。

正直剣を振ってるのを元の世界であまり見たことがない。刀は時代劇とか剣道とかでもそうだが

藁を切る動画が何度も回ってきたのを覚えている。


「まあ、今日は刀の振り方を教えて終いだな、ちょくちょくこいや。お前の戦い方から学べることもあるだろうしな」


そのあと素振りの仕方を教わり、木刀を持ってけと言われた。空間魔法の戦い方が気に入ったらしく、はやく強くなってほしそうだった。


訓練所を出るとすっかり夕暮れだった。


喉が渇いて【空間収納】から水を出して飲もうとして失敗した。

手のひらからでた水で顔がびちょびちょになった。


「やっぱ水筒は必要だよなぁ時計も欲しいし食糧も備蓄したい....はぁ。」


まだ生きていくには何もかもが足りない。


今日の報酬2枚の銀貨を握りしめる。それでもアキにはたしかな成果があったと。


ままならぬままそれでも歩き始めた秋を暮れはじめた空から少し欠けた月が見守っていた。


書きながらずっと不安

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