14話 王の墓所
ゴブリンの集落での依頼から数日明け、黄昏の鳥は馬車に揺られていた。
荷台にはアキ、イスカ、セッカ、ベリザが乗っていた。御者はパッチが務めていた。
目指すのは王の墓所と呼ばれるダンジョンだ。
「さくっと王の墓所を攻略して格をあげるぞ!」
イスカは攻略する気満々のようだった。セッカとベリザも乗り気のようで顔にやる気が満ちていた。
「依頼は増えすぎて溢れたスケルトンの討伐だったよな?今まで攻略したパーティいないんだから難しいんじゃないか?」
秋は止めなくてはいけないと思った。ダンジョン自体に基本的に害はない。今回のような魔物があふれ出した場合を除いて、だが。
あふれだしたということは、それだけ攻略が進んでないか、断念したパーティが多いことを意味していた。
つまり現状は攻略には程遠いことを意味していた。
―――――アキ、アンデッド系に知性がないと思うな、人間を相手してると思った方がいい―――
そうジンは言っていた。スケルトンやゾンビの知性はゴブリンほどないらしい。
罠や不意打ちもなければ、統率のとれた戦い方をするわけでもないらしい。
それなのにジンがそう言うのにはたぶん別の事情があるのだろう。
ジンだけではない、ジンもアメリも黄昏の鳥が王の墓所に行くのは否定的だった。
「なんだよ、アキ!びびってんのか?俺たちならやれるって!」
イスカは無邪気にそう言った。
「今は依頼を優先しよう。攻略は難しいと思う」
「なんだよ、アキは格が上がったからって保身的になってんのか?」
イスカは少し不機嫌になった。格をあげた秋という存在がイスカを焦らせてしまっているのかもしれない
「そうじゃない、攻略されてないのにはそれだけ理由があると思う。依頼をこなせばきっと理由がわかるはずだから、それを確認してからでも.....」
「大人とおんなじこと言うんだな、一番近くで俺たちの強さを見てるのにアキはそれが信じらんねえのかよ!!」
しまった――――やんわり諭すことが裏目にでてしまった。自分のことをわかってくれない大人と同じ言い回しになってしまったことでイスカの癇に障ってしまったのだろう。
もっと予想外だったのはセッカとベリザだ。どこかのタイミングで助け舟をだしてくれると思っていた。
それなのにイスカと同じ気持ちなのかかなしげな顔でうつむいている。
パーティのみんなといつの間にか距離が空いてしまっていたのかもしれない。
討伐隊で秋はアメリとジンと組み、クレインの助けがあってゴブリンキングを討伐した。
そんな秋の姿は、パーティにとってどう映ったのだろう。
討伐作戦中は、常に空間魔法を展開して索敵していた。パーティメンバーを気にかける余裕がなかった。
それどころか、顔を合わせた記憶がない。空間魔法で知覚できるから、わざわざ目を合わせることもなかった。
潜伏中、黄昏の鳥のみんなが代わる代わる背中をポンと叩いて秋を気遣っていた。あの時ですら、秋は顔を合わせただろうか?
ガルサ村でも秋は人を避けてしまっていた。挙句、クレインとアイビスに連れ戻された。
空間魔法に慣れて、一瞬で全員の姿を把握できる。いつから秋は目を合わせなくなったのだろう。
メンバーに不信感を与えてもおかしくない。
ベリザが何か言いたそうにして口をつぐんだ
荷台に車輪の音だけが流れていた。
そうして墓所の近くのドレッド村に着いた。
村の人の話だと、最近になってとうとう、スケルトンが村までやってくるようになってしまったそうだ。
駆け付けてくれた黄昏の鳥に感謝され、手厚く見送られた。
そうして馬車を預け、王の墓所へ向かった。
「うえぇ流石に気味が悪いわね」
ダンジョン、王の墓所の周りは枯れ木に覆われ、いかにも墓地のような雰囲気だった。
セッカは意外と苦手なのか露出した肩にはうっすら鳥肌が立っていた。
「アキ、索敵になにかひっかかってないか?」
パッチが確認するのもわかる。墓所からスケルトンがあふれ出してるという報告だったのに、
スケルトンが見当たらないのだ。
「今のところ何も....」
「なーんか、じめじめしてて歩きずれえな、戦ってる途中、転んじまいそうだな」
イスカも成長してるのか、こういうフィードバックを共有するようになっていた。冒険者らしくなってきたように思う。
確かに歩きづらい、土が柔らかいだけじゃなく、ところどころ盛り上がっていて足を取られそうだ。
と、
考えていて気付いた。アンデッド系の定番は―――――
「きゃあ!!あ、足掴まれた!!ほ、骨が!」
ベリザが叫んだ。
「ごめん、地面の下まで索敵出来てなかった、警戒してくれ!!」
秋の空間魔法は、秋を中心に円形に拡がっていく。だが普段は節約のため、半円で使うようになっていたのが災いし、地面からの奇襲に気づけなかった。
ゾンビやスケルトンが一斉に土から這い上がってきた。
「ベリザ、火の壁で食い止められるか?まずは火の円の中を殲滅するぞ」
パッチの指示に従い、ベリザが火の円がパーティを守るように包み、その中で背中を預け合い、応戦した。
ノトスの短剣の風を矢に纏い、放った―――
狙ったスケルトンを貫き、何体か巻き込み、火の壁に穴を空けた。
イスカはゾンビを剣で切り、スケルトンは盾で殴りつけていた。相変わらず戦闘面では器用だった。
ベリザは、火の壁を絶やさず、ゾンビを優先的に燃やしていた。スケルトンにはあまり効果がないのをみて早々に割り切っていた。
逆にセッカの打撃は、スケルトンに効果的だった。他の人の倍、スケルトンを倒していた。
そうして火の壁の内側をあっという間に殲滅してしまった。
「一度、火の壁を消すぞ」
パッチが音魔法を使い、重低音を火の壁に浴びせると、あっという間に消化してしまった。
元の世界でも音波で消火する装置をどっかの国の高校生が開発したというニュースを見たことがある気がする。
「すごいな、パッチ」
秋の素直な気持ちだった。
「アキに音波で索敵するのを提案されてから、音じゃなくて音波を意識するようになったんだ。音魔法の可能性が広がって感謝してる」
そう照れたようにパッチが笑った。
火の壁の向こうには、思ってたより多くのゾンビやスケルトンがいた。外でこれだけ多いなら、ダンジョンではどれだけいるのだろう。
ゾンビはただ襲ってくるという感じだが、スケルトンは盾と剣をもってるものや、槍や弓矢のものもいた。
そして、驚いたことに空間知覚で把握するかぎり、姿勢や歩き方、武器の構え方が違う。
その個体差により、時々ヒヤッとさせられた。
ジンの忠告はこういうことなのだろう。スケルトンは知恵はないが生き抜いてきた経験が骨に刻まれているのだ。
これがこのダンジョンの恐ろしさなのだろう。
きっと、ダンジョン内には魔法を使うものや、スキルを使うものもいるだろう。
もしここで、秋が死んだら―――――
ノトスの短剣を使うスケルトンになるのだろうか?
冒険者が命を落とすたびに、攻略が困難になってく成長するダンジョンなのだとしたら
今まで攻略されなかった理由も頷ける。
体がこわばるのがわかる。
スケルトンの眼窩の奥の空洞が急に恐ろしくなった。
カタカタと骨のぶつかる音が笑われている気がした。
そしてとうとう空間知覚が捉えた。杖を持ったスケルトンを。
「魔法を使うやつがいる!」
秋が叫んだ。
押し寄せるスケルトンにどんどん追い込まれていく―――――
そして杖を持ったスケルトンは黄昏の鳥に向けて火球を放った―――――




