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13話 何を見ても何かを思い出す

気が付くといつもの天井があった。


身体が鉛のように重い。


元の世界では長い間、こうしてぼんやりしていた気がする。


ただ生きていた。


やりたいことがなくなって、一番嫌いな奴が死んで、何より大切だった育ててくれた祖母が死んだ。


何もなくなった。


笑った顔と消えかかった声の記憶。


人は人の声から忘れるというのは本当らしい。


秋に無償の愛を教えてくれた人。


秋が好きなものを飽きるまで食べさせてくれた。


豚の角煮や卵焼き、グラタンに生ハム。ソルティライチにカルパス。


子供のころにはまった食べ物をみるたび祖母を思い出した。


カルパスを食べて、こんなのが好きなんて変わってるなぁと笑っていたのを覚えている。


好きなものに興味を示してくれるのはなんだかうれしかった。


それなのに祖母は自身のことはあまり話したがらなかった。


秋は祖母の誕生日さえ憶えていなかった。


おぼろげな記憶の中、


「8月20日(はつか)」


と祖母が言った。


「はつかって8?」


まだ幼かった秋ははつかが20日だと知らなかった。その問いに祖母は答えなかった。みなまで言うのは照れ臭かったのだろう。


祖母が死んでから秋はそれを思い出した。


祖母が生きてる間、秋は愛を受けるだけ受けて、恩を一つだって返さなかった。


なんてひどい孫だったのだろう。


最期の記憶は帰省した秋の手を握り、


「帰ってこ(かえってきな)?こっちで暮らそう」


そう言う祖母の寂しそうな顔だった。


都会で忙しく働いていた秋は祖母の死に目に会えなかった。


ガンが見つかって、あっという間に逝ってしまった。


秋は奇跡でも起こさなければ祖母のことを幸せにできないと思った。


だから都会で夢を追い、それを叶えて祖母を喜んでほしかった。子供のように手を叩いて。


でも違う。祖母が本当に望んだのは秋と田舎でただ暮らすことだ。


どれだけ寂しかったのだろう。


余命が宣告されてから死ぬまでの間、祖母は何を思ったのだろう。


いや、秋が上京してからずっと、どんな思いでどんな生活をしていたのだろう。


秋が居たころは、いつだって秋を中心に考えていた。


不幸だっただろう。不孝だっただろう。


秋は何度も泣きながら目覚めた。ごめんなさいと、おれのせいだと。


夢の中の祖母はしゃべることはなかった。



恩を返せなかった秋は人の善意を受け取ることがこわかった。


ふとノトスの短剣を見た。マリアが弟に贈ったお守りの短剣。


返しに行こう。マリアさんに


祖母の面影がマリアと重なってしまう前に.....



「はあ―――」


大きなため息をひとつ。


「なんか異世界きたのに元の世界のことばっか考えてるな...。」


重い体とそれに引っ張られたように沈んだ心を引きずるようにギルドへ向かった。




「おはようございます、マリアさん」


「あ!アキ君!聞いたよ!短剣の格が上がったんだって?すごいじゃない!」


「そのことなんですけど、これ、マリアさんにお返ししようと思ってきたんです」


そういって秋は短剣を差し出した。


元のお守りの短剣だった時より一回り大きく、装飾もすこし派手になっていた。


短剣から視線をマリアさんに移すと、怒っている、のだろうか、すごく真剣な顔をしていた。


「どうして――これを返そうと思ったの?私は貸したんじゃなくてあげたの、その意味わかるよね?」


「―――、、」


言葉に詰まった。


その意味から秋は目を背けていた。


マリアが弟の死を受け入れ、その冒険の続きを秋に託してくれた。


それはわかる―――がなぜ秋なのかまではわからなかった。


そこの認識の違いがマリアを憤らせているのだろう。


「この短剣、弟さんの風魔法が宿ってるみたいなんです。弟さんの冒険者として生きた証だから、

そのマリアさんが持っていたほうがいいと思うんです」


「格をあげたのはアキ君でしょ?ロイドじゃない。私でもない。今はあなたの冒険の証なの」


「いや、格が上がったのは何かのきっかけできっともともと....」


秋には後ろめたさがあった。弟が命を懸けた功績を秋が掠め取ったようでうれしさより罪悪感のほうが強かった。


「それ以上言ったら怒るから。口利いたげない」


「いやでも―――、、」


これでもかというほど睨まれて口をつぐんだ。


何も言えなくなった秋にぽつりと告げた。


「秋の冒険に、ロイドも連れてってあげて。ね?」


穏やかな顔でそう言われた秋はもう何も言えなかった。


「はい、力を貸してもらいます」


「よろしい。今日アメリと夜ご飯に行くんだけどアキ君もどう?アメリがお礼したいって言ってたし、奢ってくれるよきっと」


「いいですね、行きたいです」


「決まりね。今日はゆっくりできるの?」


「はい、宿でゆっくりしようかと」


「じゃ、時間になったら迎えに行くよ」


「ありがとうございます。じゃそろそろ行きますね」


「いってらっしゃい」


そう満面の笑顔で見送ってくれた。


どっちかというと帰るんだけどその言葉が妙にうれしかった。



宿に帰るとそのまま横になった。やはりまだ疲れが抜けてなかった。


ノトスの短剣はかなり魔力を使うらしく、普段使わない筋肉を使った時のような疲労感があった。


だらだらしながら生活魔法の本を眺めた。


やはりこの世界の文字は読めない。


アメリさんに聞いたところによると、


生活魔法というのは、この世界で最初に人が神に教わった魔法だったらしい。


火をおこし、水を生み、風で人から人へ伝え、土で家や土器を作り、それがこそがこの世界の文明の起源であったらしい。


神と人が大きく関わる世界。


この世界の歴史を調べてみても面白いかもしれない。月や月を狙う狼の伝承が残ってるかもしれない。


文字が読めるようになったら、だが。



そうしてだらだらしてる間に、マリアが迎えに来た。




酒場にて――――――――




「お、来たなアキが来るって聞いたからジンも呼んだぞ」


マリアと酒場に入ると、アメリとジンが揃っていた。


「お、格を上げた英雄がきたな?」


そういってジンがからかう。


「からかわないでくださいよ。あれは短剣のおかげなんです」


「あのときは、その、なんだ...助かったよ。アキが来なきゃきつかった」


アメリは照れたように目をそらしながらそう、感謝を述べた。


「いえ、感謝ならロイドさんに。アメリさんを助けたいと思ったら格が上がったんです。

きっとそういうことなんだと思います」


口には出さないが秋に弓を教えたようにロイドに弓を教えたのもアメリなのだろう。


マリアと同じようにアメリもロイドの名前や話題を少しずつ出すようになった。


人にはきっと、普段じゃ向き合えない記憶があって


それに向き合うきっかけが必要なのだ。


人生とは


何かを静かに待つことなのかもしれない。


秋は元の世界で幼いころ、何かを待っているような感覚を抱えていた。


自分という人間を理解してくれる人を


そして心の拠り所を


大人になってどこか諦めがついたのだろう。いつの間にかその感覚は消え失せていた。



この世界の人間は元の世界の人間より心地がいい。


死と隣り合わせだからだろうか?


元の世界は死が身近になくなってしまったぶん、どこか歪んでしまったのかもしれない。


この世界でなら―――――待ってみてもいいのだろうか



「でもアキ君は、最近の黄昏の鳥(トワイライトバード)は無茶しすぎよ!」


マリアはいつの間にか酔っぱらっていた。


「まあ、確かにありゃあちと危ういな」


ジンから見てもそうらしい。


この世界の冒険者はみんな格を上げるため無茶をするのかと思っていたが、やはり限度はあるらしい。


「死ぬまで止まらないのは冒険者とは呼ばない、、」


「「「ただの大馬鹿野郎だ」」」


どうやらそういう格言があるらしい。アメリの言葉に二人も口を揃えた。


「アキの空間魔法のせいかもな、不意打ちを未然に防げるせいで、歯止めが効かなくなる気持ちもわからなくねえ、まだガキだしな」


「それにしたって今度は王の墓所に挑戦するつもりよ!流石に無謀よ!!」


酔ってるせいかマリアが声を荒げた。


確かにこのままだと攻略するまで止まらないかもしれない。


良くも悪くも幼馴染のパーティだけあって、連帯感がある。イスカのカリスマ性に、他のメンバーが

同調してしまうせいで、無謀だと思っても何とかなるかもと受け入れてしまうのだ。


そしてトントン拍子に上手くいってしまったのだ。


その雰囲気にたしかに危うさを感じていた。


「アキが手綱をしっかり握らないとな?」


アメリがマリアをなだめながらそう言った。


自信はなかった。秋はあくまで幼馴染パーティのよそ者だ。


「まあ気負わずにやれ、痛い目みるのもガキの頃しかできねえ経験だしな」


そういってジンが笑った。


・・・・

・・・

・・

・



「アキ、マリアを送ってやんな、アタシはブンタが待ってるから」


アメリは街の外に住んでるらしい。ブンタがトラブルの元になるかもしれないからだそうだ。


ジンはしれっと帰ってしまった。


「マリアさん、歩けますか?」


「歩けるわよぉーそんなに酔ってないからぁー!」


酔ってる人はどこの世界でも言うことは一緒らしい。


「行きますよ、家わかりますか?」


どうやら肩を貸すしかなさそうだ。後ろを振り返り、アメリが笑った。そのまま帰ってしまった。


「んーあっち!!じゃなかったこっちだ」


「どっちですか...行きますよ、水のみますか?」


「要らないぃ...帰るぞぉ!」


ふらつきながら帰路を辿った。



やっとの思いでベッドにマリアを下した。


「じゃあ帰りますねマリアさん」


「泊っていけばいいじゃん、弟の部屋あるし」


「やだ。おやすみなさい」


「もうばーか!おやすみなさい!」


あまりにも子供のようなマリアが珍しくて頬が緩んだ。


帰り道を月が照らしていた。


書くことの難しさを痛感していました。まだ書き始めた当初の描きたいところにはたどり着けずにいます。


更新がない日にもPVが増えていることに申し訳ない気持ちでいっぱいです。


少し時間をください


書くたびにこれが面白いのか疑うことが増えてる気がします。もうちょっと書きためてから連載すべきでした。賞までの期限が残り短いと知って焦って投稿を始めてしまいました。

打ち明けてしまうとこのサイトの作品を読んだことがほとんどありません。

だからこれで合っているのかもわかりません。


秋を主人公にしてよかったのか、悩んだりもします。


だからこの作品を追ってくれる人がいるのが本当に支えになっています。


本当にありがとう。

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