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12話 秋を運ぶ風

剣と剣がぶつかる音。焼けた匂いとゴブリンたちの亡骸。


どれくらい戦っているだろうか。とうとう秋の視界に見たくないものが写りこんだ。


ゴブリンウォリアーに吹き飛ばされ転がる人。ゴブリンの亡骸に足をとられ、転んだ冒険者にゴブリン達が群がり襲い掛かっている。


空間知覚で見たくない惨状の瞬間を逃すことなく秋は知覚した。


呼吸が荒くなる。音が遠くなる。このままじゃみんな...そんな最悪の想定が頭をよぎった。


秋は異世界に来て人が死ぬ姿を見た。ゴブリンに囲まれ何度もナイフを振り下ろされている。

やがて悲鳴もあげずピクリとも動かなくなった。ゴブリンの隙間から死体と目が合った。口をあんぐりと開け、目は虚ろだった。


「ぁ....」


声が漏れた。あまりにもあっけなく人は死ぬ。その現実を受け止めると秋の足元が今にも崩れ落ちてしまいそうな錯覚がした。


短剣を握りしめた。この短剣の持ち主も命を落としたのだ。マリアの顔がよぎった。


(きっと今も不安な顔をしてるんだろうな...)


みんな帰りを待つ家族や友がいる。異世界人の秋とは違う。


5体のウォリアーに囲まれてるアメリがみえた


弓で援護、だめだ。槍を投げる、だめだ。これもだめだ、これも、これも.....


止まれ。止まってくれ。


アメリさんを失いたくない――――


飾り気のない本音だった。


やさしく秋の背中さすったアメリの温度が支えになった。


守りたい―――


なにを


アメリを。ジンを。イスカをセッカをベリザをパッチを。マリアを


この世界にきて出会った人たちを。


恩を返したい。



気が付くと握りしめた短剣から風魔法が噴き出していた。その風が秋の体を包んでいる。


マリアが死んだ弟に贈ったお守りの短剣。


「ノトス...」


なぜかそう呟いていた。


「これなら....」


その瞬間秋は飛び出していた。アメリのもとへ。


アメリを囲むゴブリンウォリアーに短剣で貫いた。

ノトスの短剣は風で刀身が伸びていた。


風の隙間をなぞるようにゴブリンウォリアーをあっけなく切り裂いた。


「あんた、それ....格が上がったの?」


「よくわからないんですけどアメリさんを助けようと思ったらマリアさんにもらった短剣が

こんなになって....」


「そっか、ロイドの風魔法ね...そっか....くたばってらんないね、、、」


アメリさんの目がすこし潤んだ気がした。




――――――――――――――――――



黄昏の鳥(トワイライトバード)も疲弊しきっていた。


「ベリザ!大丈夫?」


「魔力がもう....姉さんは?」


「さっすがにきついわね。」


フェザーステップで器用に避けていたセッカですらいたるところに血が滴っていた。


「姉さん、わたしをかばってるから...ごめん」


「なーに言ってんのよ、後衛を前衛が守るなんて当たり前でしょ!お姉ちゃんが妹を守るのはもっともっと当たり前なんだから!!」


「よく言った!さすが俺の娘(・)達(・)だ」


集落の入り口が爆発した。火の鳥が黄昏の鳥(トワイライトバード)を守るように旋回し、ゴブリンを

焼きつくした。


「この魔法、母さんの....」


ベリザがつぶやく


「ってことは!父さん!母さん!」


セッカの視線の先、


入り口からゴブリンを殲滅しながら灰色の髪に白いメッシュが入った髪の大剣をもった男と

鳶色の長い髪をしたおっとりとした雰囲気の杖を持った女性がやってきた。


「炎剣のおっちゃん!」


嬉しそうにイスカが駆け寄った。


「獣が避難勧告を届けに来てな、駆け付けてみたんだ。大きくなったなイスカ」


「クレインさん、奥にまだキングがいます」


「そうか、俺はそっちに行くわ。パッチもよく頑張ったな」


いつも冷静なパッチも嬉しそうだ。


「ほらベリザ、手を出して、魔力を分けてあげる。セッカもおいで、ママがぎゅーしてあげる」


「いやよ、恥ずかしい。まだ戦闘中でしょ!」


イスカ達の故郷、ガルサ村からセッカとベリザの両親、クレインとアイビスが来てくれた。

二人は既に引退したが現役のときはA級だったらしい。


たった二人で戦況をひっくり返してしまった。



「おーい大丈夫か!」


ジンが秋とアメリに駆け寄ってきた。


「アキのおかげでなんとか、、、ブンタ!そうか、あんたが助けを呼んでくれたのね」


―――――ァッァァァアアアアァァアッ!!!


「とうとう、おでましか」


ジンが息をのむ。


ゴブリンキングの体がさらに大きくなったのか、集落全体から見えるくらいだった。


「やるぞ!アキ!アメリ!」



アメリはブンタに乗り、ゴブリンキングに槍を振り回し、ムチのような水魔法を容赦なく放った。


次いでジンがゴブリンキングの脚に剣を突き刺し、電撃を流した。


「おいおいまじかよ...」


効いてる素振りはなく、そのままジンにゴブリンキングは丸太のようなこん棒を振り下ろそうとしていた。


そのとき、炎を纏ったクレインがこん棒を持った腕を切り落とした。


「手ぇ貸すぜ」


「助かる」


短いやり取りをかわすと二人はゴブリンキングに切り込んだ。


アメリとアキもそれに続くように追撃した。


いつの間にか切り落とした腕が再生していく。


「こいつはキリがねえな、一気に決めるぞ」


そのクレインの提案に3人が頷いた。



アキが短剣で右足を短剣で切り落とした。体勢を崩し、両手をついた。


アメリが槍で突きを放つと、ウォーターカッターのように細く高圧な水が右腕を貫き、

続いてジンが地面についた左腕を水平に切り落とした。


そして地面に倒れたゴブリンキングを火を纏った大剣でクレインが両断した。



それから程なくして、ゴブリンの集落は一掃された。



・・・・

・・・

・・

・


そうして討伐隊はクレインに招かれて、ガルサ村で一晩過ごすことになった。


ガルサ村の人達は手厚く歓迎してくれた。盛り上がってる討伐隊からようやく抜け出し、


秋はひとり、散歩をしていた。村をでて、静かなところまで。


ひらけた草原に横になった。半月が見えた。


人が死んだ。4人。状況からみれば少ない方だろう。


それでも、秋は4人の死の瞬間を知覚していた。


最期の顔が脳裏に焼き付いて離れなかった。あの時から、まだうまく呼吸ができない。


今まで、なんとなくうまくやってきた。


自分になにかできた...とは思わない。状況が悪かった。仕方ない。


そう言い切りたいのに、そう言い訳したいのに、それを秋自身に拒絶された。


秋はいかなる時でも、先に弓持ちを先に倒すことを考えた。一番の不確定要素だからだ。


空間知覚がある秋にとってはさほど脅威ではない。でも、他の人は違う。死角から撃たれれば避けるのは難しい。


怖かったんだ。いつかこんな日が来ることが。


秋は知っている。こういう過去は、いつか忘れる―――なんてことはなく、引き摺るように背負って

生きていくのだ。


そうして降ろすことのできない荷物ばかり増えていく、それがいままでの、そしてこれからの秋の人生だ。


ずっと睨まれている気がする。狼がいまかいまかと秋が弱るのを狙っているようなそんな錯覚。


空間知覚でも捉えられない悲劇がすぐそこまで近づいている気がする。


―――自分に降りかかる不幸ならどうにかこうにか乗り越えられる。

でもベリザに不幸が降りかかると思うとほんとにこわいの。おかしいよね――


そう言って笑ったセッカのことを思い出した。


「お。いたいた」


「こんばんは~いい夜ね」


声がして起き上がると、クレインとアイビスさんがいた。


「こんばんは、お二人はどうしてこんなところに?」


「うちの娘達とパーティ組んでんだって?世話になってるみたいだから話してみたくってな」


そうクレインは言った。


「すみません、こちらから挨拶すべきでした、世話になってるのは俺の方です」


紛れもない秋の本音だった。


「ベリザもセッカも感謝してたぞ?だがその、なんだ、ガキだけのチームでやっぱやりづらいか?」


こんなとこまでひとりできた秋になにかしら察したようだ


「いえ、やりづらいなんてことはないです。むしろ自分にはもったいないとすら感じます」


「あなたのその眼....授かりものね?きっと抱えてるものも多いでしょう?」


月暈(つきがさ)に気づいた人ははじめてだ。

抱えてるもの....異世界人であること、そして最近気になるのは狼の災いだ。狼から逃げれなくなるという呪いだけではない気がする。


打ち明けてしまえば解決しないまでも気持ちが楽になるのだろうか?


なんとなくそうは思えなかった。


元の世界でも秋は誰かに相談するという行為をしたことがなかった。


ひねくれた考えかもしれないが、自分が長い間悩んで出ない答えをたった今相談したばかりの人間が

答えに辿り着けるとはどうしても思えなかった。


もっとシンプルに言えば自分の弱い部分をさらけ出すほど他人を信用できなかった。


大人になればなるほど、人に言えないことが増えていったように思う。


「貴方は抱え込む性格のようね。いつか理解してくれる人が現れるわきっとね!」


そういってアイビスはいたずらっぽく笑って、秋の猫毛の黒髪を撫でた。


人に撫でられたことなんてあっただろうか?


いつか、、、


25年生きても現れなかったそんな誰かにこの世界でなら会えるのだろうか?


「ありがとうございます。黄昏の鳥(トワイライトバード)にもう少しお世話になります」


「こっちこそ娘たちをよろしくな!しっかしお前はその若さで武器の格を上げたってのにもっと胸を張れよ!」


そういって強引にクレインは秋と肩を組んだ。


「いや、あの短剣は借りたもので....もともと俺の物じゃなくて....」


「でも、お前が今日格をあげたんだろ?ったく、その自信の無さは英雄とは程遠いな!」


そういって高笑いしている。


「てか、酒くさ!近いですって」


「お前も飲める歳なんだろ?こんなとこいねえで飲むぞ!」


そういって引き摺られるように秋は村に連れていかれてしまった。



少し心が軽くなった気がする。


そうして長い長い一日が終わった。

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