15話 遠回りする雛
押し寄せるスケルトンに苦戦する中、
杖を持ったスケルトンが黄昏の鳥に向けて火球を放った。
「みんな、俺の後ろへ!!」
パッチはそう言って火球の音波を放ち、相殺した。
それだけじゃない。パッチはナイフがヌルっと頭蓋骨へ入っていく。
刃を振動させ、超音波カッターのような使い方を模索しているらしかった。
今のところ、戦闘に使えるかは怪しいが、後ろをとった不意打ちには効果を発揮しそうだ。
秋と同じく、火力不足を感じていたパッチはちゃんと手探りで解決策に辿り着こうとしている。末恐ろしい。
秋はノトスの風で飛び上がり、スケルトンたちを見下ろした。そして空中で弓を構え、杖持ちに矢を放った。
続けていつも通り、弓持ちを優先的に狙い撃った。
イスカは跳躍し、盾でスケルトンの群れを押しつぶした。衝撃で何体も吹き飛んだ。
「かかってこいやぁ!!」
雄たけびがビリビリとスケルトン達を怯ませているようだった。
すかさずイスカはスケルトン達を薙ぎ払った。
以前に比べ、膂力が見違えるほど向上してる。力で圧倒しているおかげでスケルトンがはじけ飛んでいく。
戦うにつれて力を増してるような気がする。起死回生のスキルの効果なのだろうか?
セッカはフェザーステップでひらりと躱し、的確にカウンターを決めている。力でねじ伏せるイスカと比べ、セッカは相手の動きをみて的確な対応をすることが多くなったように思う。
戦ってるとき時折、楽しそうに笑みを浮かべていた。
完璧にいなすことに楽しみを見出してるようだった。
ベリザはファイアアローをいかに効率的に敵を巻き込むかを意識してるようだった。
曲げてみたり、打ち上げて頭上から落としてみたりコントロールの精度がどんどん良くなっている。
戦闘に楽しみを見つけるところは姉妹の共通点だろう。
秋は風を纏い、空中から切り込んだり、拾ったスケルトンの武器を風を纏わせて投げつけたり
上手く風を扱えるようになってきた。
空間収納で武器をストックすることもできた。
どれくらい戦っただろうか、パーティ全体に疲労が見えはじめていた。
「一度退いて休憩しよう」
そうパッチが提案した。
ベリザが平行に二つの火の壁を作り、その間を秋の風の矢が切り開いた。
そうしてできた道を使ってパーティは離脱することができた。
「このままじゃ埒が明かねえよ!やっぱり明日、王の墓所を攻略しようぜ」
そうセッカが焚きつけた。
「今の俺たちじゃ攻略は厳しいと思う、明日一日あれば、溢れだしたスケルトンは一掃できるから
それに専念しないか?」
「またそれかよ!!アキはもっと俺たちを信じろよ!今の俺たちならゴブリンキングだってっ――――」
「あの作戦だってクレインさんとアイビスさんが来てくれなかったら全滅してたかもしれないだろ!」
死んだ冒険者の顔がよぎって、秋は声を荒げてしまった。
今の黄昏の鳥がゴブリンキングと戦って全く歯が立たないとは思わない。
でもそれ以上に、アメリとジンは強かった。万全な状態だったら、クレインさん無しでもゴブリンキングに勝てたかもしれない。
そしてそれよりもクレインとアイビスは別格だった。
クレインだけでゴブリンキングに勝てたかもしれない。
アイビスだって一人でゴブリンの群れを燃やし尽くせたかもしれない。
もし、ゴブリンキングに黄昏の鳥だけで挑もうと言われたら
秋は間違いなく反対するだろう。
「だ、大体今日、苦戦したのはアキが索敵をミスったせいだろ!!あれがなきゃ上手くいったはずだ!」
「それは....」
返す言葉もなかった。秋がパーティを危険にさらした。それは紛れもない事実だった。
「みんなはどうなんだよ!このまま、入り口のスケルトンだけ倒して、それで帰れんのか?
また溢れ出したら、苦しむのは近くのドレッド村の人達なんだぞ!?」
ああ―――――――――
こんな言い方をされたらきっと黄昏の鳥は止まらない。
身を焦がして焼け落ちるまで上を目指して飛んでく。
まぶしくてこわい。
無謀でうつくしい。
理解とは軽蔑なのだろうか
秋は薄暗い感情を自覚し自己嫌悪で押しつぶされそうになった。
セッカが肩に手を置いた。
「わたし、がんばるから」
きっといろんな思いがこもった言葉だった。
うん、うんと後ろからベリザが強くうなずいていた。
肩に置かれた温度に寒気がした。
そしてドレッド村に戻っていった。
月を見上げた。もうほとんど満ちかけていた。
影が狼に見えた。まるであざ笑うように月の光にゆらゆら揺れていた。
「これでいいのかな」
月は答えない。
「わっかんねえや」
ちゃんと黄昏の鳥向き合えていたのだろうか。
秋はいつも気持ちがいいくらい真っ直ぐなイスカが好きだ
実は気配り上手で、女の子っぽく笑うセッカが好きだ
口には出さないが思慮深く周りのことを思っているベリザが好きだ
好青年で大人っぽく話しやすいパッチが好きだ
振り返ったら、みんなのことを何も知らないことを思い知る。
元の世界でも何度も味わった後悔だ
もっとちゃんと向き合っていたらこうはならなかっただろうか?
それとも死ぬまでこうなる運命なのだろうか。
他のメンバーは今、話し合っているだろうか
今俺はどんな顔をしてるのだろう―――――――――
何度もパーティのことが頭で反芻して寝付くのにひどく時間がかかった。
・・・・
・・・
・・
・
日が昇り、パーティは持ち物を確認していた。
「ポーションは俺が空間収納で持つより、一人一人が持った方がいいと思う」
秋は不安要素を消したかった。自分が死んだり、はぐれる可能性を考えての提案だった。
みんな受け取ってくれた。提案の意味を理解したのだろう。
静かに集中して馬車で荷物を整えていると、もじもじとイスカが声をかけてきた。
「アキ、その、昨日は――」
「勝つぞ」
秋は言葉を遮り、ただそう言って笑いかけた。
「お、おう!!」
イスカは一瞬驚いたがいつものイスカに戻り、そう答えた。
それを見たパーティも伝播するように笑った。
取り返しのつかない溝が生まれているのかもしれない。
今日の選択が正しいのかもわからない。
それでも今日を乗り切らなければならない。
そう強く思った。
「あ、アキさん....」
「ん?」
「わ、わたし、アキさんの力になれるよう頑張りますから!!」
そうベリザは力強く宣言した。
「ああ、お互いがんばろう」
改めてベリザを見た。前髪の隙間から目が見えた。
「ベリザはお母さん似だな」
「そ、そうですか?自分じゃわかりません」
「うん、おっとりした目っていうか、、いつも前髪で隠れてるからわからなかった」
目をだせばいいのに、と思ったが口には出さなかった。本人が気に入ってるならそれでいい。
「な~に?アキはわたしがお父さん似だって言いたいわけ??」
セッカがそう問いただしてきた。
「別にそうは思わないけど、てかどっちに似ても美形でうらやましいけどな」
「そっかなあ?アキはここら辺の顔つきじゃないよね、似てはないけどジンさんっぽいというか...髪も黒いし」
元の世界では、同年代より年上にかわいがわられ、年下にモテていたきがする。
同年代から見れば頼りないのだ。
年上から見れば頼りないのも当たり前だから気にならず、
年下から見れば大人っぽくみえる。
印象というのは曖昧で秋もまた印象に左右される程度の顔なのだろう。
子供には無駄になつかれるし、老人には男前だと持て囃される。
年が離れるほど顕著だったように思う。
ただ異世界では美醜の基準も違うだろう。マリアさんもアメリさんも、無精ひげをなんとかすればジンさんも、顔が整っているように見える。
隠すのにも限界がきていた。今日を乗り切ったら、異世界人だと打ち明けてもいいかもしれない。
どうあれちゃんと話すべきだ。
今までどう生きてきてこれからどう生きるのか
仲間として。
様々な思いを抱え、黄昏の鳥は王の墓所に挑む―――――――




